第25回 高血圧ゼロを目指す、循環器疾患予防の最新トレンド!―家庭と地域での取り組み―
循環器病は、心疾患や脳卒中を含み、医療費の約4分の1を占める深刻な課題である。特に心不全は高齢者のフレイルとも関連し、再入院や死亡率が高いことが問題となっている。そのため、東京都では心臓病総合支援センターを設置し、地域連携や在宅支援、医療DXを活用した包括的支援を推進している。そこでは心臓リハビリや相談窓口の整備、市民参加型の啓発活動や、医療と社会が一体となった支援体制の構築が進められている。東京 脳卒中・心臓病等総合支援センターでの取り組みについて、磯部光章氏にご講演いただいた。
循環器病の現状と医療経済への影響
磯部氏ははじめに、心臓病と脳卒中を合わせた「循環器病」が介護の主因であり(図1)、医療費の約4分の1を占める深刻な課題であると指摘した。特に東京都では心疾患による死亡率が全国平均を上回っており、がんと並ぶ主要死因となっている。平均寿命と健康寿命の差を埋めるには、循環器病の予防と再発防止が不可欠と考えられている。特に慢性心不全は、あらゆる心疾患の「末路」とも言われ、年間12万人以上が入院し、1人あたり約100万円の医療費を要する。単純計算でも1兆円を超える規模となり、医療経済の持続にも大きな影響を与えている。治療法や薬剤の進歩にもかかわらず、再入院率や死亡率は依然として高く、現場では「良くなった実感が得られない」という声も多いという。
図1. 介護が必要となる主な原因
心不全のステージと多面的な課題
心不全はABCDの4つのステージで進行し、症状が出る前のA・Bステージからすでに病態が始まっている。そして実際に症状が現れるC・Dステージでは、入退院を繰り返しながら徐々に悪化をたどる。さらに高齢者の心不全では心機能の低下だけでなく、認知症、腎疾患、糖尿病などの併存疾患、栄養不良、筋力低下、社会的孤立といった「フレイル」が複合的に絡み合う。
磯部氏は「心臓病は人生の終盤に現れる病気であり、医療だけでなく社会全体で支える仕組みが必要」と強調。個々の患者の人生の背景や、生活環境をふまえた包括的な支援が求められると述べた。治療の主軸は「幸せな老後の生活を送るための支援」であり、医師だけではなく看護師や薬剤師、リハビリテーションスタッフ、ソーシャルワーカーなど多職種による連携が不可欠となる(図2)。
図2. 多職種心不全チームの役割分担と連携
心臓病総合支援センターの設立と地域連携
厚生労働省は「循環器病対策基本法」に基づき、全国で「脳卒中・心臓病総合支援センター」の設置を推進している。東京都では、榊原記念病院、日本医科大学付属病院、武蔵野赤十字病院の3施設が連携し、支援センターとして活動している。センターの役割は、患者支援、相談窓口の設置、心臓リハビリの普及、両立支援、移行医療など多岐にわたる。
東京都内の急性期病院約80施設に実施した「患者支援に関する実態調査」では、相談窓口の設置率は30%未満、外来リハビリの実施率は40%台と、支援体制の整備が急務であることが明らかになった。磯部氏は、都内12二次保健医療圏から20病院以上を集めた心臓病支援センターを立ち上げ、相談窓口の設置支援や外来リハビリ導入支援を進めている(図3)。
図3. 心臓病総合支援センター
両立支援・在宅支援・医療DXの活用
さらに磯部氏は、心臓病患者の仕事の治療の「両立支援」の重要性を強調。特に若年層の患者は、退院後に元気に見えるため、職場での理解が得られにくく、復職に困難を抱えるケースが多いという。東京 脳卒中・心臓病総合支援センターを中心とした各病院では、患者・家族・企業・医療者が連携し、時短勤務や業務調整などを含めた支援を行っている。
また、榊原記念病院では、在宅医療と連携として「退院支援カンファレンス」を実施(図4)。病院スタッフ、訪問看護師、在宅医師が情報をオンラインで共有し、患者の生活環境に応じたケアプランを作成している。さらに、携帯型心エコーを在宅医に貸し出し、研修や病院医師との情報共有も行うなど、遠隔診断を支援する医療DXの取り組みも紹介した。
図4. 退院支援カンファレンス
心臓リハビリテーションと相談窓口の整備
