循環器病のトピックス

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心原性脳塞栓とは?

2024年03月18日 脳梗塞・脳出血

第59回日本循環器病予防学会学術集会 市民公開講座
予防に勝る治療なし!"SEGODON Project(セゴどんプロジェクト)

2023年6月4日(日)かごしま県民交流センター
主催:鹿児島大学大学院医歯学総合研究科心臓血管・高血圧内科学/第59回日本循環器病予防学会学術集会
共催:公益財団法人日本心臓財団

講演1

心原性脳塞栓とは?

松岡秀樹(鹿児島医療センター脳・血管内科 部長/脳卒中センター長)

心房細動が原因で起こった脳塞栓(脳梗塞)、心原性脳塞栓症とはどんな病気なのかということをお話しさせていただきます。
心原性脳塞栓症という病名は、あまり聞きなれないと思いますが、脳卒中の中の一つです。その中でも心原性ということで心臓が原因で起こる脳の塞栓症、血管の閉塞によっておこる脳梗塞です。

はじめに脳卒中全体のお話をさせていただきます。
日本人の死因と鹿児島県民の死因を比較してみますと(図1)、どちらも悪性新生物(がん)が死因の1位、心臓の病気が2位、最近では老衰が3位になり、脳卒中は4位です。ただ、鹿児島県は、人口10万人当たりの脳卒中による死亡数が、全国平均85人に比べ鹿児島県は111人と、全国平均より約1.4倍であることが問題になっています。脳卒中による死亡をいかに減らしていくかということが、鹿児島県の大きな検討課題です。
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もう一点は健康寿命です。日本人の平均寿命は、女性約87歳、男性約81歳ですが、健康寿命(人の手助けなく自分で生活のすべてができる状態で健康に過ごせる年齢)をみますと女性は約75歳、男性約72歳であり、平均寿命との差が女性では約12年、男性では約9年間、何らかの手助けを必要として生活しなければいけないことが問題になっています。この健康寿命を縮める原因として、寝たきりになる原因の4分の1を脳卒中が占めており、さらに最近は認知症が増加して4分の1くらいになっています(図2)。
しかし、この認知症の原因も、3~5人に1人は脳卒中といわれておりますので、いかにこの寝たきりや要介護状態の原因として脳卒中の占める割合が大きいことがおわかりいただけるかと思います。
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この脳卒中には、血管が破れて起こるものと血管が詰まって起こるものがあります(図3)。血管が破れて起こるものには、脳の中の血管が破れる脳出血と、脳の表面の大きな血管にできたこぶ(動脈瘤)が破れて起こるくも膜下出血があります。この血管が破れる出血タイプが脳卒中全体の3~4割を占めます。
一方で、血管が詰まって起こる脳梗塞は、脳卒中全体の6~7割を占めます。そのうちラクナ梗塞は脳の中の毛細血管のような細い血管が詰まって起こるもので、多くは高血圧が原因で血管が傷んで詰まるものが多くなっています。アテローム血栓性脳梗塞は、動脈硬化が脳の大きな血管に起こって、その結果、だんだん詰まっていくものです。そしてもう一つが、今日の話題となっている心原性脳塞栓症です。脳卒中全体の約2割が心原性脳塞栓症です。
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心原性脳塞栓症は、心臓の中に何らかの原因があって血栓ができて、それが動脈を流れていって脳の血管で詰まる病気です。すなわち、もともと何もなかった血管に、大きな血栓が流れてきて突然詰まるので、今さっきまで元気だった人が突然倒れてしまう病気です。心原性脳塞栓症は脳梗塞の中で最も重症で、しかも突然起こり、その結果、人生が急に大きく変わってしまいます。

