循環器病のトピックス

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日本人の心臓病は今どうなっているか

2015年05月18日 心臓病の予防
日本人の心臓病は今どうなっているか 
国立循環器病研究センター心臓血管内科部門長  安田聡


1 心臓と血管の働き
心臓は身体で使われた血液を静脈から受け取って、肺に送り、酸素を補給してきれいにして、その血液を動脈から身体全体に送り出すポンプの役割をしています。1分間に3~5リットルほどの血液をまわしているのです。
心臓から送り出された血液を受け取って、全身に送り届けるのが動脈です。動脈は内膜、中膜、外膜の三層構造からできており、これによって血管のしなやかさが保たれています。1人の人間の血管をすべてつなぎ合わせると約10万キロ、地球を2周半できる長さになります。この長い血管のネットワークで、血液を身体の隅々まで送り届けるのです(図1)。
図1血管の構造.jpg
2 血管の老化と動脈硬化
アメリカのジョーンズ・ホプキンス大学の初代内科学教授であるウイリアム・オスラー先生は、「人は血管とともに老いる」といいました。健康な人でも年齢を重ねれば動脈硬化は起きるので、動脈硬化と上手に付き合い、進行を遅らせることが大切です。
動脈硬化とは、年齢とともに血管は傷つき、その機能が低下し、しなやかさが失われてくることです。これは血管の老化といえるかもしれません。
そして、動脈硬化は肌のシワやシミなどの老化現象とは異なり、外からはわかりません。気づかないまま動脈の壁にプラークと呼ばれるコレステロールや脂質などが蓄積した病変組織が進行し、血液の流れが悪くなる結果、ある日突然、狭心症や心筋梗塞といった重大な病気を引き起こすのです。これが動脈硬化の難しさ、怖さです。
また、動脈硬化は心臓病だけでなく、脳卒中や頸動脈の硬化、腎硬化症、大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症など、さまざまな病気の原因になります。
動脈硬化の大きな要因は年齢ですが、脂質異常、高血圧、耐糖能異常、肥満という「死の四重奏」といわれる悪い因子が動脈硬化を進めていきます(図2)。
加齢は仕方ありませんが、死の四重奏は生活習慣の改善で防ぐことが大切です。
図2死の四十奏.jpg3 急激な高齢化と食生活の西欧化
日本では今、急激な高齢化と食生活の欧米化が進んでいます。
日本は他の先進国と比べても高齢化のスピードが速く、2014年で人口の25%が65歳以上(4人に1人)となり、2050年には38.8%が65歳以上になると予測されています。
食生活では、魚の摂取量が減少し、特に若い人の肉の摂取量が増加しています。その影響が「死の四重奏」のひとつ、肥満に繋がっています。今、男性の4人に1人が肥満(BMI 25以上)です。
また、魚の摂取量が減少する一方、脳梗塞、虚血性心疾患が増加しているというデータもあります(図3)。
心臓病は日本人の三大主要死因(癌、心疾患、脳卒中)のひとつになっています。 
図3魚の消費量.jpg

  
4 心不全の増加
日本人の心筋梗塞発症率は、1979年、10万人のうち7.4人だったのが、30年の間に急増し、2008年は27.0人と、約4倍になりました。高齢社会の影響で、80歳以上の女性の心筋梗塞発症患者さんが増えています。
一方、カテーテル治療をはじめとした医学の進歩は、心筋梗塞の死亡率を低下させました。国立循環器病研究センターのデータでも、急性心筋梗塞の院内死亡率が30年前は25%だったのが、現在は約10%に低下しています(図4)。図4死亡率推移.jpg
この救命率の向上は、慢性心不全の増加という新たな問題を引き起こしました。
心不全とは心臓がポンプの役割を十分果たせなくなった状態で、車にたとえるとエンジンの調子が悪くなり、馬力が落ちた状態です。血液を受け取る働きが低下すると、息苦しさ(肺うっ血)や、むくみとなり、血液を送り出す働きが低下すると、疲れやすい、だるい(心拍出量低下)といった症状が出ます。
心不全は心筋梗塞や高血圧などさまざまな病気が原因となる心臓疾患の終末像です(図5)。
こうした心臓病を予防するために、目に見えない動脈硬化の進行を防ぎましょう。加齢は避けられませんが、食生活や運動、禁煙といった生活習慣の改善で、「死の四重奏」を防ぐことが可能です。
図5心不全の原因.jpg
(2015年4月26日 第79回日本循環器学会学術集会市民公開講座「知って得する心臓病の知識」より) 
2015.5.18掲載
 


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