循環器病のトピックス

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不整脈を知ろう

2016年06月16日 不整脈
不整脈を知ろう
福田浩二(東北大学循環器内科講師)
 
心臓の働きを支配する電気的興奮
 心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割をしています。心臓は4つの部屋に分かれていて、上の2つが心房(右心房、左心房)、下の2つが心室(右心室、左心室)と呼ばれています。
 全身から戻ってきた血液は上の右心房に入り、下の右心室に入って肺に行きます。肺で酸素と二酸化炭素を交換しフレッシュになった血液が左心房に入り、下の左心室から全身に新しい血液を送り出しています。
肺や全身に送り出す重要な役割を担う下の部屋(心室)が、1分間に収縮した回数を心拍数または脈拍といいます(図1)。不整脈図1.jpg
 心臓は、この心室の収縮(心拍数)を1分間に50~90回、1日に約10万回、リズムよく繰り返して、全身に血液を送り出しています。この収縮のリズムを制御しているのが電気的な興奮です。
 右心房に電気的興奮(刺激)を発生する源(洞結節)があり、そこから出た電気的興奮が心房に流れて心房が収縮します。電気的興奮は心房と心室の間にある中継地点(房室結節)を必ず通り、下の心室に流れて心室が収縮します。
 心電図検査の波形は、この電気的興奮の流れを反映しているもので、最初の小さな波が心房の収縮を、大きな波が心室の収縮を現わしています(図2)。不整脈図2.jpg
 不整脈とは、この正常な電気的興奮のリズムが何らかの原因で乱れる状態、すなわち心室の収縮の回数(心拍数)が乱れる状態をいいます。
 
不整脈の種類と脈の測り方
  不整脈は、大きく3つに分けられます(図3)。不整脈図3.jpg
 1つめは心拍数が50回/分未満の、遅い不整脈(徐脈)です。
 2つめは心拍数が100回/分以上の速い不整脈(頻脈)です。
 3つめは脈が飛ぶ単発の不整脈(期外収縮)です。洞結節以外のところから電気的興奮が生じて脈が飛んでしまうものですが、健康診断でよく「期外収縮」という言葉を聞かれるように、健康な人にも現れる不整脈です。
これらの不整脈は、自分で脈を測る(検脈)ことで、ある程度、知ることができます。手首の親指側に橈骨動脈という太い動脈が流れていて、そこを指で押さえると脈を取ることができます(図4)。脈を診るポイントはリズムが一定かどうか、1分間に脈拍がどのくらいかです。10秒間計測して6倍すれば1分間の脈拍数がわかりますので、120回/分以上、または40回/分未満でしたら、かかりつけ医に受診してください。不整脈図4改.jpg
 最近は、携帯型心電計という心電図を計測できる器械もありますし、血圧計でも不整脈を認識できるものがあります。不整脈が起きていることを感じて血圧が80mmHg以下の場合は要注意です。
 
不整脈の症状と危険度
  不整脈の症状により、ある程度、危険な不整脈かどうかを判断できます。
まず危険が大きいのは、血の気が引く、もしくはめまい、失神の症状がある場合です。これは、脈が遅すぎたり、逆に脈が速すぎたりして、心臓から全身に拍出する血液が極端に少なくなっている可能性があります。すぐに病院に行きましょう。
 中等度の危険がある症状は、持続する動悸や、労作時の息切れです。これも心臓からの血液の拍出が十分でない可能性があるので、早めに医療機関を受診しましょう。
 脈が飛ぶという単発の不整脈は、それだけで他に心臓病がなければ、あまり危険はありません。
 
加齢に伴う不整脈:徐脈と心房細動
  不整脈は、心臓病が原因で起こる場合と、加齢に伴って起こる場合があります。加齢に伴う不整脈には、脈が遅くなる徐脈性不整脈と、心房細動があります。
 徐脈性不整脈は、電気の源から電気が出にくくなったり(洞不全症候群)、もしくは電気の流れが悪くなったりします(房室ブロック)。すると、脈が少なくなり十分な拍出ができなくなります。症状としては息切れ、そして重症になるとめまいや失神が起こります。
 治療はペースメーカという医療機器を皮下に埋め込み、少なくなった電気的興奮(刺激)を補います。
心房細動も加齢に伴い増加する不整脈です。本来、源(洞結節)から一定のリズムで発生する電気的興奮が、上の部屋(心房)のあちこちでバラバラに収縮してしまうのが心房細動です。心房細動が起こると、心房は300回/分以上の速さで収縮の興奮(刺激)が起こります。しかし、中継地点(房室結節)でその興奮が適当に間引かれるため、下の部屋(心室)の収縮への影響は少ないのですが、間引き方が速いときには動悸などの症状、遅いときには息切れなどの症状を感じる人もいます。
 心房細動を治療するかどうかは、この症状がつらいかどうかによります。最近では、脈が速い場合の症状には、カテーテル治療が行われています。
 心房細動で注意が必要なのは、脳梗塞の合併症です。心房細動が起こると心房は部分的にバラバラに収縮しますので収縮できないため、血流が悪くなり、血の塊ができやすくなります。その血の塊が血液と一緒に流れて脳の動脈を塞いでしまうことで大きな脳梗塞を起こします。こうした心房細動から起こる脳梗塞は、5年生存率が50%以下ということが知られており、脳梗塞を予防することが心房細動の重要な治療となります。それには血を固まりにくくする抗凝固薬を服用します。ワーファリンが代表的ですが、最近は作用機序の異なる新しい薬も開発されています。
 また、心房細動の患者さんでも、脳梗塞を起こしやすいかどうかは、心臓病、血圧、年齢、糖尿病、脳梗塞の既往といった発症リスクがどれだけあるかによって異なります。 

(第80回日本循環器学会学術集会市民公開講座より)  
2016.6.15掲載

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