講演2:薬剤師発!! 血圧から始める全ステージ志向の心不全医療連携

土岐 真路氏(川崎市立多摩病院/薬剤師)

はじめに

私は病院に勤務する薬剤師です。長年、臨床の薬剤師として勤務する中である悩みを抱えていました。それは、心不全の入院患者さんに対し、病院では多職種共同心不全チームなどを組織し手厚くサポートをしますが、退院すると途端にそのサポートが途絶えてしまうことです。
患者さんによっては、老々介護の介護側として自宅に戻られる場合もあります。退院後は社会的サポートも導入しますが、不十分と感じることも多く、どうにかできないものかと数年にわたりサポーターを探してきました。

サポーターとしての保険薬局薬剤師

「川崎市北部心不全地域連携プロジェクト」

皆さんは、全国の保険薬局(6万951軒/2020年度末)1)が、コンビニエンスストア(5万8,393軒/2020年3月末)2)よりも多いことをご存じでしょうか。
保険薬局にはヘルスケアプロバイダーである薬剤師がいます。それにもかかわらず、彼らは心臓病のケアサポーターとしては、まだあまり前面に出てきていません。彼らとつながることで様々なことができるのではないかと考え、2017年4月から私が勤務する病院がある川崎市の北部エリアにて、慢性心不全の患者さんを地域の保険薬局でサポートいただく取り組み「川崎市北部心不全地域連携プロジェクト」(2017年4月~2021年3月)を始めました。
具体的には、薬局で心不全の中間介入(症状のチェックやセルフケアの教育を継続的に繰り返し行う)を実施することで、患者さんの再入院予防を目指す取り組みです。
取り組みを行って分かったことは、情報共有の難しさです。病院であれば、電子カルテシステムや多職種カンファレンスなどがあり、情報を共有することはとても容易です。しかし、日頃、保険薬局にいる薬剤師は処方箋1枚から疾患などの情報を推察します。このような医療情報のガラパゴス的なところを、われわれ病院薬剤師が間に入ることで、情報を円滑に保険薬局にお渡しし、症状のチェックや指導を強化できる仕組みを整えていきました(図1)。
取り組みに対しては諸々意見もありましたが、病院から地域に患者さんをつなげることは不可能ではないという実感が得られました。また、連携先の薬局で、懸命に対応してくださる薬剤師も多くいました。さらに、それを主治医にフィードバックすることもでき、一部にはとても良い取り組みができたと思っています。

薬薬連携の課題と解決の方策

とはいえ、反省点も多くあります。
前述の通り保険薬局は6万軒もあり、私が勤務する医療圏だけでも約500軒あります。その500軒全てがわれわれの取り組みに協力いただけるわけではなく、患者さんたちの療養の場所も多様です。このような一方向的な薬薬連携だけでは、当然カバーできません。
さらに、今回の対象は一度入院したステージ Cの患者さんとしましたが、その対象が適切だったかという疑問も出てきました。というのは、心不全のDisease trajectoryで初回の心不全入院は、早期心不全ではありません。ここは超えてはいけないレッドラインであり、連携する地域の保険薬局が実力を発揮するのは、むしろ早い段階であるステージA/Bではないかと思ったためです(図2)3)。そこで、もっと連携を強化し協働することで、保険薬局はより実力を発揮できるのではないかと、地域連携のスタイルを再検討しました。

図1 「川崎市北部心不全地域連携プロジェクト」において目指すこと(提供:土岐 真路 氏)


図2 厚生労働省.脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方に関する検討会. 脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方について(平成29年7月)3) より改変


より充実した連携に向けて、「血圧」にフォーカス

心不全ステージA/Bの薬薬連携を模索し、アンケート調査を施行

日本には高血圧患者さんが4,300万人と非常に多く、管理不良の方も多数存在します4)。そして高血圧は、心不全のリスク段階でいうところのステージ Aであることが知られています。

