高齢者の心不全

社会の高齢化に伴い、高齢者の心不全が増えています。
息切れや動悸などの症状があっても「年のせい」と思い込んで、そのままにしていませんか?

虚血性心疾患による心不全

心臓の周りには、心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を送っている冠動脈という太い血管があります。この血管の内側に、コレステロールなどが溜まって血液の通り道が狭くなることを動脈硬化といいます。動脈硬化が進んで、血管の内側が狭くなったり、コレステロールなどの固まり(プラーク)が破れて、血管の中に詰まったりすると、心筋に十分な血液が行き渡らなくなり、心筋が酸素不足(虚血)の状態になります(図6)。こうした疾患は「虚血性心疾患」と呼ばれ、代表的なものに、狭心症や心筋梗塞があります。

図6:心筋梗塞になると
図6 心筋梗塞になると

なかでも、心筋梗塞では上記のプラークの破綻によって冠動脈が完全に詰まって、心筋への酸素の供給が突然ストップしてしまうため、心筋が壊死を起こし、強い痛みを感じることになります(図7)。壊死の範囲が広いと、心機能が低下してショック状態に陥ったり、また命にかかわる不整脈が出現したりします。突然死の多くが、こうした心筋梗塞によるものです。発症後は、いかに早く、冠動脈を再開通させるかが、死亡を防ぎ、その後の心臓の機能を保つうえでも重要になります。しかし、高齢者は胸痛などのサインを感じにくく、また、多少の痛みは我慢してしまう傾向があるため、発見が遅れるケースもあります。異変を感じたらすぐに救急車を呼ぶこと、また高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙をはじめとする動脈硬化の"危険因子"を複数持っている方は自覚症状がなくても、定期的に心臓の検査を受けることを心がけましょう。

図7:動脈硬化はどのように起こるか?
図7 動脈硬化はどのように起こるか?

なんとか一命を取り留めたとしても、心筋梗塞を起こした後は、心筋の一部が壊死してしまっているので、心臓は十分な力で収縮できなくなっています。そうなると、死んでしまった心筋の一部にかわって、健康な部分の心筋が頑張り、心臓全体が広がってきます(リモデリング)。そして、元気だった心筋にも負担がかかり、最終的に心臓全体が弱ってしまいます。このように、心筋梗塞後は、徐々に心機能が失われていく「慢性心不全」に悩まされることになります。

一度でも心筋梗塞を起こしたことがある患者さんに対しては、再発予防のため、積極的に治療を行うことになります。危険因子を減らす目的で、コレステロールを下げる薬や血液をサラサラにする薬を飲む必要がありますが、一番気をつけなくてはならないのが、患者さんご自身の生活習慣です。タバコを吸っている人は禁煙する、過度な飲酒を避ける、塩分を控えめにする、といった心臓にやさしい生活を心がけることは、心筋梗塞の発症・再発を防ぐためにも、心不全への移行を遅らせるためにもとても重要です。また、有酸素運動を中心とした適切な運動習慣も重要です。心臓リハビリテーション、つまり個々の患者さんの運動能力に見合った運動療法を続けることによって心筋梗塞後の死亡率が低下することが明らかになっています。

一方、心筋梗塞後の心不全の発症予防のためには、上記の生活習慣の改善に加えて、薬物療法を行います。心筋梗塞後のリモデリングを抑制し、心不全への移行を予防する目的では、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やβ(ベータ)遮断薬という薬が使用されています。

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