疾患別解説

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乳児の先天性心臓奇形の手術治療

2歳 女性
2004年12月23日

先天性心臓奇形の2歳の娘についてのご相談です。
単心室、肺動脈狭窄、共通房室弁逆流、奇静脈結合、右胸心、という症状で、1歳8ヶ月時にTCPCと弁形成術の手術を受けました。
元々状態は良く、発育も良好で、手術時に体重は11kgありました。術後も良好で、とても上記の症状を持つ子とは思えない元気さです。酸素飽和度は術前70前後だったのが、80程度に改善し、チアノーゼもほとんど目立たなくなりました。
術後、外科の先生のご説明では、弁の逆流は中の上程度、肝臓から戻る血流を肺につないでTCPCを完成させる手術を半年以内に行いましょう、とのことでしたが、内科の主治医のご意見は、状態が良いので、あせって手術のリスクを冒す必要はない、状態を見て時期を決めましょう、とのこと。意見が分かれている状況です。

親としては、人工弁による生活への制限(ワーファリンの服用、出産不可など)を考えると、できるだけ人工弁の手術は先に延ばしてあげたい、との思いがあり、TCPCのみ先に行うこともありうるのではないかと思うのですが、その場合のリスクはどういうものがあるのでしょうか。弁の逆流とTCPCとの関係はどの程度のものなのでしょうか。
専門家の意見が分かれている事例ですので、難しいケースなのだろうとは思うのですが、少しでも多くの先生のご意見を伺ってみたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。

回答

単心室、肺動脈狭窄、共通房室弁逆流に対するTCPC手術は比較的新しい方法なので、手術適応、術後経過などが、十分に明らかになっていません。このため、医療を提供する側も、一定の治療基準を持っていないのが現状です。ご両親の思い、そして、手術に関して迷われることももっともだと思います。
さて、多くの場合、単心室は、全身に血液を送り出すために十分な形をしていませんし、その働き(心機能)も十分ではありません。個人個人によって違いはありますが、血行動態(血液の流れ)の変動に反応して心臓が拡大しやすく、このため、房室弁の逆流も悪化しやすいという特徴があります。房室弁の逆流が悪化すると。心房の血圧上昇、ひいては肺動脈血圧が上昇して、TCPCの血液の流れが悪くなり、心不全を招くことがあります。また、心房に逆流した血液が、再度、心室にも戻りますので、心房心室もさらに拡大するという悪循環を生じます。また、このために、心房性不整脈を伴うこともあります。さらに、血液の循環が悪くなると、TCPC経路を含む血液の流れが悪くなり、血栓を形成することもあります。このような状態に陥らないためは、房室弁逆流を可能な限り少なくする必要があります。場合によって、心不全治療(強心剤、利尿薬、血管拡張薬など)を行います。また、房室弁逆流が、高度で、内科的にコントロールしにくい場合は、房室弁逆流を軽減する手術が必要になります。また、肺血流量が多いと心房、心室への血流量も増加しますので、肺血流量の多い状態(大
動脈肺動脈吻合術後など)で、房室弁逆流が高度の場合は、肺血流量を軽減するために、大動脈肺動脈吻合を結紮し、TCPCに変更することがあります。
TCPCと房室弁逆流の関係は、少し難しい話です。一般的には、TCPC後に房室弁逆流が増加することはありませんが、患者さんの現在の肺動脈血流量が多くないとするならば、TCPCを行うことにより、正常と同程度の肺血流量が流れることになりますので、(下半身の血液もすべて、肺動脈を通過することになります)、房室弁逆流が増加する可能性があります。
医師の意見が分かれているとのことですが、基本的な考え方は同じだと思います。チアノーゼを軽減させたいことと房室弁逆流の増加を防ぎたいことです。また、人工弁は入れたくないことも同じです。しかし、手術のタイミングについての意見が異なります。単心室の場合は、房室弁逆流を形成手術により満足のいく程度まで、軽減させられるか、あるいは軽減した状態が持続するかどうか術前の予想が難しいことが少なくありません。また、TCPCなどの血流の変換を行うことにより房室弁逆流が増加する可能性も否定はできません。外科医、病棟の先生の、なるべく早く手術をしたいという考え方もわかります。房室弁逆流が増加し、心不全が悪化してからですと手術も難しいし、術後の回復も十分でないことがあります。一方、受け持ちの先生の、手術は少し様子を見てからという考え方ももっともです。TCPCと確実ではない房室弁形成の手術(あるいは置換術、この場合は、生体弁を入れることになるかと思います)を行い、状態が悪化しないとも限らない。それなら、現在の良い状態のままからだが大きくなることを待って、悪化する傾向があれば手術に踏み切りたいという考え方もありま
す。
繰り返しますが、この手術には、手術時期について一定の基準がありません。個々の患者さんの状態、房室弁逆流の程度、心機能、うけもち医の経験、ご両親の考え方などに左右されます。子どものチアノーゼの程度、全身状態、心機能などを受け持ちの先生によくみてもらいながら、時期を決めていくことが大切だと思います。

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