メディアワークショップ

一般市民の皆さんに対する心臓病を制圧するため情報発信、啓発活動を目的に、
情報発信能力の高い、メディアの方々を対象にしたワークショップを開催しております。

第2回 「心筋梗塞は予知できるか」

山口氏 本日は「心筋梗塞の予知はできるか」というテーマで、「予知する可能性」について3名の先生方からさまざまな側面でお話しいただきました。結局、今の時点では、特定の個人が心筋梗塞を起こす可能性を知るというのはなかなか難しいが、何とかそこまで近づきつつある、というところがお分かりいただけたかと思います。では、先生方に、会場の皆さんのご質問にお答えいただきたいと思います。
会場より 急性心筋梗塞はどういう状況で多く発生するのでしょうか。
高山氏 今までの集計結果では、例えば、一日のなかでは、朝7時~10時や夕方に発生のピークがあります。また、1週間のなかでは月曜日、季節ではやはり冬のほうが多くなっています。
会場より その発症の誘因は特定されていますか。
高山氏 例えば朝7時~10時で多いというのは、体内のいろいろな日内変動のためと考えられます。自律神経系には交感神経と副交感神経があり、日中は交感神経が、夜間は副交感神経が優位となっていますが、その切り替えは朝行われ、切り替え時は不安定になります。たとえば、早朝に血圧を測ると高くなる人がいますが、そのような方は神経の切り替えがうまくいっていないと考えられます。また、血液の性状を見ると、早朝は血液が固まりやすく溶けにくくなっています。ほかにストレスや睡眠不足などの因子も加わってくると考えられます。それらが複合した結果、早朝に発症が多くなっているのではないかとされています。
山口氏 なかなか難しい問題です。佐藤先生が非常に破れやすい粥腫(プラーク)があるということをお示しになりましたが、どれが破れやすいのか、いつ破れるのか、その辺を佐藤先生はどう考えますか。
佐藤氏 どれが破れやすいのかということは、血管内エコーや内視鏡で、直接血管の中の病変を診ることである程度分かります。しかし、いつ、どこでというのは、これは予測できない。これが今後残された、画像診断からみた一番大きなテーマだと思います。おそらく画像では捕まえられないと思います。
会場より 安定狭心症と不安定狭心症の違いは、CRP値が不安定狭心症のほうで高いということでしたが、症状の違いは患者自身でわかるのでしょうか。
川名氏 安定狭心症は、狭心症の発作の起こり方や頻度が一定ということです。つまり、日常の動作で、このくらいのことをすれば週に一度はなる、というパターンが決まっている。一方、不安定狭心症は、頻度が3日に1回に増えた、静かにしている時にも起こるようになったなど、パターンが不安定になるということです。われわれも不安定狭心症の診断をCRP値のみでしているわけではなく、症状や心電図などで行なっています。
会場より 安定狭心症と不安定狭心症では、患者数の違いはどうでしょうか。また、安定狭心症から不安定狭心症に移行することはありますか。
川名氏 患者数は安定狭心症のほうが多いようです。また、安定狭心症から不安定狭心症に移行することはあります。先ほどご説明したように、安定狭心症の患者さんのプラークが、何かの拍子に不安定化して心筋梗塞に移行する。その割合は母集団によって違いますので、断言できませんが。
会場より ということは、患者さんは、症状が安定でも不安定でも、胸痛などの異常を感じたらとにかく専門医へ行くというのが理想的なのでしょうか。
川名氏 まず、その胸痛が狭心症の症状なのかどうか、専門医の診断を受けることが第一です。狭心症と診断されたら、CRP値をはじめとした検査で総合的に重症度を判断する。その後はリスクファクターを考慮して、不安定化しないように日常生活でケアしていくということが必要になります。
山口氏 不安定狭心症では、必ずしも痛みが強いのが重症で、痛みが軽いのが軽症というのではありません。症状の強さ弱さに関わらず、すぐ病院に行ったほうががいいという症状がありましたら、高山先生、ご説明ください。
高山氏 痛みにもいろいろありますが、「ズキズキ」「チクチク」は大体心臓由来ではありません。一方、「締めつけられる」「重苦しい」は心臓に由来する痛みで、それが10~15分続く場合は明らかに異常です。10分以上続いても自然に楽になった、治まったとしても、次は心筋梗塞の可能性が大きいので、できるだけ早く専門医に診てもらうべきです。
 もう一点は、「息苦しさ」「冷や汗」などの別の症状が同時に現れる場合です。これは心臓全体の広い範囲で虚血が起こっている可能性が高く、非常に重症で命を落としてしまう可能性が大きいので、そういう場合も、必ず、そしてできるだけ早く専門医に診てもらう必要があります。
山口氏 重要なことは、間違うことや空振りを恐れずに、早く病院へ行くことですね。間違ってもいい、病院へ行って心臓の痛みでなければ「よかったね」ということです。やはり致命率の高いものですから、明日行こうとか、もうすこし経ったらとか、治まらなかったら行こうというのではなく、やはりすぐ行かれるのがいいと思います。
会場より 通常、プラークができてから最終的に破綻するまでにどの位かかるのでしょうか。また、何十年もかかるのんびり動脈硬化や、数カ月のうちにプラークが大きくなって破綻するスピード動脈硬化といったものはありますか。