心臓リハビリテーションは、運動療法に加え、栄養指導、服薬管理、社会的支援などを含む「包括的リハビリ」として位置づけられている。磯部氏は「薬よりもリハビリの方が効果的」と述べ、早期介入と継続的支援の重要性を強調した。しかし、全国的に外来リハビリの実施率は低く、東京都でも40%台にとどまっている。また、相談窓口の設置率も30%未満と低く、患者が退院後に不安を抱えたまま生活するケースが多いという。榊原記念病院では、月1,000件以上の医療相談が寄せられ、救急受診の抑制や早期対応につながっている。こうした窓口の整備は、医療の質向上と業務効率化の両面で効果を発揮している。
啓発活動と市民参加型の取り組み
東京 脳卒中・総合支援センターでは、都民への啓発活動として「心臓を守る親子教室」や「先天性心疾患ピアサロン」から、料理教室や運動教室、薬の正しい知識を学ぶ教室などを開催。患者自身が自分の心臓を守るためにできる「栄養・運動・薬」の3本柱を学ぶ場として機能している。特に子ども向けの教育では、野球選手やサッカー選手との交流を通じて、楽しく学べる環境づくりが重視されている。
最後に磯部氏は、地域企業との連携や、医療者・市民の協働による啓発活動は、心臓病予防の社会的基盤を築く上で欠かせない取り組みであり、「上から目線の教育ではなく、子どもたちの目線に立った啓発が必要」と述べ、正しい知識を広めていくことの重要性を訴えた。
図5. 脳卒中・心臓病等総合支援センターによる都民への啓発活動
INDEX
- 第25回 高血圧ゼロを目指す、循環器疾患予防の最新トレンド!―家庭と地域での取り組み―
- 第24回『心房細動』の診断・治療における最新トレンド―AIや家庭で取得したバイタルデータを活用した早期発見の可能性―
- 第23回 日常に潜む脳卒中の大きなリスク、『心房細動』対策のフロントライン―心不全の合併率も高い不整脈「心房細動」の最新知見―
- 第22回 高血圧パラドックスの解消に向けて―脳卒中や認知症、心不全パンデミックを防ぐために必要なこととは?―
- 第21回 健康を支える働き方改革「スローマンデー」の勧め―血圧と心拍数が教える健康的な仕事習慣―
- 第20回「家庭血圧の世界基準を生んだ「大迫(おおはさま)研究」30周年記念~家庭血圧普及のこれまでとこれから。最新知見とともに~
- 第19回「足元のひえにご注意! 気温感受性高血圧とは?」~気温と血圧、循環器病の関係~
- 第18回「2015年問題と2025年問題のために」~循環器疾患の予防による健康寿命の延伸~
- 第17回「ネット時代の健康管理」~生活習慣病の遠隔管理から被災地支援まで~
- 第16回「突然死や寝たきりを防ぐために…」~最新の動脈硬化性疾患予防ガイドラインから~
- 第15回「眠りとは?睡眠と循環器疾患」?こわいのは睡眠時無呼吸だけではない?
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- 第13回日本心臓財団メディアワークショップ「心房細動治療はこう変わる!」
- 第12回日本心臓財団メディアワークショップ「新しい高血圧治療ガイドライン(JSH2009)」
- 第11回日本心臓財団メディアワークショップ「CKDと循環器疾患」
- 第10回日本心臓財団メディアワークショップ「特定健診・特定保健指導と循環器疾患」
- 第9回日本心臓財団メディアワークショップ「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」
- 第8回日本心臓財団メディアワークショップ「動脈硬化を診る」
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- 第4回日本心臓財団メディアワークショップ「高血圧診療のピットホール:家庭血圧に基づいた高血圧の管理」
- 第3回「突然死救命への市民参加:AEDは革命を起こすか」
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- 第1回 「アブラと動脈硬化をEBMから検証する」


