総合監修
東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学 教授 小室一成 先生 (公益財団法人日本心臓財団 理事)

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自覚症状がないまま進行し、ある日突然、発作に襲われることがある「心筋梗塞」。過去に患ったことがある人は、身をもってその恐ろしさを知っているはずです。患者さん本人はもちろん、あなたのご家族や友人が、二度と辛い思いをすることがないように、「繰り返さない」という意識を強く持ちましょう。

※このWEBサイトは循環器専門医の監修を受けていますが、疾患に対する適切な対応は患者さんの状態によって異なるため、まずは医療機関で主治医へご相談ください。当サイトの情報はあくまでひとつの参考としてお読みください。

なぜ “繰り返さないこと” が大切?

最初の心筋梗塞発症から一命をとりとめることができた今、その体をいたわり、正しい治療を続けていますか?心筋梗塞は、退院=治癒ではありません。一度心筋梗塞を患った人は、一度目の発症時よりも厳格にコントロールすることが大切です。

心筋梗塞は再発リスクのある疾患

「心筋梗塞」とは、心臓に酸素や栄養を送っている「冠動脈」という太い血管が詰まり、血液が流れなくなることで、心臓を動かす筋肉である「心筋」の一部が壊死してしまう病気です。発症直後に亡くなる場合もあります。詰まった血管を治療して血液の流れを回復させることができても、壊死してしまった心筋は元には戻りません。もし、もう一度心筋梗塞が起これば、さらに広い部分が壊死していくことにもなりかねません。

心筋梗塞を起こしたことがある人は、起こしたことがない人よりも、心筋梗塞を繰り返したり、心臓がだんだん悪くなり命を縮める「心不全」などを起こしたりするリスクが高いことが分かっています※1。そのため、一度心筋梗塞を起こした人は、さらに注意して再発を予防することが大切なのです。

「動脈硬化」をしっかり予防

冠動脈を詰まらせる原因となるのが「動脈硬化」です。動脈硬化が進行すると、血液に含まれている悪玉コレステロールなどが血管の壁の中に粥状になって溜まり、「プラーク」と呼ばれるこぶのようなものができてきます。このプラークが破裂すると、中に溜まっていたものと流れている血液がふれあうことで血栓ができ、冠動脈をふさいでしまいます。

一度心筋梗塞を起こした人は、ほかの冠動脈にもこのプラークができているかもしれません。動脈硬化が進行してまた破裂すれば、心筋梗塞を繰り返すことになります。再発を予防するには、一度目の治療を終えて退院した後の毎日を、どのように過ごすかが重要になります。動脈硬化を進行させるリスク因子をよりしっかりとコントロールできるよう、生活習慣を改善するとともに、主治医の指示に従って適切な薬物療法を継続することが大切です。

意外と知られていない、再発リスク

当プロジェクトが2019年に行った調査(※下記図参照)によると、心筋梗塞の再発リスクについて、正しく理解していない患者さんやそのご家族はなんと“約4割”にも上っています。また、再発リスクを正しく理解していない人は、正しく理解している人に比べて「再発予防に取り組んでいない」人が多いという結果も出ています。

正しく知ろう、あなたのリスク因子

心筋梗塞を繰り返さないためには、心筋梗塞で死亡するリスクを高める「脂質異常症」「肥満」「高血圧」「糖尿病」をよりしっかりとコントロールし、運動、食事、喫煙などの生活習慣を改善する必要があります。患者さん自身はもちろん、ご家族も一緒に病状について理解し、再発を予防する方法を学んで、主治医の指示に従い実践していくことが重要です。

脂質異常症(高LDL-C血症)

心筋梗塞の再発を防ぐためには、悪玉コレステロール(LDL-C)の値を積極的に下げることが勧められています※2 ※3。脂質異常症には、LDL-Cが多い「高LDL-C血症」のほか、善玉コレステロール(HDL-C)が少ない「低HDL-C血症」、HDL-C以外のコレステロールが多い「高non-HDL-C血症」、中性脂肪(トリグリセライド)が多い「高トリグリセライド血症」があります。

特に、再発予防が必要な患者さんでは、発症後早期から、少なくともLDL-C値100mg/dL未満を目指した積極的治療を行うことが大切です。また、家族性高コレステロール血症、急性冠症候群、高リスク病態(非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患、慢性腎臓病、メタボリックシンドローム、主要危険因子の重複、喫煙など)を合併する糖尿病患者さんの再発予防では、LDL-C値70mg/dL未満というさらに低い値を目指すことも考慮する必要があります。心筋梗塞を起こしたことのない脂質異常症の患者さんでは、通常LDL-C値120〜160mg/dL未満が目標とされますが、再発予防においてはさらに低い値にまで抑えることが求められています※3。そのほかの再発予防における脂質の管理目標値は、non-HDL-C値130mg/dL未満、トリグリセライドが150mg/dL未満、HDL-Cが40mg/dL以上とされています※3。これらの目標を達成できるよう、普段からコレステロールの多い食事を控えたり、運動したりするなどの生活習慣の改善を図るとともに、薬による治療をしっかりと行いましょう。薬物療法では、患者さん一人ひとりに合わせて次のような薬が使われます。

薬について
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なお、どのような食事療法、運動療法、薬物療法が適しているかは、患者さんの病状によってそれぞれ異なるので、主治医の指示に従いましょう。

