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ここまで進化した医療の最先端~再生医療がもたらしたもの~

2018年07月27日 心臓移植・再生医療
~第82回日本循環器学会学術集会 市民公開講座  ③~

         「ここまで進化した医療の最先端~再生医療がもたらしたもの~」
 
宮川繁(大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管外科学
先進幹細胞治療学共同研究講座特任教授)
 
iPS細胞の発見などで、近年、期待が高まる再生医療は、心不全の患者さんにどのような恩恵をもたらしてくれるのでしょうか。今回は、2018年3月に大阪市で行われた第82回日本循環器学会学術集会の市民公開講座(共催:日本心臓財団、協賛:第一三共株式会社)の宮川繁先生の講演から、大阪大学で行われている再生医療の取り組みについてご紹介します。
 
■心不全の新しい治療法として期待される「再生治療」
 まず、心臓の構造、はたらきについて説明します。心臓には四つの部屋があります。全身から還ってきた血液は、右心房から右心室に流れ、肺で酸素を蓄えて、左心房から左心室を通り、全身に流れていきます。こうして、心臓は全身の各臓器に酸素と栄養を運んでいます。
 では、心臓が悪くなるとどうなるのでしょうか。超音波検査の画像で見ると一目瞭然で、まず、動きが悪くなります。また、心不全を起こした心臓は大きいことが特徴です。
 心不全になると、体重増加、坂道や階段で息切れする、ご飯が食べられない、むくみが出る、夜間に呼吸困難や咳が出てなかなか眠れない、などの症状が現れます。こうした症状がみられたら、すぐに循環器内科を受診する必要があります。
 日本では人口減少が続くなか、心不全の患者さんは増加の一途をたどり、2030年には130万人に達する見込みです(図1。これは、神戸市や京都市の人口に匹敵する大変多い数です。再生医療図1.jpg
 治療法としては、軽症で元に戻る可能性があれば、薬物療法やペースメーカによる治療が行われます。しかし、こうした治療では効果が出ない患者さん、さらに、心不全が重症化してしまった場合は、補助人工心臓を埋め込む手術や心臓移植が必要になります(図2
補助人工心臓は腹部から出たケーブルにより、感染のリスクがあるほか、費用が高いなどの問題があります。また、心臓移植は、米国で年間3,000例行われているのに対し、日本は年間40例程度とドナーが大変少ないのが現状です。再生医療図2.jpg
 そこで近年、心不全の新しい治療の一つとして注目されているのが「再生治療」です。 再生治療はどこまで進んでいるのか、心臓は本当に“再生”するのか、今回は「筋芽細胞シートを用いた心不全治療」と「iPS細胞の臨床応用を目指した研究」をご紹介します。
 
■「筋芽細胞シート」を用いた心不全治療
 細胞シートは、東京女子医科大学の岡野光夫教授によって開発された技術で、心不全の患者さんから細胞を採取し、それを培養して、シート状の組織として回収したものです。
 私たちは、下肢の筋肉から取り出した筋芽細胞を培養して細胞シートをつくり、それを心臓の表面に置く新しい治療法を、2001年に開発し、2006年から実際の心不全患者さんに行っています。これまで50名に移植し、症状緩和などの良好な結果を得ています。
 細胞シートは、「心臓の湿布」をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。移植された細胞シートから、サイトカインという薬が出て、それが心臓に運ばれ、新しい血管ができます。そうすると血行がよくなり、心臓がよみがえるというのがこの治療のコンセプトです。手術時間も1時間半程度で済み、心臓血管外科のなかでは簡単な手術です。
 現在、細胞シートは世界初の心不全に対する再生医療等製品として、その安全性と有効性が認められ、一般的な治療として普及しつつあります。とくに日本を含むアジア諸国では、心臓移植が普及していないこともあり、この治療に関心と期待が集まっています。
 さらに、患者さんの負担を減らすため、細胞シートから出る薬を服用するだけで、再生医療が受けられる方法も、現在、開発中です。
 
■「iPS細胞」を用いた心筋治療と臨床応用への期待
 2006年、再生医療に革命が起こりました。山中伸弥教授のiPS細胞の発見です。ヒトの血液や皮膚の細胞を採取し、“山中の4因子”といわれるものを入れると、再プログラミング、すなわち細胞がいろいろな細胞に分化する前の状態に先祖返りをします。この、分化する前の細胞(未分化細胞)を「iPS細胞」といいます。iPS細胞は、心臓の筋肉や腎臓、眼や軟骨、神経などの細胞に成長できるため、病気やけがで損なわれた臓器を修復する再生医療への応用が見込まれており、現在、さまざまな試みが行われています。
 心筋細胞を治療に使うとなると、1人1億個以上の細胞が必要です。そこで大阪大学では、東京女子医科大学と共同で、自動的に大量の心筋細胞をつくる装置を開発しています。
 また、大阪大学では、ヒトの血液から心臓の筋肉を作ることにも成功しています。採取した血液の細胞をiPS細胞にして、先ほどの大量培養装置で心筋細胞を作り、これを集めて心筋細胞のシートを作ります。臨床応用に向けての動きも加速中で、今後、厚生労働省で審査され、実際の心不全治療に心筋細胞シートが用いられる日も近いと考えています。
 iPS細胞は、移植に用いられるだけでなく、心不全の特効薬を見つけるためにも有用です。遺伝性の心不全患者さんから採血して、iPS細胞を作ります。これは疾患特異的iPS細胞と呼ばれますが、このiPS細胞から心筋細胞を作り、心筋細胞から心臓の筋肉を作ります。こうしてできた心臓の筋肉は、患者さんの心臓の状態を再現していることが分かっています。いろいろな薬をかけ、よくなるか悪くなるかを探索して、有効な薬は実際の治療に応用する。こうした試みも、大阪大学で行われています。
 
 このように、再生医療は急速な発展を遂げてきました。開発当初は、ばらばらの細胞を注射器で心臓に移植していましたが、細胞シートの開発により、細胞を塊にして移植できるようになり、さらにiPS細胞の登場で、より有効性の高い心臓の筋肉を移植することができるようになりました。今後、焦点は、「心臓の作製」になってくると考えています(図3。臓器をつくることが可能になれば、根本問題であるドナー不足も解決できる可能性があるため、再生医療の将来に大きな期待がかかっています。再生医療図3.jpg再生医療図まとめ.jpg

 
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