日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 診療のヒント100 > 心不全に関するQ >低カリウム血症を認めたときに、鑑別すべきことはなんですか

循環器最新情報 日本心臓財団は医療に携わる皆様に実地診療に役立つ循環器最新情報を配信しています。是非お役立てください。

診療のヒント100 メッセージはひとつだけ

心不全 Question 14

低カリウム血症を認めたときに、鑑別すべきことはなんですか

心不全治療時に血清カリウム濃度のモニタリングは極めて重要ですが、鑑別の前にカリウムが心臓にどのような影響を及ぼしているかについてお話します。

カリウムは最も豊富な細胞内陽イオンですが、細胞外には体内総カリウムのわずか2%程度しか存在しません。細胞内カリウムのほとんどは筋細胞内に含まれるので、体内の総カリウム量は除脂肪体重に概ね比例します。平均的な70kgの成人は約3500mEqのカリウムを有します。

カリウムは細胞内浸透圧を決定する主要因子であり、細胞内外のカリウム濃度比は細胞膜の分極に強く影響し、ひいては神経伝導および心筋を含む筋細胞の収縮など細胞の重要な過程に影響を及ぼします。したがって血清カリウム濃度の比較的小さな変化が大きな臨床症状を生むことがあり、注意が必要です。

血清カリウムが低下した場合3.5mEq/L以下で静止膜電位が低下しNaチャンネルの透過性亢進、細胞の易興奮性を来たします。症状としては2.5~3.5mEq/Lで消化器症状(嘔吐、食欲不振)、骨格筋症状(脱力、筋力低下、テタニー)、尿濃縮障害(多飲、多尿)、インスリン分泌障害(耐糖能障害)K< 2.5mEq/L では四肢麻痺、呼吸筋麻痺、イレウスを来たします。

心電図ではカリウム2.5~3.0mEq/LでT波の平低化や陰性化、U波の出現、ST低下が出現しカリウム2.5mEq/L未満ではST低下、U波増大、PR間隔延長、上室性および心室性不整脈やジギタリス中毒作用の悪化を来たします。また、平低または陽性のT波が陽性U波と合わさってQT延長と混同されることがあります。

低カリウム血症の重症度が増すにつれてこのような不整脈も重症化し,やがて心室細動が起こる恐れがあります。特に基礎に心疾患があると致死的不整脈が惹起されやすくなります。このため重大な心疾患が既に存在する患者またはジゴキシンを投与されている患者では、軽度の低カリウム血症でさえ不整脈をきたすリスクがあります。特に心不全患者においては内因性カテコラミンが亢進しており致死性不整脈の発症リスクが増大しているため、特に注意が必要です。

ようやくこれから鑑別のお話です。低カリウム血症の原因としては、(1)偽性低カリウム血症、(2)カリウム摂取不足、(3)腎、腎外性からのカリウム喪失、(4)細胞内へのカリウムの移行が原因となります。鑑別はに示しました。

図 低カリウム血症の鑑別
藤井図低K.jpg

まず尿中カリウム濃度を測定し20mEq/L未満であれば細胞内への移行や摂取不足、腎以外からのカリウム喪失を考えます。尿中カリウムが20mEq/L以上あれば腎からの喪失と考え血液ガスデータをチェックします。通常アルカローシスとなりますが、アシドーシスの場合尿細管性アシドーシスを考えます。血圧が正常であれば利尿薬の影響などが考えられ、高血圧であれば原発性アルドステロン症などの内分泌疾患などを考えます。

心不全治療時の低カリウム血症はループ利尿薬などの薬剤に起因する場合と心不全そのものによっても生じていることが多いと思われます。心不全により腎血流が低下するとそれに応答してアルドステロン系が賦活化され、アルドステロンがナトリウムの再吸収とカリウムの排泄を促進するため低カリウム血症が惹起されます。心不全時の低カリウム血症は致死的不整脈につながる可能性があるため、利尿薬の使用量や種類、尿中の電解質を調べるなど原因の精査を行うとともに、早急な補正が重要と考えられます。

Only One Message

心不全患者では種々の原因で低カリウム血症が生じやすく、致死的不整脈の原因となるため注意が必要である。

回答:藤井 洋之

キーワード検索

検索ボックスに調べたい言葉を入力し、検索ボタンをクリックすると検索結果が表示されます。

ご寄付のお願い