では、心原性脳塞栓症を起こした患者さんがどのような転帰をたどるのでしょうか。私どもの急性期病院は、脳梗塞を起こした患者さんを最初に治療する病院です。退院するときの状態を見ていただきますと(図4)、幸いにして治療も進歩しているため、早く病院に到着して治療が奏功すれば、不自由なく生活できる状態に戻る方が約3割(29%)います。少し障害が残って不自由があるがなんとか身の回りのことは自分でできる患者さんが11%、ある程度介助が必要であるが、自分自身で歩ける患者さんが10%、残りの患者さんのうち、18%は車いす生活、約2割(19%)はほぼ寝たきりで、すべての動作に介助が必要になります。そして12%の方は最初の脳梗塞の発作で亡くなっています。ですので、心原性脳塞栓症を起こすと約半数の方が車いすか寝たきり、あるいは命を落とすこととなってしまいます。どれほど重篤な脳梗塞かがわかると思います。
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先ほど大石先生より、がんに比べて心不全の余命が短いという話がありましたが、心原性脳塞栓症の平均余命は約5年といわれています。ですから心原性脳塞栓症の余命もがんより短く、最初の脳梗塞で亡くなられる方もいますし、最終的な合併症で亡くなる方もいますので非常に重篤な病気です。
心原性脳塞栓症は心臓の病気がもとになっていますが、そのなかでも心房細動という不整脈が原因の多くを占めております。全国的なデータでは原因疾患の3分の2以上と書いてありますが、私どもの病院では心原性脳塞栓症の患者さんの約9割が、心房細動が原因となっています。それ以外には心筋梗塞や弁膜症などがあります。心房細動が起こると、心臓の中の心房というところの動きが悪くなり、不規則に震えてしまうということで、その結果、血液がよどみを起こし血栓ができやすくなります。この血栓が血管を通って飛んで脳の血管をふさぐのですが、心原性脳塞栓症の患者さんの血栓をカテーテル治療で取りますと、非常に大きなかたまりで、このようなものが脳の血管に詰まれば大変重症になることがわかります。

この心原性脳塞栓症を含めた脳卒中発症の年齢分布をみますと、どの年代でもこの心原性脳塞栓症は起こりますが、心房細動という病気が高齢の方ほど起こりやすいと言われており、その結果として80歳以上の高齢の方では心原性脳塞栓症がもっとも多くなっていますので、高齢の方は注意が必要です。

心房細動になった方に、心原性脳塞栓症を起こす危険度をチェックする指標(CHADS2スコア)があります。心不全を併発している、高血圧を合併している、年齢が75歳以上、糖尿病を併発している、が各1点、過去に脳梗塞になったことがあるが2点、トータル6点満点として、点数ごとにどれくらい起こしやすいかを見てみますと(図5)、0点でも年間2%、心原性脳塞栓症を発症します。若くてほかの危険因子が何もなくても心房細動があるだけで年に2%、心原性脳塞栓症を起こす可能性があり、非常に怖いことだと思っていただけると思います。点数が上がり、6点満点になると、年に20%近く心原性脳塞栓症を起こすということになります。心原性脳塞栓症を発症すれば、半数は寝たきりなどの重症になりますから、予防の重要性がおわかりいただけるかと思います。
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ただし、血栓予防の治療をきちんと行っていれば、脳梗塞の危険度は6~7割も減らせることができます。血栓予防のためには、心房細動の早期発見、早期治療が重要です。心房細動の予防、発見、治療については、この後、くわしくお話しいただけるかと思います。
しかし、どんなに予防しても6~7割で、残念ながら脳梗塞の発症率は0にはなりません。しかし、最近は万が一発症しても、すぐに病院に来ていただければ、うまく治療することもできるようになっています。脳梗塞を発症する前の、こんな症状があったら注意して、すぐに専門の病院に行っていただきたいという項目をお示しします(図6)。
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一番有名なのは、手足や顔のまひですが、大事なキーワードは、「急に」、「片方の」、ということです。急に、片方の手足や顔がしびれた場合、脳卒中の可能性があります。
心原性脳塞栓症の方は重症な方が多いので、もっと重篤な症状、言葉が出なくなる、意識を失う、意識を失った場合には、目が片方ばかりに向いている、半盲といって目が見にくくなる、こういった症状が起こった場合は、大きな脳梗塞の可能性がありますので、すぐに病院に行っていただきたいと思います。

まとめますと、心原性脳塞栓症は、ひとたび発症すると非常に重篤で、突然発症し、その結果、人生が大きく変わってしまうということです。突然なので、ご本人もご家族も受け入れることが難しいことがありますので、なにより予防が重要ということになります。予防という観点からは、原因をきちんと知っていただき、その対処をしていただければ、ある程度は予防できます。原因の多くを占める心房細動を早く見つけて適切に治療を受けていただくことが重要です。そして万が一、脳卒中を起こしたという症状がございましたら、すぐに専門施設を受診することを覚えていただきたいと思います。

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