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心臓を長持ちさせる秘訣って、なに?

 ~第82回日本循環器学会学術集会 市民公開講座 ②~
  
「心臓を長持ちさせる秘訣って、なに?」
 
坂田泰史(大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 教授)
 
 一生休むことなく打ち続ける心臓をいかに長持ちさせるかは大きな課題です。そのためにも、まずは「相手を知ること」から。心臓病がどのような病気なのか、どうやって起こるのかを知って、どうすれば長持ちできるのかを考えてみましょう。2018年3月に大阪で行われた第82回日本循環器学会市民公開講座(共催:日本心臓財団、協賛:第一三共株式会社)で行われた坂田泰史先生(大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 教授)の講演から、あなたにもできる“秘訣”(ひけつ)をご紹介します。
 
■心臓を長持ちさせるためにも、まず病気を知ることから
 心臓は一生にどのくらい打ち続けるかご存じですか。90歳まで生きるとすると、1分間に70回として、70回×60分×24時間×365日×90年で、ざっと33億回です。こうした心臓をどのように長持ちさせるかは、大変重要な問題です。
 中国の思想家、孫子は「彼を知りて己を知れば、百戦して危うからず」という言葉を残しています。これは、相手のことが分かり、自分のことも分かれば、100回戦っても負けないという意味です。同様に、病気も戦いであり、病気のことを知ると心臓を長持ちさせる秘訣も分かるはずですから、今回は心臓の病気について知っていただきたいと思います。
 そもそも心臓の病気は、病態によって二つに集約されます。一つは「心不全」で、全身に血液を送る心臓のポンプとしてのはたらきが何らかの原因で悪くなり、息苦しくなったりむくんだりします。もう一つは「突然死」です。生物はみな死ぬとはいえ、予期せぬ死は避けたいものです。われわれ循環器医の使命は、こうした心臓病を治療・予防することだと考えています。秘訣図1.jpg
 心臓病はどのように進行していくのか、われわれはステージ分類を用いて、軽いほうからステージA、B、C、Dと表現します(図1。ステージが進むにつれて、突然死の可能性も高まると考えられます。ステージAは高いリスクを抱えている方で、心機能が悪くなり始めていますが、まだ症状は出ていません。心臓のポンプ機能はリスクとともに悪化しますが(ステージB)、心臓は何とかして症状を起こさせないよう頑張ります。しかし、ポンプ機能の異常が進み、心不全の症状が現れ(ステージC)、さらに進行すると治療が難しい状況になります(ステージD)。まずは、ステージBとCに絞って秘訣を考えてみます。
 
■心不全の悪循環の原因は「頑張れ」ホルモン!? 秘訣図2.jpg
 心不全がどのように起きるのか図2に示します。心臓のポンプ機能が低下すると、心臓から送り出される血液の量(心拍出量)が低下します。そうなるとそれを受け取る臓器(脳、肺、腎臓、肝臓、筋肉など)の血流も低下して、血のめぐりが悪くなり、血圧も下がってしまいます。人間はある程度の血圧を維持しなければ、頭にも体にも血液が行き届かず、危険な状況になります。そうした状況になると、レニン・アンジオテンシン系や交感神経系が亢進します。分かりやすくいえば、身体の中で「頑張れ」ホルモンが出てきます。この「頑張れ」ホルモンによって、体は水分をため込み(水分貯留)、血液量を増やそうとします。また、血圧を上げるために、血管を締めて圧力を上げようとします(抹消血管収縮)。心臓は筋肉モリモリ、いわゆる「心肥大」の状態になって頑張ります。
 しかし、弱ってポンプ機能の低下している心臓にとって、たくさんの血液を処理したり、圧力が高いところに押し込んだりするのは、重労働です。さらに、心臓が肥大化すると、たくさんの酸素が必要になります。こうした状況になるとポンプ機能がさらに悪くなり、心拍出量が低下、また「頑張れ」ホルモンが出るという悪循環に陥ります。
 「頑張れ」ホルモンが出るのには理由があります。われわれ人類の祖先はアフリカで誕生したわけですが、進化の過程で海から陸に上がったわれわれにとって、陸上でも塩分を確保することは大きな問題でした。そこで、人間の体には陸上でも生きていくためのシステムが備わり、大出血を起こしたり、塩分不足の状況になったりすると、自動的にこの「頑張れ」ホルモンが出てくるようになっています。このお陰で、われわれは三百何十万年のときを越えて、現在に至っています。しかし、現代社会でこうした状況は少なく、「頑張れ」ホルモンはむしろ心不全の悪循環の要因になってしましました。そのため、心不全の状態になっても、「ホルモンはそんなに頑張らなくていい」ということを、薬によって体に教えてあげる必要があります。
 「頑張れ」ホルモンは、正式には「レニン・アンジオテンシン系」や「交感神経系」といいますが、レニン・アンジオテンシン系を抑える薬としてアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、交感神経系を抑える薬としてベータ遮断薬(β遮断薬)があり、これらを服用することで、心不全の状況になった心臓でも、長持ちすることが明らかになっています。心機能が悪くなり、息切れやむくみなどの心不全の症状が出てきたら、早めに病院に行き、こうした薬できちんと治療することが大切なのです。
 