ここで、協働する保険薬局の川崎市薬剤師会の先生方を対象に行ったアンケート調査結果を紹介します。「未加療の高血圧患者さんに気付くことありますか」という問いに、「時々気が付くことがある」「よく気が付く」という回答が多くありました。けれども、「その時に受診勧奨しているか?」という問いには、「あまりしていない」という回答が多く、少しもったいないと感じました(図3)。ステージ Aというリスク段階をキャッチしているにもかかわらず、次につなげられていないのは残念です。
例えば、アムロジピン服用者など高血圧の患者さんについて、その方を高血圧症患者と認知しているか、治療目標未達成であることに「気付いていますか」という問いに対しては、「時々気が付く」「よく気が付く」が合わせて96.9%と、かなり多くの薬剤師が気付いていることが分かります。
しかし、その方への受診勧奨となると、「割とある」「ほとんど毎回そうしている」と回答したのは11.9%、またその情報を主治医の先生に情報提供できているかというと、「割とある」「ほとんど毎回そうしている」は6.3%にとどまります。情報提供の仕組みが整っていないためと推測しますが、こちらも気付けているのに実行できていない、もったいないところだと感じています。
さらに血圧管理について、「いわゆるアウトカムを普段どのように考えて患者指導に活かしているか」も尋ねています。すると、血圧を下げる重要性については知っているものの、その先にある心臓病予防、脳梗塞予防、腎臓病予防という目的は「あまり意識していない」、「知っていても患者指導にはあまり取り入れていない」ことが分かりました(図4)。
このことから、取り組むべき地域連携としては、「なぜ血圧を下げるのか」という情報共有、目線合わせが非常に大事だと思うようになりました。
また、この連携活動は足掛け6年間「心不全の地域連携」と銘打って続けてきましたが、いつも連携している薬剤師たちに、「高血圧が心不全ステージ A(心不全リスク段階)であることを知っているか」という質問をしました。すると「全く知らない」「患者に説明できるほどは知らない」が合わせて58.5%と意外と知らない方が多く、こちらも少し残念な結果でした。

血圧をテーマにした研修会の開催

こういった状況を改善すべく、保険薬局の薬剤師のための新しい心不全地域連携を模索し、2022年度には研修会シリーズを開始しました。参加人数も多く盛況でした。
大事にしたのは、例えば降圧薬であるアムロジピンを服用して「血圧を下げた先に、何があるのか」を知ってもらうこと、「処方箋を見た時に何に気付くべきか」というアウトカムに焦点を当てたことです。
研修会では、「血圧を下げましょう」とシンプルなテーマの下、血圧管理の不良は脳梗塞、心不全、心房細動のリスクになることをお伝えしました。それに加えて、血圧を下げることが患者さんの予後を改善させることは既知のことですから、「血圧を下げる理由とそのメリット」を地域と共有してきました。具体的には、降圧治療のインパクト(SBP 10mmHg/DBP 5mmHg下げることで)として、主要心血管イベントが約20%、脳卒中が30~40%、冠動脈疾患が約20%、心不全が約40%、全死亡が10~15%、各々リスクが下がることなどです4)
研修会に参加する中で、アムロジピンと心不全の関係に気付く方が徐々に増えていったように思います。患者情報がないとはいえ、処方箋でアムロジピンを見たら心不全に意識を向けてもらうように促し、キーワードとしては「高血圧や降圧薬を見つけたら心不全スイッチを入れて、ギアチェンジを」という啓発活動をしています。

循環器病の知識を深めて、患者指導につなげていく

さらに、DOAC(経口抗凝固薬)やアスピリンといった抗血栓薬も処方頻度が高い薬であり、その方々も循環器病であることが多くあります。処方箋でそれら血液サラサラの薬を見た時も、絶対的に降圧管理が必要と思っていただきたいです。
心房細動は心不全のリスクですし、反対に心不全患者は心房細動になります。虚血性心疾患の進行抑制、副作用としての頭蓋内出血を予防するためにも血圧管理は大切です。ステージBでも処方箋からできることは結構ありますので、血液サラサラの薬の処方箋を見かけたら、これも「心不全スイッチ、血圧管理のスイッチを入れてください」と、皆さんにお伝えしています。

