メディアワークショップ

一般市民の皆さんに対する心臓病を制圧するため情報発信、啓発活動を目的に、
情報発信能力の高い、メディアの方々を対象にしたワークショップを開催しております。

第9回日本心臓財団メディアワークショップ「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」

苅尾七臣氏らの研究などから、SASは循環器疾患のリスクファクターとなることが明らかになっている。苅尾氏は循環器疾患のなかから高血圧を取り上げ、SASとの関連性について講演。「早朝高血圧は心血管系イベントの発症率を高めるが、早朝の血圧上昇の原因にはSASが疑われる。検診時や診察時の血圧が正常でも、朝の血圧をきちんと測定することが大切だ」と訴えた。
 

日本では高血圧患者の約10人に1人がSASを発症

図1.日本人男性の睡眠時間と総死亡
9-2-2.gif図2.SASと血圧コントロール不良
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自治医科大学で行ったコホート研究によると、健康男性では睡眠時間が6時間未満の場合、7~8時間の場合と比べると、総死亡のハザード比が約2.5倍であった(図1)。海外でも、睡眠時間が6時間未満の人は、7~8時間寝ている人と比較して高血圧や糖尿病の発症リスクが約2倍高いことが報告されている。これらのことから、現在、睡眠は食事と運動に続く第三の介入可能な心血管系リスクとして注目されている。

睡眠時間の不足にはSASが関係していると考えられる。高血圧患者599例を対象に睡眠ポリグラフ検査を行った研究によると、無呼吸・低呼吸指数(AHI)が高い患者は血圧コントロールが不良である割合が高いことが明らかになっている(図2)

また、高血圧患者452例を対象に、AHIが15以上の中等症SASを併発している割合を調査した苅尾氏らの研究結果によると、約10例に1例が該当するという。わが国の高血圧人口は約3,500万人と言われており、この比率を当てはめると約350万人がSASを発症しているのではないかと推察される。
 

SASが引き起こす夜間血圧上昇が心イベント発生率を約6倍に

SASは睡眠に影響する疾患であるとともに、家庭血圧にも関与していることが明らかになっている。

SAS患者は、外来血圧が低くても、夜間や早朝の血圧が高い夜間高血圧あるいは早朝高血圧を呈している可能性がある。

高血圧患者の血圧の日内変動を追った研究結果によると、多くは夜間に最も血圧が低くなるdipperの傾向を有している。しかし、なかには夜間でも血圧が下がらないnon dipperや、逆に夜間に血圧が上昇するriserの患者もみられる。このうち、non dipperとriserはSASと関連していると考えられている。

図3.Riserの脳卒中と心臓イベント
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これらの患者には、心イベントや脳卒中のリスクが高い傾向がある。自治医科大学で行った研究結果では、riserの患者はそれ以外の患者よりも心イベント発生率が約6倍、脳卒中発生率が約2倍になることが示されている(図3)

他の研究によれば、MRIを用いてriserパターン患者の脳のボリュームを測定した結果、正常な血圧変動の人と比較して脳の萎縮が起こっていることが明らかになった。さらに認知機能をミニメンタルステート検査で評価したところ、riserパターン患者では認知スコアの低下がみられたという。また、高齢のSAS患者でも脳の委縮と認知機能の低下が確認されている。さらに、高血圧で心不全を合併し、かつAHI15以上の患者のN-アセチルアスパラギン酸を測定して脳神経細胞の量を評価した研究では、AHI15未満の患者と比較して脳神経細胞の量が少なく、かつ認知スコアも低下していることも明らかになっている。これらのことから、SASと認知症の関連も示唆される。
 

心肥大の進展に伴ってSASが重症化

図4.高血圧におけるSAS
9-2-5.gif図5.正常血圧の左室肥大をみたら
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SAS患者に心血管系イベントが起こるメカニズムは、気道閉塞がもたらす低酸素状態による交感神経活性の亢進や、心臓・胸部大動脈への陰圧負荷の増大などが原因となっている。また、自治医科大学が無呼吸の疑われる集団に対して行った調査によると、心肥大や高血圧性心不全が進展するにつれ、AHI30以上の重症SAS例に至る割合が高まることが明らかとなっている(図4)

このことから、血圧が正常範囲内にもかかわらず左室肥大が認められる場合は、その背景にSASによる仮面高血圧が疑われる。家庭血圧測定や自由行動下24時間血圧測定を行い、早朝高血圧・ストレス性高血圧・夜間高血圧を鑑別することが重要となる(図5)
 

SAS合併高血圧群では睡眠中の心血管系イベント発生が顕著

図6.SASの心臓突然死の発生時間帯
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さらに、SASは心血管系イベントの夜間発生のトリガーとなることが明らかにされている。突然死の時間帯別発生頻度を集計したデータによると、SASを合併していない高血圧群や一般群では午前6時から正午までの時間帯にピークがあるのに対し、SAS合併高血圧群では午前0時から6時までの早朝・深夜がピークで、一般群の約2.5倍も発生が多いことが明らかになっており(図6)、睡眠時の無呼吸による急な血圧の上昇が夜間の心血管系イベントの原因となっていると考えられる。

さらに、早朝高血圧と脳卒中の関連性について自治医科大学で調査した結果によると、起床後と就寝前の最高血圧の平均値(ME平均)が135/85mmHg以上で、かつその差(ME差)が20mmHg以上の早朝高血圧患者は、正常血圧の人と比較して脳卒中の相対リスクが6.6倍も高くなることが判明している。実地臨床でも、ME平均とME差をより重視する必要があると考えられる。

最後に苅尾氏は、「朝の血圧が135/85mmHg以上であれば早朝高血圧であり、その原因の一つとしてSASが疑われる。まずは検診時や診察時の血圧が正常でも、朝の血圧をしっかりと測定していただきたい」と提言し、講演を締めくくった。


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