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動脈疾患・脂質異常 Question 2

検査データとして脂質異常に該当する患者さんは多いのですが、治療の適応について教えてください

脂質異常が動脈硬化の進展、特に冠動脈疾患の発症につながることは多くの疫学調査で明らかにされています。そのようななかで、脂質異常症のスクリーニングのための診断基準として、LDLコレステロール(LDL-C)140mg/dL以上、HDLコレステロール(HDL-C)40mg/dL未満、トリグリセライド(TG)150mg/dL以上が用いられています。

では、このような異常値を示せば一律に治療対象となり、これらの値を超えなければ治療対象にはならないのでしょうか?
答えはノーです。このような値を示す患者さんの動脈硬化疾患発症の相対リスクが高いことは間違いがありませんが、絶対リスクについてはその患者さんの様々な背景によって違っています。すなわち、絶対リスクが高い場合には治療を勧めますが、決して診断基準がそのまま治療の適応になるわけではないということです。

また、脂質異常症の診断・治療においてLDL-Cが中心となることは多くのエビデンスから明らかであり、ガイドラインに示された絶対リスクによる管理もLDL-Cが中心になっています。

今回は、このこれらの考え方に基づいた動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版に沿って具体的な治療の適応を説明致します。

まず、すでに冠動脈疾患の既往がある二次予防の場合は、すぐにでも徹底的な治療(生活習慣の是正と同時に薬物治療を開始)が必要と考えられます。そして、欧米の大規模臨床試験では、平均的なLDL-Cの値でもさらに低下させることにより再発予防や総死亡あるいは脳卒中の抑制に有効であることが示されており、わが国の臨床研究でもLDL-C100mg/dLまでは低くするほど再発頻度が低いことが示されています(Mabuchi H, et al. Circ J, 2002)。ただし、わが国でのLDL-C100mg/dL未満に関するエビデンスは乏しいため、現時点のガイドラインでは、二次予防の管理目標はLDL-C100mg/dL未満となっています。

一次予防の場合は、原則としてまず生活習慣の改善を行った後に、薬物治療の適用を考慮します(ただし、LDL-Cが180mg/dL以上が持続する場合は生活習慣の改善とともにすぐに薬物療法を考慮しても構いません)。治療を要する具体的な数値は脂質異常症以外の冠動脈疾患に関する危険因子の状況によって変わってきます。

に動脈硬化性疾患予防ガイドラインの冠動脈疾患絶対リスク評価チャート簡易版を示しますが(TC、血圧の絶対値を用いた正確な評価はガイドライン本編を参照ください)、まずリスクに応じたカテゴリー分類を行います。この中で、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患(PAD)は特に重要な危険因子と考えられるため、いずれかに該当すると高リスク群(カテゴリーⅢ)(10年間の冠動脈疾患死亡率2%以上)となり、LDL-Cの目標値が120mg/dL未満となります。さらには、総コレステロール(TC)の値に加え、年齢、性別、喫煙有無、高血圧、低HDL-C血症、早発性冠動脈疾患家族歴、耐糖能異常を加味して絶対リスクを評価するというものです。

図 動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2012年版)の冠動脈疾患絶対リスク評価チャート簡易版

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このカテゴリー分類に基づいて脂質管理目標値()を設定します。またTG測定には空腹時採血が必要という条件の難しさから、TC値からHDL-C値を減じたnon HDL-C値を指標として冠動脈疾患との関連を検討した研究がいくつか存在し、ガイドラインの方でも採用されています(LDL-Cの管理目標+30mg/dL未満が目標)。このnon HDL-Cは、TGが高値(400mg/dL以上)の場合や空腹時採血が困難である場合に、精度に問題が生じてしまうLDL-Cの代わりに管理目標の指標として用います。また、カテゴリーIにおいてはLDL-Cが180mg/dL以上を持続する場合に薬物療法の適用を考慮します。

表 リスク区分別脂質管理目標値(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版)

添木表.jpg
 

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脂質異常は冠動脈疾患の危険因子として非常に重要ではあるが、冠動脈疾患のリスク因子のひとつに過ぎないという考え方もできる。よって、動脈硬化疾患の絶対リスクを脂質異常を含めて総合的に評価し、絶対リスクに応じて脂質異常の管理を行うことが大切である。

回答:添木 武

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