循環器病のトピックス

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心不全とは、こんな病気です

2021年08月05日 心不全心臓病の予防

85回日本循環器学会学術集会 市民公開講座「心臓病の予防」(2021年3月28日 オンライン開催)

主催:第85回日本循環器学会学術集会、日本心臓財団
協賛:第一三共株式会社

心不全とは、こんな病気です

筒井 裕之 先生(九州大学 循環器内科学 教授)

■ 「心不全」とはどのような病気なのか?

 心臓は全身と肺に血液を送り出すポンプの役目をしています。1分間に約80回、1日約12万回、1年約4,200万回、これを一生涯、寝ている間も休むことなく続けています。

 一方で、「心不全」という病気について、名前は知っていても、「どのような病気かイメージできない」という人も多いのではないでしょうか。

 心不全は、「心臓が止まる病気」と思われがちですが、日本循環器学会と日本心不全学会では、「心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と定義しています。こうして病気の定義をきちんと決めることは、さまざまな対策を講じていくうえでも重要です。

■ 「心臓が悪い」とどうなるのか?

 定義の意味を、一つずつ詳しく見ていきましょう。まず、「心臓が悪い」についてです。先述の通り、心臓は血液を全身に送り出すポンプの役目をしています。このポンプとしてのはたらきが低下していることを「心臓が悪い」と表現しています。

 心臓超音波(エコー)という心臓の形と動きを見ることができる検査がありますが、心不全の心臓は大きくなっており(心肥大・心拡大)、拡張して血液を取り入れたり、収縮して血液を送り出すといったポンプとしての動きも悪くなっていることがわかります。

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 では、なぜポンプ機能が悪くなるのでしょうか。それには、1のようなさまざまな病気が関係しています。なかでも、高血圧(患者数:約4,300万人)に関連する心不全は多く、日本循環器学会と日本心不全学会では、高血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満といった生活習慣病があれば、すでに心不全の「ステージA」に位置づけています。さらに、心肥大や心筋梗塞、心房細動などの不整脈がみられる段階を「ステージB」として、次のステージに進まないための予防・治療を呼びかけています(図2

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■ 心不全の症状とは?

 次に、「息切れやむくみ」についてですが、これらは心臓のはたらきが悪くなることによって起こる心不全の典型的な症状です。症状は原因によって違いがあり、①「体が要求する血液を送り出せないために起こる症状」としては、坂道・階段での息切れ、手足が冷たい、全身倦怠感、日中の尿量・回数の減少など、②「身体に血液が滞ってしまう『うっ滞』によって起こる症状」としては、むくみがあります。心不全のむくみは左右対称で、体重増加が見られるのが特徴です。体全体の水分量が増えることで、体重が2~3㎏以上増加したり、夜間の尿量が増えたり、夜間に呼吸困難が起こることもあります。

 そして、「だんだん悪く」なっていきます。同じように「生命を縮める病気」にがんがありますが、がんは経過が比較的わかりやすく、患者さんは一定の経過をたどって悪化していきます。一方、心不全は、入院しても90%以上の患者さんは退院することができますが、その後、急な悪化と回復を繰り返し、徐々に悪化していきます。症状は改善しても、心不全が治ることはなく、いつ急激に悪化するか分からないため、経過の予測はきわめて困難です。

 心不全による入院も、年々増えています。命を落とすこともあるこわい心臓病としては、急性心筋梗塞がありますが、こちらの患者数は横ばいなのに対し、心不全の患者さんは増え続けています(図3。超高齢社会を迎え、わが国では高齢の心不全患者さんが入院を繰り返すケースがさらに増えることが予想されており、医療現場でも大きな問題になっています。

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 「生命を縮める」という点について、もう一つがんとの比較をご紹介します。心不全患者さんの生存率は、男性では前立腺がん、膀胱がん、大腸がん、女性では大腸がん、卵巣がんの生存率に匹敵するとのデータが英国から示されており、「生命を縮める」という意味では、心不全もがんも同じようにおそろしい病気であることがわかります。

■ 心不全治療とセルフケアのすすめ

 心不全の定義がわかったところで、いかに対策を講じるかをお話ししたいと思います。心不全の治療には、お薬を用いる薬物療法、植込み型除細動器(ICD)などの医療機器を使用する治療、手術療法などがあります(図4。目標は、悪化して生命を縮めないようにすることであり、いろいろな治療を組み合わせながら、重症度に応じて治療法を選択していきます。

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 心不全の治療では、生活習慣の改善、そして規則正しくお薬を飲んでいただくといった日々の自己管理が大変重要になってきます。さらに、心不全が悪くなるには、「きっかけ」があります。心不全の原因になっている病気が悪化している場合は、まず、その病気をきちんと治療をしていただく必要があります。心臓の病気だけでなく、感染症や不整脈、高血圧なども心不全を悪化させる要因ですので、こうした病気をしっかり予防・治療することが重要です。あわせて、生活習慣、とくに塩分や水分のとり過ぎ、身体の動かしすぎ、お薬の飲み忘れなどは、日常生活のなかで気をつけていただくことで、心不全が悪くなるのを防ぐことができます。

 心不全では、日常生活のなかで、ご自身で症状をチェックしていただく「セルフケア」がきわめて大切です。息切れやむくみ、とくにむくみがないかどうかの確認は重要なので、血圧だけでなく、日ごろから体重を測る習慣をつけていただきたいと思います。毎日、体重やむくみなどのチェックを心がけ、悪化の兆しが見られたら、すぐに医師に連絡するようにしましょう。

 心不全は、ならないように予防することが重要ですが、もし、なってしまったとしても、生命を縮める病気だからとガッカリせず、次のステージに進めないための予防が必要です。私たちも、お薬や医療機器、手術などを組み合わせて、懸命に治療をしますし、より有効性の高い新しい薬も登場しています。いろいろな治療手段がありますが、心不全にならないために、心不全を悪くしないために、まずは何よりも予防と日ごろの自己管理(セルフケア)を心がけていただければと思います。

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