■心臓病とさまざまなリスクをつなぐキーワードは「慢性炎症」
 心不全になる前、ポンプ機能が低下する前の段階(ステージA)で、何ができるか考えるのも重要です。
 心臓のポンプ機能に影響するパーツ(因子)は、大きく分けて四つあります。心臓に血を届ける「冠動脈」、心臓を規則正しく動かすための「刺激伝導系」、心臓を四つ部屋に分ける「弁・構造」、心臓の筋肉である「心筋」です。ここでは、心筋の病気を除く三つのパーツで、どんな病気があるか、それらをどう防いでいくかをご説明します(図3秘訣図3.jpg
・冠動脈……心臓の筋肉に不可欠である酸素と栄養を供給している血管(冠動脈)に動脈硬化が起こると、酸素や栄養が行き届かず、狭心症や心筋梗塞の原因となります。
・刺激伝導系……心臓にはリズミカルな収縮が必要ですが、心房細動という不整脈になると、心臓の上の部屋がブルブル震え、心電図が不定期に乱れます。心房細動は脳梗塞の大きな要因となるほか、心臓の動きを乱すという意味でも、一つの病気といえます。
・弁・構造……最近、多いのが、大動脈弁狭窄症などの弁の病気です。大動脈弁に動脈硬化も含めて石灰化が起きると、弁が硬く狭くなり、心臓のポンプ機能にも影響します。
 
 これらの病気には、どのような危険因子が関係しているのか。一番大きな因子は年齢ですが、これは受け入れるしかありません。ただ、年齢に高血圧、脂質異常症、糖尿病などが重なるにつれ、心臓病のリスクも上がっていくことが分かっています(図4)。つまり、これらをきちんとコントロールすることが、ポンプ機能を長持ちさせる秘訣といえます。秘訣図4.jpg
 現代医学では、メタボリックシンドローム、生活習慣病、年齢といったリスクが、これらの病気にどうつながっていくか、そこに何が介在しているか、明らかになってきました(図5)。キーワードは「慢性炎症」です。炎症とは、身体の組織が刺激に反応して起こる症状です。年齢が上がると、炎症は体中にある程度蓄積されますが、糖尿病や高血圧があると、炎症がさらに増えます。とくに喫煙は、炎症を起こし、増悪させることが分かっています。秘訣図5.jpg
 もう一つ問題なのが「慢性」という言葉です。一時的な炎症なら、そこだけ治療すればよいのですが、慢性炎症はいろいろなところに少しずつ炎症が起こり、そこだけ治療することはできません。だからこそ、食事療法や運動療法、禁煙などの日々の生活改善が重要になります。
 このように、心臓を長持ちさせる秘訣といっても、魔法や近道はありません。ふだんから食事や運動といった生活習慣を是正し、少しでも心臓が悪くなってきたと思ったら、早めに受診して、きちんと治療することが大切です。今回ご紹介した薬は、副作用も少なく、経済的な負担も比較的少ないため、こうした薬の力も借りて、心臓を長持ちさせていくことが重要だと思います。 
まとめ
・心臓病の病態は、大きく分けて「心不全」と「予期せぬ突然死」の二つ。
・心不全の治療では、レニン・アンジオテンシン系や交感神経系を抑えることが重要。
・心臓を長持ちさせる秘訣は、食事療法、運動療法による生活習慣の是正と早めの受診。
 
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