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診療のヒント100 メッセージはひとつだけ

心腎関連 Question 1

腎性貧血はどのように診断するのですか?治療についても教えてください

■腎性貧血とは■

腎性貧血とは、腎障害による腎でのエリスロポエチン(EPO)産生能の低下による貧血のことを指します。もう少し広く、腎不全による赤血球寿命短縮、造血細胞のEPO反応性低下、栄養障害などの要因で起こる貧血も含むこともありますが、ここでは狭義のEPO産生能の低下による貧血ということで話を進めます。

EPOは腎臓の尿細管間質にある線維芽細胞様の細胞が産生しています()。間質の低酸素状態やある種のサイトカインの増加などで環境が悪くなるとEPO産生能が低下して、細胞の性質が変化していく(もしくは死んでしまう)ものと考えられています。

図 尿細管細胞とEPO産生細胞
長田図.jpg

貧血は血液単位容積中のヘモグロビン(Hb) 量が減少した状態のことを指しますが、貧血になると全身臓器への酸素供給が低下しますから、その程度に応じて臓器障害が生じると考えられます。心機能障害、腎機能障害、貧血の三者間でお互いがお互いに悪影響を与えて悪循環を形成する状態としてCardio Renal Anemia (CRA) 症候群がありますが、これについては次のQ2を参照ください。

■腎性貧血の診断■

Hbの値が平均値 −2 SD(標準偏差)が一般的な貧血の診断基準値とすると、成人男性では13.5 g/dL、成人女性では11.5 g/dLになります。自動分析機による検査では,赤血球数、Hb値、MCV が実測値であり,ヘマトクリット(Ht)値は計算によって求められます。Hb 値は採血後も比較的安定していますが、Ht値は変動しやすいので、Ht 値を実測しない場合には、貧血の診断はHb値を用いることになっています。

腎性貧血の主因は腎障害にともなうEPOの産生低下であり、これ以外に貧血の原因疾患(特に鉄欠乏性貧血など)が認められない時に初めて腎性貧血と診断されます。ですからEPO産生低下以外の貧血の原因疾患が否定されていなければなりません。

EPOの産生が障害されていなければ、貧血に陥った場合には血中EPO濃度は正常範囲よりも上昇しているのが普通です。ところが貧血でも血中EPO濃度が正常範囲内だったらそれはEPOの産生が障害されている可能性が高いわけです。ですから糸球体濾過量(GFR) が割合保たれてはいるもののHb値が低値で、他に貧血の原因が見当たらず、反応性に血中EPO 濃度の上昇が観察されない場合には腎性貧血と診断してよいわけです。赤血球造血刺激因子製剤(ESA)療法開始前にはEPOの測定が保険で認められているのですから、保存期慢性腎臓病患者では血中EPO 濃度を一度は測っておいた方が良いでしょう。

■治療開始基準■

それでは実際erythropoiesis-stimulating agent (ESA)を始める場合、どのタイミングで始め、どれくらいの量で維持したら良いのでしょうか。紙面の都合上、ここでは透析患者については触れず、保存期慢性腎臓病(CKD)患者についてのみについて述べます。実は日本透析医学会、日本腎臓学会、KDIGOから出ている貧血ガイドラインにおいて若干数字が異なるため()、ここでは日本腎臓学会の診療ガイド2012に準拠して記載したいと思います。

表 ガイドラインとHb
長田表.jpg

基本的にはHb 10.0 g/dL未満でESAを開始し、10~12の間で維持を目指します。13を越えないように減量・休薬を考慮しますが、なるべく12を越えないようにするように勧められています。透析医学会の貧血ガイドラインはもうすぐ改定される予定で、腎臓学会に合わせてくるかもしれません。

次にESAは何をどれくらい使ったら良いのかについてです。最近は血中半減期の長いダルベポエチン アルファ(77~98時間)やエポエチン ベータ ペゴル(171~208時間)が市販され、昔のように1週間に1度ESAを投与する煩わしさがなくなったのでCKD患者にとっては福音と言えるでしょう。その二つのESAについて書きますが、エポエチン・ベータ・ペゴルは小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない)ので、それについては記載がありません。


1) ダルベポエチン アルファ (ネスプ®) 最高投与量は、1回 180μg
 ・ 初回用量
 ・成人:2 週に 1 回30μg を皮下又は静脈内投与。
 ・小児:通常、2 週に 1 回0.5μg/kg(最高 30μg)を皮下又は静脈内投与。
 ・ 維持用量
 ・成人: 2 週に 1 回 30~120μg を皮下又は静脈内投与。2 週に 1 回投与で貧血改善が維持されている場合には、
  その時点での 1 回の投与量の 2 倍量を開始用量として、4 週に 1 回投与に変更し、60~180μg を皮下又は静脈内投与。
 ・小児:2 週に 1 回 5~120μg を皮下又は静脈内投与する。2 週に 1 回投与で貧血改善が維持されている場合には、
  その時点での 1 回の投与量の 2 倍量を開始用量として、4 週に 1 回投与に変更し、10~180μg を皮下又は静脈内投与。

2) エポエチン ベータ ペゴル(ミルセラ®)最高投与量は、1回250μg。
 ・初回用量
  1回25µgを2週に1回皮下又は静脈内投与する。
 ・維持用量
  1回25~250µgを4週に1 回皮下又は静脈内投与する。
 

(2014年10月公開)

Only One Message

心腎の合併症を進行させないためにも、腎性貧血は早めに診断して早めに治療することが大切。

回答:長田 太助

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