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虚血性心疾患 Question 5

陳旧性心筋梗塞に硝酸薬は使わないほうが良いと聞きましたが、本当ですか

外来を引き継ぐと必ず遭遇するのが、ご高齢の陳旧性心筋梗塞(OMI)患者さん。急性心筋梗塞の退院後からずっと硝酸薬が処方されていることが多いのです。内服薬数が多すぎる場合にはリストラの候補に挙がりますが、ついつい中止するタイミングを逃してしまいます。それでも冷徹にリストラする方がよいのでしょうか?

心筋梗塞慢性期の2次予防としての硝酸薬長期投与の有効性については、十分な根拠となる大規模無作為化比較試験はありませんでしたが、近年、わが国の虚血性心疾患に関する大規模前向きコホート研究であるJapanese Coronary Artery Disease(JCAD) 研究において、硝酸薬が有意にイベント(全死亡および心血管系イベントの複合イベント)の発生を減少させた結果が出ました(Kohro T, Hayashi D, Okada Y, et al. JCAD Investigators.Circ J 2007;71: 1835-1840.)。そのため、日本循環器学会心筋梗塞二次予防のガイドライン2011年改訂版では、心筋虚血が認められる患者に対しては、発作予防のために持続性硝酸薬の投与を推奨しています。

最近はステントを用いた再灌流療法が普及し、薬物療法も様変わりしましたので、必ずしも「使ってはいけない」ほどの悪玉ではないという意見もあります。実際に外来で硝酸薬を飲み続けていても心事故が増えている印象はありません。

硝酸薬は血管拡張物質である一酸化窒素(NO)を放出することにより血管平滑筋拡張を促し、冠動脈においては表在血管の拡張をもたらします。この目的で主に使われるのはニトログリセリンと硝酸イソソルビド。それぞれの特徴をに示します。硝酸薬の積極的適応は、狭心発作寛解を目的とした即効型硝酸薬の使用と考えるのがよいでしょう。

表 硝酸薬のいろいろ
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ここで持続型硝酸薬の役割について、虚血性心疾患の治療の歴史を考えてみます。胸痛の軽減を行うしか打つ手のなかった時代には、薬はモルヒネと硝酸薬とβ遮断薬でした。現代の血行再建の時代では、硝酸薬とβ遮断薬で引き延ばすのはむしろ罪。β遮断薬は心筋梗塞後2次予防や心筋梗塞後左室リモデリングの抑制といったフィールドに転身して活躍しました。対して硝酸薬は血管拡張にこだわり続けました。Pleiotropic effectとは無縁の、ある意味「不器用」さを感じます。

もはや心筋虚血のない安定したOMIに硝酸薬を積極的に使う理由はありません。漫然と投与するのはよくないと心得るべき薬と言えるでしょう。しかし目立つことなく、良いことをしている可能性はあります。急性心筋梗塞の発症の中には冠攣縮(スパズム)が強く関与するものがあるということが分かってきました。さらに心筋梗塞発症後にはスパズム誘発の陽性率が高いという報告もあります(Pristipino C, et. al. Circulation 2000; 110: 674)。

もしかすると硝酸薬は日陰にいながらも、スパズムを抑えているのかもしれません。不器用ですが、好感が持てます。さらにOMIでも心筋虚血症状があれば、(血行再建術施行までの間にせよ)硝酸薬の適応です。日本循環器学会心筋梗塞二次予防のガイドラインには心筋虚血が認められる患者に対して、発作予防目的での持続性硝酸薬投与がクラスⅡの適応として紹介されています。つまり、持続性硝酸薬が効果を発揮するような病態、すなわち心筋虚血やスパズムの有無を見極めることが重要と言えるでしょう。

問答無用にリストラするのではなく、硝酸薬がちゃんと仕事をしているかどうかを見なければいけません。

Only One Message

硝酸薬をOMIに積極的に処方する理由はない。すでに処方済みのものは働き具合を見てからリストラを考慮する。

回答:樋口 義治

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