日本心臓財団HOME > メディアワークショップ > 第10回日本心臓財団メディアワークショップ「特定健診・特定保健指導と循環器疾患」 > 講演「特定健診・特定保健指導と循環器疾患:賛成の立場に立って」 久代 登志男 氏

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第10回日本心臓財団メディアワークショップ「特定健診・特定保健指導と循環器疾患」

特定健診・特定保健指導は、予防医学における国を挙げての壮大な実験である――。久代氏は新制度について、診断基準と指導方法に問題が残されている点に言及しながらも、「まずは“やってみる”ことで、予防医学実践のノウハウを蓄積すれば巨大なデータベースも構築できるため、これらを活用した効果的な健診や保健指導法の開発が期待される」と述べ、本制度の意義を指摘した。
 

保健指導の実施と指導の階層化は評価

従来の健康診断では、受診者の将来の健康リスクを評価し、改善できる可能性のあるリスクに対してアドバイスを行ってきた。しかし、受診者がその後どのような転帰を辿ったかまでは調査されず、絨毯爆撃的とも言える健診を毎年行っているという点が問題であった。

特定健診・特定保健指導では、まず健康診断で受診者の健康リスクの評価を行う点は従来と同様であるが、その際にまず腹部肥満を最上流に位置付け、その下に糖代謝異常、脂質代謝異常、血圧異常を置いている。腹囲が基準値を超えている場合は、追加で基準値を超えた因子の数に応じて、保健指導レベルが「情報提供レベル」「動機付け支援レベル」「積極的支援レベル」に階層化される。

各方面で話題になっている腹囲の基準(男性85cm以上/女性90cm以上)は、その妥当性について別途議論を要すると思われるが、こうした基準を策定したこと自体は従来の健診と比較して評価すべきであろう。
 

高血圧・糖尿病未発症のメタボに介入

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この度の特定健診・特定保健指導では、メタボリックシンドロームに焦点を当てており、まだ医療を受けるには至っていない「メタボ予備群」への介入を目的としている。これにより、メタボ予備群が要医療の有病者になるのを食い止める効果が期待できる。

この取り組みが有望な根拠として、米国の知見であるがフラミンガム研究では、血圧が130~139/85~89mmHgの正常高値群の心血管系疾患の発症リスクが120/80mmHg未満の至適血圧群と比較して2~3倍に増加している。4年間の経過観察では、正常高値血圧から高血圧へ移行する頻度が11倍になっている。さらに、正常高値血圧者に対して積極的な生活習慣指導を行えば、5年間の高血圧新規発症頻度は半減できることも示されている()。

また、血圧が正常でも、BMIが22.7以上の群では22.7未満の群よりも約2.5倍の頻度でII型糖尿病が新規に発症しやすくなり、血圧がやや高めの正常高値の群では新規発症頻度が約3倍になるという報告も示されている()。このデータが意味するのは、BMIと血圧が高値の人は糖尿病を発症しやすいということであり、逆に言えば、軽症高血圧あるいは糖尿病未発症のメタボ予備群に対して早期に介入することで、本態性高血圧と糖尿病の新規発症を抑制、あるいは遅らせることができるはずである。この早期介入によって成果を上げることが、特定健診・特定保健指導の最も期待される役割である。
 

データベースを構築し、効果的な指導方法の模索が可能に

このほかのメリットとして、健康診断実施後にリスクの層別化やリスク別の介入を行い、その効果を評価するという一連の作業を通すことで、国民の健康状態を網羅した大規模なデータベースの構築が可能となる。このデータベースの情報を通して、国民の健康に対してより踏み込んだ提言を行えるようになるだろう。さらに、どのような介入が最も効果的で効率的かということが判明すれば、メタボリックシンドローム対策で悩んでいる海外の国々に対して、日本から情報発信を行える可能性がある。

特定健診・特定保健指導は、いわば予防医学における国を挙げての壮大な実験である。それにより積み重ねられる予防医学実践のノウハウは、次世代に継承できるものになると考える。


【目次】
開会挨拶・座長挨拶
総論「特定健診・特定保健指導――新制度の概要」
講演「特定健診・特定保健指導と循環器疾患:賛成の立場に立って」
講演「特定健診・特定保健指導と循環器疾患:反対の立場に立って」
発言「反対の立場から」
発言「賛成の立場から」
総合討論
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