入院患者さんを担当する病院薬剤師から、かかりつけ薬局に患者さんの情報連携をするにあたっては、保険薬局の薬剤師はお薬手帳を大事にしているため、お薬手帳を利用したり、紹介状を書いたりする形で対応しています。「この方はこのような病気なのでフォローアップをよろしくお願いします」と、お薬手帳にシールを貼る、お手紙を書くなどしてメッセージとしてつなげています。

図3 高血圧未加療患者における薬剤師の対応(土岐ら: 川崎市における地域薬局での高血圧管理に関するアンケート調査. 第87回日本循環器学会学術集会(JCS2023))


図4 降圧管理に対する薬剤師の認識(土岐ら: 川崎市における地域薬局での高血圧管理に関するアンケート調査. 第87回日本循環器学会学術集会(JCS2023))


心不全ステージ Cの患者さんへの対応

保険薬局においてステージ C以降の心不全患者さんからよく出る質問として、「血圧は高くないが、血圧の薬は飲まないといけないのか」というものがあります。患者さんの収縮期血圧が120mmHg程度である場合、薬剤師が心不全や循環器病のことをしっかり理解していないと、良かれと思って降圧中止に向けた介入をしてしまう場合があるようです。
CHAMP-HFのデータ5)からも分かるように、ACE阻害薬/ARB/ARNIでも用量達成率によって死亡率や入院率といったアウトカムは異なります。よって、こうした質問を受けた際には、なぜ降圧薬が必要かということを理解し、心不全の予後改善に向けた降圧薬服用の必要性を患者さんに説明していただきたいところです。
この意識の統一を図ることで、保険薬局における心不全の管理は変わるのではないかと考えています。

1年継続も難しい、服薬中断の現実

実際、服用を止めてしまう方が多いのも事実です。導入1年後にACE阻害薬で約55%、β遮断薬で24%の方が継続できていないというデータがあります。さらに目標用量まで増やせた方は、同じ1年後においてACE阻害薬で15%、β遮断薬で12%と低値で、目標用量まで増やせない方が大変多いことが分かります6)。海外データですが、日本でもやはり同様の現状があることを実感しています。
こうした状況を改善すべく、われわれ薬剤師が適切かつ効果的にフォローアップを行い、軽微な副作用で中止にならないようサポートすることで、ステージ Cの心不全の予後改善にも寄与できるのではないか―地域とは、このような共通認識を持って行っています。

研修中徐々に高まる患者指導の意識

研修会は全4回実施し、最終的に200~300人の薬剤師に参加していただきました。
前述のように、事前アンケートでは「高血圧が心不全ステージAである」という認識が大変低く、ショックを受けましたが、回を重ねるごとに血圧に対する意識が変わっていくことを実感しました。同じ方が毎回参加しているわけでありませんが、これは大変嬉しいことでした。

今後の展望

地域に根差した研修や啓発活動は、保険薬局の薬剤師のスキル向上に寄与すると考えます。また、今回は触れませんでしたがステージ 0(ゼロ)、つまり、元々何もない方に対しての啓発も必要でしょう。
今年度に私が行った研修は、血圧を突破口にした疾患管理ということで「処方箋から見える心不全の管理」をテーマに展開しましたが、やれることはまだまだあるとも感じています。
一昨日、「冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン」7)を読んだところ、地域医療との親和性がとても高いと感じました。そこで次は、この一次予防のガイドラインを軸に研修を組み立てていければと考えています。
文献
1) 厚生労働省. 令和2年度衛生行政報告例の概況

2) 都道府県データランキング ホームページ. コンビニエンスストア(2020年6月27日閲覧)

3) 厚生労働省.脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方に関する検討会. 脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方について(平成29年7月)

4) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編. 高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版

5) Greene SJ. et al.: J Card Fail. 2022; 28(3): 370-384

6) Savarese G. et al.: Eur J Heart Fail. 2021; 23(9): 1499-1511

7) 日本循環器学会. 2023年改訂版 冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン
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