子どもの心臓病について

監修:住友直方(埼玉医科大学 国際医療センター 小児心臓科 特任教授)

もし、あなたが心臓になんの疾患もなく、元気に生活しているのであれば、
ぜひ知ってほしいことがあります。

2023年5月 改訂

子どもの心筋症

18歳未満の子どもで、日本全国で1年間に250例ほどの心筋症が発見されています(表1)。心筋症には、心筋が薄くなって心臓が拡大する拡張型心筋症、心筋が肥大して心臓の大きさは変わらない肥大型心筋症、心筋が硬くなって心房が大きくなる拘束型心筋症、左室の心筋の内側に厚いスポンジ状の心筋層を認める左室心筋緻密化障害、右心室を中心に心筋が脂肪組織に置き替わり、心室頻拍、心室細動などを引き起こす不整脈源性心筋症などがあります。なかでも拡張型心筋症は、1歳未満での発症が多く、2014〜2015年では18歳未満の拡張型心筋症が78例中37例(47%)が1歳未満での発症でした(表2)5, 6

表2 心筋症の発症または診断年齢(文献5, 6より)
<1歳 1〜6歳 6〜13歳 13〜18歳 不明
肥大型心筋症 23 9 15 13 0
拡張型心筋症 37 20 11 9 0
拘束型心筋症 3 6 5 0 0
不整脈源性心筋症 0 0 2 3 0
左室心筋緻密化障害 27 9 8 6 0
心内膜線維弾性症 2 0 1 0 0

日本では学校健診の制度が整っているので、小学校、中学校、高等学校入学時の健診で発見されることも多く、症状の出現する前の早期に治療を開始することができます。
どの心筋症も不整脈が誘発されると、突然死などの致死性心事故が起こる可能性が高くなるため、見かけ上は元気でも不整脈を予防するための薬の服用、運動制限、植込み型除細動器の植え込みなどが必要になります。

肥大型心筋症は不整脈を伴わなければ比較的予後のよい心筋症で、5年生存率は8~9割以上です。心筋の肥厚を抑える薬物治療も効果があります。肥厚した心筋により、左心室の出口が狭くなった場合には、アルコールで肥厚している部分の心筋を薄くするカテーテル治療や外科的切除手術が行われることもあります。しかし、完治はできないので、運動制限は必要になります。

拡張型心筋症は初期には心不全に対してベータ遮断薬などの薬物治療、不整脈を抑えるためのアミオダロンなどの投与を行いますが、これらの効果が不十分となった場合には、左心室の収縮不全を改善する目的で、心臓再同期療法のために両心室ペースメーカ(CRT-P)や、両心室ペースメーカ機能付植込み型除細動器(CRT-D)の植込みが必要になることもあります。さらに心機能が低下した場合には、補助人工心臓の植込み、心臓移植が行われます。

拘束型心筋症は数は少ないですが不整脈も起こりやすく、有効な治療方法が少なく、診断した時点で心臓移植対象になる疾患です。

心筋症は原因不明で起こる疾患ですが、遺伝性の場合も多く、肥大型の6割、拡張型の3割、拘束型も多くが遺伝性です。親が心筋症の場合は子どもの検査が必要で、逆に子どもに心筋症が見つかった場合は、家族の検査が必要になります。 なお、遺伝子のタイプによって重症度、進行具合、突然死や不整脈の出る頻度、薬の効果等、わかるようになってきており、心筋症の遺伝子診断は治療の上でも重要となっています。

小児の心臓移植については、2010年に15歳未満の小児の臓器提供が認められるようになりましたが、成人と違ってまだ少なく、2012年6月15日にようやく6歳未満の心臓移植が行われました。日本に限らず世界的に子どものドナーが少ないのが実情です。この原因は、心臓や肺に障害なく亡くなられる場合が少ないこと、ドナーを提供できる施設が限られていることなどが挙げられています(図2)。 また、移植できる心臓は、体重差が3倍までといわれており、10キロの子どもであれば、30キロの大人の心臓までしか移植できず、子どもの場合は体重差が大きいことも移植を難しくしています。2022 年9 月30 日現在、国内にで67人の小児(男33例、女34例、ドナー;成人11例、小児56例、移植時年齢平均9.6 ± 5.8歳)が心臓移植を受けています(図3)
小児でも使用できる補助人工心臓も開発され、本邦でも2015年8月から1歳未満の乳児にも装着可能なベルリンハートEXCORが保険償還され、さらに大きい小児ではハートウェア、ジャービック2000なども使用されています。補助人工心臓は血栓ができやすく、脳梗塞を起こす危険もありますが、補助人工心臓で心筋を休ませているうちに心筋が回復する可能性も稀にあります。しかしながら、一般には使用期間が1~1年半であり、長期に使用できる補助人工心臓の開発には、まだ時間がかかります。

将来的には心筋を再生させる医療も研究されており、移植をしなくとも治療できる時代が来る可能性もあります。

図2 小児脳死臓器提供件数の推移(文献7より改変)
図2 小児脳死臓器提供件数の推移(文献7より改変)
図3 国内の小児心臓移植症例(67人)(文献7より改変)
図3 国内の小児心臓移植症例(67人)(文献7より改変)
DCM=拡張型心筋症、ICM=虚血性心筋症、DM=筋ジストロフィー

文献

  1. 市田蕗子、他:平成25年度希少疾患サーベイランス結果、日本小児循環器学会、2014.10
  2. 市田蕗子、他:平成26年度希少疾患サーベイランス結果、日本小児循環器学会、2015.10
  3. 2022臓器移植ファクトブック、日本移植学会、http://www.asas.or.jp/jst/pro/factbook/
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