川名氏 朝鮮戦争の兵士達を対象にした有名な調査では、若い兵士の冠動脈を調べたら、もう動脈硬化が始まっていたという結果が出ました。それは血管造影で狭いところが見えるというレベルではなく、血管の内側の表面がザラザラした感じだったということです。つまり、いわば小火山みたいなものが全身の血管のあちこちにあって、そのうちの一つが閉塞して心筋梗塞になるという風に考えられます。基本的には長い間に進行し、ある時期に一定のスピードで発症するということです。また、何十年単位で進行するというストーリーもありうると思いますし、いろいろなリスクファクターの組み合わせで、早く進むパターンもあるでしょう。
山口氏 川名先生にお伺いしたいのですが、心筋梗塞の危険性を予測するためにCRPという炎症のマーカーを測るということでしたが、炎症というのは実は体中でたくさん発生しているわけです。炎症反応があることがわかったとして、それが冠動脈である保証は何もないと思うのですが、いかがですか。
川名氏 その通りです。CRP値が高くても、冠動脈が正常な患者さんもたくさんいます。ですから、すべてCRPで決まる訳ではなく、もし値が高い時には、何かどこかにそういう活動性の高いプラークがあるのではないだろうかと想定して、医師も患者さんも対応するという、ひとつのマーカーとして考えればよいと思います。それで、すべてが分かる訳ではありません。
山口氏 炎症の発生場所が、冠動脈なのか別の血管なのかどうかを判断することはできるのでしょうか。
川名氏 そこまではたぶん、今の研究のレベルで答えは出ていないと思います。大事なのは心臓とか脳なので、まずそちらからよく調べてみる。また、その患者さんの持っているリスクファクターのプロファイルとか、今までの病歴などで、どこが怪しいのか想定するということです。
会場より hs-CRPの測定は日常的に行なっていますか。また、現在の日本の臨床では、どのように受け止められていますか。
川名氏 まだ日本では、これを普通の病院で一般検査として使えている状況ではありません。病院によってはルーチンにしているところもありますが、まだ経済的なサポートとかいろいろ問題があり、一般的にはなっていません。人間ドックの検診項目などに、このCRPが入っているところがありますので、今後、日常的にはなっていくとは思います。
会場より 先生方のお話からすると、体外式自動除細動器(AED)の普及が非常に大事ではないかという気がしますが、この点はいかがですか。
高山氏 われわれは病院の中でいわば「待つ医療」を行っているわけです。こうした「待つ医療」では、病院まで来れなかった人たちは救えない。その点、AEDは家庭や町で起こる心肺停止を治療できるということで、非常に意義が大きいわけです。例えば危険度の高い患者さんがいる家庭には、家庭用のAEDを常備することが考えられます。日本でも次第に普及しつつあると感じていますし、またわれわれも声を大きくして広げなければいけないと思います。
会場より 公共施設ではいかがですか。
高山氏 まだまだこれからだろうと思います。
会場より 山口先生は日本心臓財団の理事として、どのようにお考えですか。
山口氏 日本では虚血性心疾患がこれからさらに増えることが予想されますので、もちろん広める必要があると考えます。ただ日本の場合、法律の問題だけでなく、どこで誰がやるかという問題があります。アメリカでは一般人が使うことを原則にしていますが、今の日本では、ある程度トレーニングを受けた人が望ましいでしょう。ただ、そうした方向性が普及の妨げに多少なっているところがあるとは思います。本来は、トレーニングを受けていない人でもすぐできるというところに、一番のキーがあったように思います。ただし、もちろん、最低限の心肺蘇生のトレーニングは必要です。ですから、そういうトレーニングを、例えば高校教育の中に取り入れるというように、もっと学校教育の中に組み込んでいくことは、たいへん重要ではないかと思います。
高山氏 われわれが東京消防庁と一緒に組織したCCUネットワークで調査したところ、心肺停止のうち、周りの人が心肺蘇生を行った率は、東京では以前は4~5%でしたが、2002年は11%でした。明らかに増えてきています。しかし、公共の場で人が倒れた場合、やはり皆さんは躊躇してしまい、触るなという人が1人出たりすると、すぐ誰も動けなくなってしまう。このような状況を何かのきっかけで変えていかなければならないと思いますし、ぜひ、メディアの皆さんにもいろいろな機会で取り上げていただきたいと思います。
 

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山口氏 予定の時間をかなりオーバーしてしまいましたが、これで終了したいと思います。先生方、参加された会場の皆様、ありがとうございました。 では、最後に、日本心臓財団理事の矢崎先生から一言お願いいたします。
矢崎氏 今日は長時間にわたり、ご熱心に参加いただきまして、ありがとうございました。あらためて御礼申し上げます。また、演者の先生方、大変お忙しい中、貴重なお話をいただきまして、ありがとうございました。本メディアワークショップは、一般の方にできるだけ循環器疾患を、特に心臓の疾患を理解していただくために、まずはメディアの方に疾患の理解をさらに深めていただくという趣旨で開始いたしましたが、今回で2回目を迎えました。これからも日本心臓財団としてこの活動を進めていきたいと思います。今後ともサポートの程、よろしくお願い申し上げます。

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