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心不全 Question 4

なぜ胸に水がたまるのですか。そのメカニズムを教えてください

胸膜腔には健康人でもわずかな胸水が存在していて、呼吸をする際に肺と胸壁との間の抵抗を減らす「潤滑油」として働いています。胸水は、壁側胸膜から産生され臓側胸膜から吸収されていますが、吸収が減少したり産生が増加したりした場合には、胸水貯留(胸に水がたまった状態)になります。

心不全による胸水貯留のメカニズムとしては、①右心不全による静脈圧上昇のために胸水の吸収が低下する場合と、②左心不全による肺静脈圧上昇のために生じた肺うっ血が高度になって、リンパ管からの排出を越えてしまい、胸膜腔への胸水産生が増加する場合とがあります。いずれにしても漏出性胸水のはずです()。心不全による胸水は、両側性であることが多いですが、左右差があったり、片側性であったりすることもあります()。

表 Lightの診断基準
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浸出液では、以下の3項目のうち1つ以上が存在する。
    ① 胸水中蛋白/血清蛋白  > 0.5  
    ② 胸水中LDH/血清LDH  > 0.6
    ③ 胸水中LDH/血清LDH  > 2/3
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最近心不全の治療をする際には、Nohria & Stevenson分類(参考文献1)を参考にすることが多くなってきました。この分類では、腹水は「うっ血所見」を示す指標として挙げられていますが、胸水は挙げられていません。しかしながら、上記のようなメカニズムで胸水貯留が生じることを考慮すると、胸水も「うっ血所見」を示す指標の一つと考えてもよいと思われます。したがって、心不全による胸水に対しては、利尿薬(および血管拡張薬)を中心とした治療をすることになります。

心不全に対して適切な治療を行えば、胸水貯留も徐々に改善していきますが、肺うっ血や下肢浮腫の改善よりも胸水の改善が数日遅れることを実臨床ではよく経験します()。

心不全に低栄養状態や肝障害などが合併し低蛋白血症となると、浸透圧低下による胸水貯留が加わることになります。この場合も胸水は漏出性ですが、利尿薬など心不全治療だけでは胸水が改善しないことがあります。そのような場合は、アルブミン補給など低蛋白血症に対する治療も併せて行なう必要があります。

また、心不全には肺炎が合併することも少なくありません。肺炎の炎症や感染そのものが胸膜腔まで波及すれば肺炎随伴性胸水、細菌性胸膜炎、膿胸となります。これらの場合は浸出性胸水となりますし、細菌性胸膜炎や膿胸の場合は、胸水細菌培養検査が陽性となることでしょう。治療によって心不全が改善しているにもかかわらず、胸水の改善が浮腫や肺うっ血の改善よりも数日以上遅れて持続する場合、特に発熱や炎症所見陽性が持続する場合は、胸水を試験穿刺して、各種検査に提出することを考えた方がよいでしょう()。しかし、胸水を排液しすぎると、再膨張性肺水腫を来すこともありますので、注意が必要です。

図 心不全治療による胸水減少が遅れた症例
拡張型心筋症による心不全の70歳男性。心不全で入院(図A)。BNP 1461.6 pg/ml。アンジオテンシン変換酵素阻害薬、硝酸薬、利尿薬の投与により、第6病日には体重4kg減少、浮腫も消失していたが、炎症所見が増悪(CRP 6.47 mg/dl)、右胸水大量残存あり(図B)。感染の関与を疑い胸水試験穿刺を施行したが、漏出性で細菌培養も陰性。抗生剤なし、処方継続で、第10病日にはさらに体重5kg減少、CRP 1.51 mg/dl、右胸水はほぼ消失した(図C)。
杉下図.jpg


<参考文献>
1) Nohria A, Tsung SW, Fang JC, et al.   Clinical assessment identifies hemodynamic profiles that predict outcomes in patients admitted with heart failure.  J Am Coll Cardial 2003; 41: 1797-1804

Only One Message

心不全による胸水は、治療効果が下肢浮腫や肺うっ血よりも数日遅れることが多いので、慌てなくてよい。が、試験穿刺も考慮。

回答:杉下 和郎

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