日本心臓財団HOME > 日本心臓財団の活動 > 循環器最新情報 > 診療のヒント100 > 虚血性心疾患に関するQ >狭心症や心筋梗塞の患者さんのほとんどは循環器内科のインターベンションで治療されていると聞きます。バイバス手術はどういうときに勧められますか

循環器最新情報 日本心臓財団は医療に携わる皆様に実地診療に役立つ循環器最新情報を配信しています。是非お役立てください。

診療のヒント100 メッセージはひとつだけ

虚血性心疾患 Question 1

狭心症や心筋梗塞の患者さんのほとんどは循環器内科のインターベンションで治療されていると聞きます。バイバス手術はどういうときに勧められますか

虚血性心疾患治療は、今や短期成績だけでなく中・長期成績も重視すべき時代です。我々は最大の治療目的は急性心筋梗塞(AMI)の予防と生命予後の改善である、という原点に立ち返り、胸痛だけでなくAMIや心臓死が減る治療を行うべきです。

典型的AMIは冠動脈の閉塞で起きますが、有意狭窄部の閉塞はAMIの14%にすぎず、大多数のAMIは有意狭窄でない部分に起こります(Falk E, et.al. Circulation 1995;92:657-671)。つまり有意狭窄だけ治しても8割以上のAMIに対して無防備なので、有意狭窄を拡げる冠動脈インターベンション(PCI)では、保存治療に比べAMIも心臓死も有意に減らないことが繰り返し示されています。

四方八方から弾丸が飛んでくる戦場で、特定方向だけ盾を構えていても生還は難しいのが、技術や盾の素材ではなく戦法の問題であるように、どこが閉塞してAMIになるのか、という基本に戻れば、これはプロトコル(保存治療群で、後日PCIを受けた人が結構いる)やステントの種類の問題ではなく、PCIという方法論の限界を示す結果に見えます。

バイパス手術(CABG)は有意狭窄の遠位に別ルートを増設するので、理論上、当該病変はもとより他の部分のトラブルに対しても一定以上の保護効果があるはずで、事実AMIも心臓死も減ることが知られています(Hueb W, et.al. Circulation 2010; 122: 949-957 等)。中・長期のAMI回避に関して、PCIとCABGは思想も効果も根本的に違うのです。

PCIとCABGの重要アウトカムは同等で、再血行再建のみPCIで多い、と聞いてきた方が多いはずです。でも根拠となった臨床試験のほとんどは、慢性完全閉塞は勿論のこと、びまん性病変、石灰化病変、分岐部など複雑病変、左主幹部病変、腎不全はじめ重い基礎疾患、低心機能などを除外しており、結果的に「1~2枝の限局病変で、心機能の保たれた余病がない症例が大半」という、bias だらけの集団での結論だったのです。昨今は多枝病変、低心機能、様々な基礎疾患の症例も多く、そんな話は全く実情に合いません。

比較的biasの少ない、多枝病変症例の前向き無作為化試験はSYNTAX trialで、PCIでもCABGでも治療可能な1095例を約550例ずつに分け、薬剤溶出性ステント(DES) 5.3本、CABG 3.4本の血行再建を比べた研究です。

5年追跡結果(Mohr FW, et.al. Lancet 2013; 381: 629-638)は、 AMIはDES 10.6%、CABG 3.3% (p<0.001)、心臓死はDES 9.2%、CABG 4.0% (p<0.001)と、DES群でCABG群の2~3倍以上発生し、再血行再建を要した症例もDES 25.4%、CABG 12.6% (p<0.001)と2倍、胸痛残存はDES 22.0%、CABG 9.6% (p<0.001)と2倍以上ですが、脳梗塞はDES 3.0%、CABG 3.4% と同等。つまり、年単位の予後を期待できる多枝病変症例はCABGを勧める結論でした。多数の他研究も同じ結論で、特に糖尿病や低心機能はCABGが推奨されています(Weintraub WS, et.al. N Engl J Med 2012; 366: 1467-1476 等)。

ただ、思わぬ方角から弾が飛んでくる可能性が低ければ一方向の盾でも事足りるように、冠動脈がさほど深刻な状態でなければ、想定外のAMIの可能性は低く、局所治療でも成果が期待できそうです。SYNTAX スコア(http://www.syntaxscore.com/)は冠動脈の病状を数値化したもので、このスコアが中等度以上なら上述の結果どおりですが、軽症ならDESを5本入れても再血行再建が有意に多いものの、重要アウトカムは大差ありません。実はこの後半こそ、従来の結論そのものです。つまり、そういうことだったのです。

短期成績が問題となる症例は話が別で、時間勝負のAMIなどはPCIの適応です。但し2011年の日本の待期的CABGの在院死亡率は、初回手術でオンポンプ0.9%、オフポンプ1.0%、再手術は両術式とも2.6%と低率(Amano J et.al. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2013; 61: 578-607)なので、待期手術に持ち込めて、年単位の予後を期待できる症例はCABGを考慮すべきです。

それゆえ日本循環器学会のガイドラインは、1枝/2枝病変で左前下行枝の入口部に狭窄がなければPCIを勧め、全ての3枝病変と左主幹部病変、1枝/2枝病変でも左前下行枝近位部に狭窄があればCABGをclass Iで勧めています()。ヨーロッパのガイドラインも同様です。

表 PCI、CABG適応
今中表.jpg
「循環器病の診断と治療に関するガイドライン.安定冠動脈疾患における待機的PCIのガイドライン(2011年改訂版) http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_fujiwara_h.pdf (2014年10月閲覧)」 

 

Only One Message

心臓手術の胸骨正中創は意外に痛くなく、先入観で避けすぎずに適切な治療をすべきで、長生きしたきゃCABGです。

回答:今中 和人

キーワード検索

検索ボックスに調べたい言葉を入力し、検索ボタンをクリックすると検索結果が表示されます。

ご寄付のお願い