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心不全 Question 6

下肢が腫脹している患者さんがよく来院します。どういう疾患が考えられますか

下肢腫脹の診療をするにあたって、まず大事なのは、両側性なのか片側性なのか、を判断するということです。

片側性の下肢浮腫の場合は、まず「その足自体に原因がある」ことを考えましょう。長時間の同一姿勢(座位や臥位など)のエピソードがあり、Homans徴候(膝関節伸展・足関節背屈での腓腹部痛)陽性で、D-dimer陽性であれば、深部静脈血栓症を考え、造影CT(下肢・腹部のみならず、肺血栓塞栓症の合併も考え胸部も)を行うべきです(腎障害やアレルギーなどで造影剤が使用できない場合は、血管エコーで代用します)。

局所の感染徴候(発赤・熱感)が明らかで、炎症所見が陽性である場合(D-dimerが軽度上昇することもあります)は、蜂窩織炎を考え、皮膚科にも相談すべきでしょう。浮腫を来たしている下肢に手術創を認めた場合は、術後の静脈灌流障害(膝関節術後、大伏在静脈採取後など)も考慮しなければいけないでしょう。

また稀に、骨盤内の腫瘍などによって片側の下肢静脈が圧迫されることで、片側の下肢静脈灌流障害が生じ、片側性の下肢浮腫や深部静脈血栓症を生じることもあります(図1)。

基本的な病歴聴取・診察・検査で上記のような疾患が疑われる場合には、専門医にご相談ください。

図1 鼠径部悪性リンパ腫による片側性下肢浮腫。
  (A)CT(鼠径レベル)にて、左鼠径の著明なリンパ節腫張(矢印)を認める。
  (B)CT(大腿レベル)にて、左大腿に浮腫(矢印)を認める。

杉下図1.jpg

一方、両側性の下肢浮腫の場合は、まず「全身疾患が原因である」ことを考えましょう。心不全や腎不全などで溢水を生じると、毛細血管圧が上昇して、浮腫を生じます。肝硬変やネフローゼ、低栄養状態、重症感染症や悪性腫瘍などで、低蛋白血症を来すと、膠質浸透圧が低下して、浮腫を生じます。これらの浮腫は、圧痕を残すのが特徴的ですが、甲状腺機能低下症による粘液水腫は圧痕を残さないことが普通です。以上の疾患を鑑別することは、病歴聴取や診察、血液検査・尿検査・胸部単純写真・心電図といった基本的な検査で、ある程度は可能でしょうから、その結果によって専門医に相談することになります。

それ以外には、静脈不全やリンパ浮腫なども鑑別に挙がるでしょう。一方、原因不明の浮腫(特発性浮腫)は、女性に多く、体重の日内変動が大きいことが特徴であると考えられています(参考文献1)。

心不全に伴う下肢浮腫は、右心不全による静脈圧上昇が原因ですが、実臨床においては、pureな右心不全の症例(例えば、三尖弁閉鎖不全症など)を経験することは多くなく、右心不全症例のほとんどは左心不全を合併しています。

左心不全で浮腫を来すのは、左心不全による左房圧上昇の結果生じる受動性の肺高血圧から右心不全を来して下肢浮腫を生じるという機序によります。したがって、肺うっ血を来しているはずで、それによる自覚症状(呼吸苦や息切れ)や他覚所見(肺ラ音や酸素飽和度低下)・検査異常(胸部単純写真での肺うっ血所見など)を伴うはずです。言い換えれば、肺うっ血の自他覚所見を伴わない下肢浮腫が心不全によるものである可能性は少ないということです。

ただし、例外もあります。たとえば、収縮性心膜炎では、癒着した心膜によって右室流入障害が生じ浮腫を来たしますので、肺うっ血がないのが特徴であり、心筋疾患ではないのでBNP値もそれほど(浮腫が高度なわりに)上昇しません(図2)。特に、心臓手術後の下肢浮腫症例では、肺うっ血なし、BNP上昇軽度であっても、収縮性心膜炎を疑って、心エコー検査などの精査を行うべきです。

図2 冠動脈バイパス術後の収縮性心膜炎による下肢浮腫・腹水。BNP 228.7pg/mlで、初診医は肝硬変を疑った。
  (A)CT(肝臓レベル)にて、著明な腹水(矢印)を認める。
  (B)CT(大腿レベル)にて、両大腿に浮腫(矢印)を認める。
  (C)CT(胸部:肺や条件)にて、少量の右胸水(矢印)を認めるが、肺うっ血は軽度である。

杉下図2.jpg


また、左心不全が長年経過している症例の中には、基礎心疾患が左心系であるのも関わらず、肺うっ血よりも浮腫が主体となる症例を時に経験します。長年の左房圧上昇の結果、肺血管が変性を来たし、反応性の肺高血圧を来たしているのではないかと思われます。

たとえ肺うっ血による症状を有さない症例であっても、病歴を聴取し、身体所見を確認し、基本的検査を行なえば、収縮性心膜炎や長期間左心不全の症例であっても、心不全による浮腫はある程度は鑑別可能だと思われます。心不全による浮腫が疑われる場合は専門医にご相談ください。

参考文献
1) Thorn GW. Approach to the patient with “idiopathic edema” or “periodic swelling”. JAMA 1968; 206: 333-338

Only One Message

呼吸苦(肺うっ血)のない両下肢浮腫は、重大な心臓病ではないことが多い。が、時に病識不足などの重大症例が紛れ込んでいる。

回答:杉下 和郎

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