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動脈疾患・脂質異常 Question 3

脂質異常症の治療薬で横紋筋融解症の副作用があるようですが、よく見られるものですか

脂質異常症治療薬の中で横紋筋融解症の副作用が有名なのは、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)とフィブラート系薬剤で、特にこの両者の併用にて、その発症率が増加することが知られています。

その頻度に関しましては、Jacobsonらは、筋肉痛を生じるのが5%、筋障害を来すのが0.1~0.2%、そして横紋筋融解症が0.01%に生じると報告しています(Jacobson TA, Mayo Clinic Proceedings. 2008;83:687)。

横紋筋融解症の診断には、筋痛や脱力といった症状、CK (CPK)の基準値の10倍以上の上昇、そしてミオグロビン尿(ミオグロビン値の上昇)が重要ですが、本邦の後ろ向きの解析では、新規にスタチンを投与された18,036人の患者のうち、筋障害の診断があったものが23人、血液検査にてCKが10倍以上の上昇を認めたものが16例、両方認めたものが4例であったとしています(Chang CH, et al. BMJ Open, 2013; 3: e002040)。

このように、スタチンによる横紋筋融解症の発症頻度は少なく、稀な副作用と考えられます。また17,802人の健康な中高齢者を対象としたロスバスタチンとプラセボの二重盲検試験であるJustification for the Use of statins in Primary prevention: an Intervention Trial Evaluating Rosuvastatin (JUPITER)では、17か月の追跡期間にて筋症状が出現したのは、ロスバスタチン群で16%、一方プラセボ群でも15.4%にみられ、実際に筋障害があったのはそれぞれ10人と9人であったとしています(Ridker PM, et al. N Engl J Med, 2008, 359; 2195)。

このように、プラセボ群でも筋症状はみられることから、スタチンによる筋症状かどうかを見極める必要があります。一般的にスタチンによる筋肉痛は、左右対称に大腿部などの大きな筋肉に出現することが多く、スタチン投与後、4か月以内に生じることが多いとされています。また高齢や腎機能が低下している患者では横紋筋融解症を発症しやすいため、やはりスタチン投与後、数か月は、筋肉の症状や尿の色、そして血液検査にてCK、AST、ALT、LDH、クレアチニン、BUNや電解質のチェックすることが必要です。

フィブラート系薬剤も横紋筋融解症の副作用がありますが、年間に1人本症を発症するのに必要なフィブラート単独治療での症例数は3546人とされ、やはり稀な合併症と言えます(Davidson MH, et al. Am J Cardiol 2007;99[suppl]:3C)。発症しやすい因子としては、高齢、腎機能低下や糖尿病、甲状腺機能低下の合併があります。

スタチンとフィブラート系薬剤を併用すると、スタチン単独よりも横紋筋融解症の発症は3~5倍に増加するため(Enger C, et al. Am J Cardiol 2010, 106:1594)、その併用には注意を要します。現に薬品の添付文書では、スタチンとフィブラート系薬剤の併用は原則禁忌となっていますので、併用のベネフィットとリスクを考えて慎重に投与する必要があります。

各薬剤間の差異については、スタチンではセリバスタチン、フィブラート系薬剤ではジェムフィブロジルは特に本症の合併する割合が高いとされていますが、本邦では現在、市販されておらず、他のスタチンやフィブラート系薬剤間では、その発症率に大きな差異はないようです。

Only One Message

横紋筋融解症は脂質異常症治療薬の稀な副作用である。ただ高齢、腎機能低下例では要注意!

回答:池田 聡司

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