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メディアワークショップ

第16回「突然死や寝たきりを防ぐために…」~最新の動脈硬化性疾患予防ガイドラインから~

包括的管理における脳梗塞

会場 2012年に改訂された『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』(以下、ガイドライン)では、冠動脈疾患の予防に最も比重が置かれています。わが国は脳梗塞の発症が多いので、脳梗塞に関する記載をもっと厚くすべきではないかと思いますが、いかがでしょうか。
横手 ガイドラインの歩みを振り返ると、最初に発行された1997年版と2002年改訂版は脂質異常症治療に重点を置いた内容でした。2007年改訂版で動脈硬化性疾患全体を扱うようになりましたが、脂質との関連が深い冠動脈疾患に関する記述が中心でした。今回は冠動脈疾患を中心としつつも、さらに一歩進んでさまざまな学会の意見を踏まえ、脳血管障害、末梢動脈疾患、慢性腎臓病も考慮した内容となり、現在は包括的な管理への移行期にあると思います。脳梗塞については、以前は脳梗塞のうちラクナ梗塞が多かったのですが、最近はアテローム血栓性脳梗塞が急激に増えており、脳梗塞におけるこのような変化に対応したエビデンスがまだ十分得られていません。次回の改訂では、研究の進展とともに、より充実したものになると考えています。
 

絶対リスク評価チャート―低リスク患者においてスタチン治療が不要な患者を選別

会場 治療において、スタチンを使いすぎているとの批判を耳にすることがありますが、先生方はどうお考えでしょうか。
横手 スタチン治療では、大きなベネフィットが得られる患者を見つけて、適切に投与をすることが重要です。ですから、誰に対してもスタチンを投与すればよいというものではありません。そういう意味では、前回のガイドラインは性別によるリスクの違いの評価が不十分で、男女が同じように扱われていた部分がありました。例えば女性の場合、NIPPON DATA80のデータによると40~50代は糖尿病などの危険な病態がなければ、10年間に冠動脈疾患で死亡する絶対リスクは0.5%未満です。こういった低リスクの患者では、まずは生活習慣の改善のみ考慮するべきではないか、というのが今回の冠動脈疾患絶対リスク評価チャートが意味するところです。今回の改訂で、以前はこうした患者に対して不要なスタチン治療をしていなかったかを見直すとともに、スタチン治療が本当に必要な患者のクローズアップを、より正確にできるようになったと思います。
山崎 リスクがもともと低い人でも、スタチンを服用すれば動脈硬化性疾患のリスクはさらに減少します。しかし、それは医療経済の観点も含め、低リスクの患者ではスタチンを使用する優先順位が低い、というのが今回のガイドラインの骨子だと思います。
 例えば、今回のガイドラインのリスク区分別脂質管理目標値には、管理区分が低リスクであるカテゴリーIの患者では、LDLコレステロールの管理目標値は160mg/dL未満となっていますが、180mg/dL未満であれば薬物療法をしなくてもよいとも明記されていますし、ガイドラインどおりにスタチン治療を考慮すれば全く問題ないと思います。
 

絶対リスク評価チャート―実臨床で活用するポイント

会場 今回のガイドラインでNIPPON DATA80から得られた絶対リスクが採用されたことは素晴らしいことだと思いますが、実臨床でどこまで活用が可能なのかとも感じます。実地診療で活用するためのアドバイスがあれば、お聞きかせいただけないでしょうか。
山崎 絶対リスク評価チャートは複雑ですが、私は実地医家の先生方に対して、「患者と一緒にチャートを見ながら、絶対リスクの考え方、患者の喫煙習慣や糖尿病などの危険因子、脂質の目標値などについて、患者とコミュニケーションをとりながら治療をする。それが本来の医療の在り方ですね」とお話ししています。今回のガイドラインは本当に内容が充実しています。実地医家の先生方が患者と一緒に、このガイドラインを活用するという姿勢が重要であると思っています。
横手 絶対リスク評価チャートは確かに複雑です。実際に短い診療時間で、リスク評価チャートが使えるのかという懸念があるかと思います。ですが、動脈硬化性疾患を予防するうえで重要なのは、高リスクのカテゴリーIIIを見逃さないことと、低リスクで薬物療法の必要がない患者を識別することです。この点を理解して広く使用してもらえるよう、今も啓発活動を続けているところです。
矢﨑 先生方のお話を聞いて、動脈硬化性疾患の診療では、個々の患者がもつリスクを見極めての発症予防が重要であること、また今回のガイドラインはさまざまな専門学会が参加し、包括的な視点でリスク管理ができるよう編纂されていることがよくわかりました。本日は有意義な議論ができたと思います。ご参加いただきましてありがとうございました。

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