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東京マラソンで活躍するモバイルAED隊。救命率は100%

2015年12月16日 その他
東京マラソンで活躍するモバイルAED隊。救命率は100%
 喜熨斗 智也(国士舘大学体育学部 助教/救急救命士) 

 
 毎年2月に開催される東京マラソン。約3万7千人の市民ランナーが走る大規模なマラソン大会です。
 このマラソンランナーの健康と命を守る一翼を担っているのがモバイルAED隊と呼ばれる人たちです。
 実は東京マラソンが2007年に開始されてから、9回の大会が開催されましたが、その中で心肺停止状態になったランナーが7名います。その7名すべてがAEDや心肺蘇生法によって命を救われています。東京マラソンにおける救命率は100%なのです。これはきちんとした救急体制を整え、心肺停止後、早い時間に胸骨圧迫とAEDを行えば、救命率が非常に高くなることを実証しています。
 
 マラソンは近年、多くの市民が参加する人気のスポーツですが、心停止を起こす人数がもっとも多いスポーツでもあります。競技人口と競技時間を考慮すると、心肺停止を起こす確率の最も高いスポーツは剣道と言われていますが、競技人口の多さと競技時間の長さから、人数ではマラソンが一番です。わが国では毎年、マラソンによる心肺停止例が10件近く報告されています。
 様々な距離別に開催されるマラソン大会をまとめて、スタート地点を0%、ゴール地点を100%とすると、とくにレース後半4分の1の箇所で、約7割が心肺停止を起こしています(1)。こうしたデータを考慮しながら、東京マラソンでは綿密に救命体制が整えられています(2)。

マラソン図.jpg  東京マラソンでは、モバイルAED隊と呼ばれる自転車部隊が44名いて、二人一組となり、コース上を約1.5km間隔で、マウンテンバイク(自転車)に乗り、AEDや応急処置を行うための資器材を持ち、巡回します。緊急事態の際はいち早く駆け付け、心肺蘇生法や応急処置を行います。全員が救急救命士です。国士舘大学の卒業生を中心に全国からボランティアで集まっています。
 また、救護naviというスマートフォンのアプリを使用して本部が彼らモバイル隊の動きをGPSによりリアルタイムで把握し、位置などの指示をしています。
 もう一つはBLS隊と呼ばれ、74名の救急救命士を目指す大学生が二人一組になり、AEDを持ち、待機しているチームです。コース中盤までは1kmごと、後半は心肺停止例が多いというデータから、800メートルごとに距離を縮めて待機しています。さらに、コースの最初のほうで待機していたBLS隊はランナーが走り過ぎると後半のコースに移動し、最終的には400mごとにAEDがある体制を構築しています。
 
 AEDの効果や使用法が普及するにつれ、一般の方々の意識も高まってきました。東京マラソンで最近救命されたうちの2名は、近くの駅や交番のAEDがランナーやコース脇でマラソンを観戦していた方などによって使用され、モバイルAED隊が到着する前に電気ショックが行われています。こうしたAEDに対する市民の意識向上と主催者側の綿密な準備が合わさって救命率を100%にしているといえます。
 全国で数多くのマラソン大会が開催されていますが、すべての大会で主催者側が危機管理意識を持って充分な救急体制を準備し、参加者が自らの健康管理はもちろんのこと、日頃から心肺蘇生法を学べば、健康で楽しむべきスポーツの場で命を落とすような悲しい出来事は減らせると思われます。
 
 5年後の2020年には東京オリンピックが開催されます。そこで東京マラソンの経験を活かしたモバイルAED隊をはじめとする救急体制を準備できれば、スポーツ選手の命を守ることに対する日本の意識の高さを世界にアピールできるでしょう。 
2015.12.15掲載
 
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