循環器病のトピックス

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心不全を知って、うまく付き合う

2019年06月26日 心不全

心不全を知って、うまく付き合う

              筒井 裕之(九州大学大学院医学研究院 循環器内科学 教授)

 心不全とはどのような病気なのか?

 心臓は全身と肺に血液を送り出すポンプの役目をしています。1分間に80回、1日12万回、1年4,200万回、80歳まで生きた場合、一生で34億回、休むことなくはたらき続けます。これに対し、「心不全」は「心臓が止まる病気」と思われがちですが、日本循環器学会と日本心不全学会では、「心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と定義しています。
「心臓が悪い」とは、心臓のポンプとしてのはたらきが低下していることを意味します。心臓は拡張と収縮を繰り返していますが、心不全の心臓は大きくなっていますし(心肥大と心拡大)、血液を取り入れたり、全身に送り出すといったポンプとしてのはたらきが悪くなります。こうした心臓の形や動きを見るために行うのが、心臓超音波(エコー)検査です。また、心不全になると、心臓から分泌されるホルモンの一種であるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が増えるため、血液検査でもわかります。
 
 心不全の代表的な症状は息切れやむくみですが、それ以外にもさまざまな症状が起こります(図1)。尿量が変化することから、泌尿器科を受診し、心不全が見つかるケースもあります。

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 心不全がなぜこわいのか、病気の経過をがんと比較してみます(図2)。日本人の死因第一位でもあるがんは重篤な病気ですが、大半の患者さんは一定の経過をたどって悪化していきます。つまり、経過が予測できます。しかし、心不全は急な悪化と回復を繰り返しながら、徐々に進行します。症状は改善しても、病気が治ったわけではなく、経過の予測はきわめて困難です。

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 また、実際の心不全患者さんの生存率をみても、男性では前立腺がん、膀胱がん、大腸がん、女性では大腸がん、卵巣がんの生存率に匹敵することが英国のデータから示されており、「生命を縮める」という意味では、がんと同じようにおそろしい病気といえます。

 近年、わが国の心不全患者は増え続けており、日本循環器学会によると、2013年と2018年の患者数は、急性心筋梗塞が6.9万人→7.5万人なのに対し、急性心不全は8.6万人→12.7万人と大きく増加しています。これは入院の数なので、実際の患者数はさらに多いと思われます。また、心不全は75歳以上に多く、急速な高齢化も患者増加に拍車をかけているといえます。

 心不全にならないためには?

 では、心不全を防ぐにはどうしたらよいのでしょう。まず、その原因を知ることが大切です。

高血圧............血圧が高くなると心臓に負担がかかります。
心筋梗塞.........心臓に酸素や栄養を運ぶ冠動脈の血管が閉塞(へいそく)して、筋肉のはたらきが低下します。
弁膜症............心臓の血流を仕切る弁のはたらきが悪くなり、血液が逆流したり流れにく
くなったりします。
不整脈............心房細動などが長期間持続することにより、心臓の機能が低下することが
あります。
心筋症............原因不明で心臓の筋肉のはたらきが低下します。
先天性心疾患...心臓や周辺の血管の生まれつきの異常により、心臓の機能が低下します。

 もっとも多いのは高血圧に関連した心不全です。高血圧をはじめ、糖尿病や肥満、脂質異常症、喫煙習慣がある段階をステージA(生活習慣病)とすると、心肥大や心筋梗塞、心房細動がみられるステージB(心疾患)は、心不全予備軍としてさらに高リスクに位置づけられます。
 ステージAでは、生活習慣病の予防・治療が重要ですし、ステージBでは、原因となる心疾患を治療することが、心不全の予防につながります。

 心不全を悪くしないためには?

 心不全が悪くなる要因として、心不全の原因になっている病気の悪化があります。また、風邪やインフルエンザといった感染症、不整脈、高血圧がきっかけになることもあります。生活習慣では、塩分や水分のとりすぎ、体の動かしすぎやストレス、薬を飲み忘れなどがありますが、これらは日常生活のなかで気をつければ防ぐことができる要因でもあります(図3)。

筒井先生図3.jpg

 なかでも、もっとも気をつけたいのが、塩分のとりすぎです。塩分が多いと血液中のナトリウム濃度が上がり、 これを薄めるために体液量(体のなかの水分量)が増えるため、心臓に負担がかかります。したがって、減塩は、高血圧だけでなく、心不全の患者さんにも有効です。塩分は現在の半分を目標に、塩分の多い加工食品(干物や漬物、練り物など)は控える、汁物は1日1杯にする、調味料に気をつける、麺類の汁は飲まないなど、減塩に努めましょう。

 そして、もう一つ重要なものとして、運動があります。以前は、「心臓のはたらきが悪いと安静」が常識でしたが、現在では、心不全の患者さんにも運動が推奨されています。勝負にこだわるものやいきむ動作のあるものは避け、ウォーキング、サイクリング、ラジオ体操、社交ダンス、水中ウォーキングなどの運動を、できるだけ毎日、1回20~30分行うとよいでしょう。
 ただし、運動がすすめられるのは症状が安定している慢性心不全の患者さんであり、不安定狭心症や大動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症、重症な不整脈など、運動がすすめられない患者さんもいらっしゃいますので、運動する前に、主治医に確認するようにしてください。

 心不全を悪くしないために、食事療法(とくに減塩)と運動療法の重要性をご理解いただけたと思います。しかし、現実は、食事療法や運動療法を日常生活のなかに取り入れて、続けていくのは簡単ではありません。できる範囲で継続するようにしましょう。
「街は無料のジム」といわれています。わざわざジムに通わなくても、車に乗らず歩く、エレベーターでなく階段を使う、自転車をこぐなど、日常生活に運動を取り入れていくことを心がけていただくことが大切です。

 心不全の治療では、重症度に応じて、さまざまな薬剤や埋め込み型除細動器(ICD)などの医療機器が用いられるほか、場合によっては手術、最終手段として心臓移植を行うこともあります。薬の量が多くなりやすく、自己管理が大変な病気ですが、生活習慣の改善や規則正しい服薬は、患者さんにしっかり行っていただきたいと思います。
 同時に、心不全はきちんと治療していても悪くなることがあります。定期的に病院で検査するだけではなく、毎日自分で体重や排尿、むくみなどのチェックを行い、気になることがあれば、早めに医師に相談しましょう(図4)。

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 心不全のむくみ(浮腫:ふしゅ)は、足の甲や足関節など両側にみとめられ、指で押すと痕が残り、ゆっくりもとに戻ってくるといった特徴があります。体重増加を伴いますので、毎日体重を測定し、2~3㎏増えたら主治医に相談するようにしてください。

 日本心不全学会では、心不全の病態や治療法、生活の注意点などについてまとめた『心不全手帳』(第2版)を作成しています。日本心不全学会のホームページからもご覧になれますので参考にしていただければと思います。
(http://www.asas.or.jp/jhfs/topics/shinhuzentecho.html)

 最後に、心不全は「予防できる病気」です。うまく付き合っていくために、ぜひ下記の2点を心がけていただければと思います。


①生活習慣病の治療をきちんと受け、心不全を予防しましょう。
②心不全では日常生活での自己管理(セルフケア)が重要です。(ポイントは『薬・塩・体重』) 

*第83回日本循環器学会学術集会市民公開講座(主催:83回日本循環器学会学術集会、日本心臓財団、協賛:第一三共株式会社)より

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