《再発予防で使用される主な脂質異常症の薬※2※3

スタチン系薬
コレステロールの合成を妨げることでLDL-C値を下げる薬です。
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬
食事や胆汁からのコレステロールが小腸で吸収されることを妨げ、血中のコレステロール値を下げる薬です。
PCSK9阻害薬
肝臓でLDL-Cを取り込む受容体の分解を妨げ、血中のLDL-C値を下げる薬です。
フィブラート系薬
血中のトリグリセライド値を下げる薬です。HDL-Cが少なくトリグリセライドが多い患者さんに使われることがあります。
EPA製剤
EPA(エイコサペンタエン酸)とは、魚の油に含まれるn-3 系多価不飽和脂肪酸のことです。トリグリセライドが多い患者さんなどにスタチンと併せて使われることがあります。

肥満

心筋梗塞を繰り返さないためには、体重管理が大切です。太りすぎは心筋梗塞による死亡リスクを高めることが分かっています。一方で、最近ではサルコペニアやフレイルといった高齢者の筋肉減少や虚弱という状態による体重減少、腎臓や肝臓の病気やがんなどがあることでの体重減少も同様に、心筋梗塞の死亡リスクを高めることがわかってきています。そのため、正常体重とされるBMI※418.5 ~25 kg/㎡を維持することが勧められています※2

特に、肥満に該当するBMIが25kg/㎡以上の人は、運動や食事など生活習慣を改善して、理想体重に向けて体重を減らすようにしましょう※2。ただし、急激なダイエットはリバウンドを招くことがあるので注意が必要です。また、高齢の患者さんでは体重を減らしすぎると筋肉まで減ってしまうことがあるので、たんぱく質など必要な栄養素が不足しないよう、バランスよく食べることも大切です。3~6カ月で、体重やウエスト径の3%以上の減少を目標にした生活習慣を心がけましょう※2

高血圧

心筋梗塞を繰り返さないためには、血圧を十分に下げることが重要です。血圧が120/80mmHgを超えて高くなるほど、心筋梗塞による死亡率が高くなることが知られています※5。また、心筋梗塞後の治療で血小板薬を使用している患者さんでは、高血圧による頭蓋内出血のリスクもあるため、より厳格な血圧管理が必要とされています。

心筋梗塞など冠動脈疾患の患者さんの降圧目標は、130/80mmHg未満とされています※6。「食塩の摂取を控える」「野菜や果物を積極的に摂る」「適正体重を保つ」「運動をする」「節酒や禁煙をする」などの生活習慣の改善とともに、薬による治療をしっかり続けて、血圧をコントロールしましょう。
心筋梗塞後の患者さんの再発予防には、血圧を下げるとともに、心不全の進行を予防したり狭心症の症状を抑えたりするACE阻害薬、ARB、β遮断薬といった薬の使用が勧められています。

薬について
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なお、どのような食事療法、運動療法、薬物療法が適しているかは、患者さんの病状によってそれぞれ異なるので、主治医の指示に従いましょう。

《再発予防で使用される主な高血圧の薬※6

ACE阻害薬/ARB
血液や組織の中にあるレニン・アンジオテンシン(RA)系と呼ばれる血管を収縮する物質の働きを抑えることにより血圧を下げ、心臓の負担をやわらげます。腎臓に対してもよい効果があります。心不全の発症を抑えます。
β遮断薬
血圧を下げ脈拍数を減らすことで、心臓の負担を軽くします。
Ca拮抗薬
血管の筋肉を緩めて血圧を下げる薬です。心不全の発症を抑えます。
利尿薬
尿からナトリウムが取り込まれることを抑え、血圧を下げる薬です。うっ血の改善などに使います。

糖尿病

心筋梗塞を繰り返さないためには、血糖コントロールが大切です。糖尿病が心筋梗塞を起こすリスクになることは、これまでの研究から明らかになっています※2 ※7。心筋梗塞を起こした後の1年以内の死亡率が、糖尿病の人では糖尿病でない人よりも高いことが分かっています※8。また、血糖値がそれほど高くない糖尿病予備軍の人であっても、心筋梗塞を起こすリスクが高まることが知られています※2

そのため、心筋梗塞の再発を予防するにあたっては、糖尿病の人は早期から血糖コントロールを行うこと※2 ※7、糖尿病にかかっていない人も、予備軍になっていないか検査でチェックしておくことが勧められています※2。血糖値をコントロールするためには、食事療法、運動療法、薬物療法を正しく行うことが大切です。また、血糖管理だけでなく、血圧、脂質、喫煙、肥満などを合わせて改善することが重要です。薬物療法では、患者さん一人ひとりに合わせて次のような薬が使われます。

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なお、どのような食事療法、運動療法、薬物療法が適しているかは、患者さんの病状によってそれぞれ異なるので、主治医の指示に従いましょう。

《再発予防で使用される主な糖尿病の薬※7

ビグアナイド薬
インスリンの働きを高める薬です。
SGLT2阻害薬
ブドウ糖の尿への排出を増やし、血糖の上昇を防ぐ薬です。血圧が下がり、体重も減少することが知られています。
GLP-1受容体作動薬
週1回注射する薬です。食後のインスリン分泌を増やし、空腹時や食後の高血糖を抑制します。体重を減少させることも知られています。
チアゾリジン薬
肝臓や骨格筋のインスリンの働きを高め、肝臓からのブドウ糖の放出を抑えることで、血糖値を下げます。
DPP-4阻害薬
血糖値の上昇に合わせてインスリンの分泌を促し、主に食後の高血糖を改善させる薬です。

喫煙

喫煙は心筋梗塞が発症するリスクを高め、タバコの種類にかかわらず有害であることがわかっています。新型タバコについても、心血管疾患の発症リスクを上昇させる可能性が指摘されています※2。喫煙は心血管疾患の再発率を高めるだけでなく、がんや肺の病気などそのほかのリスクも高めることがわかっています※2
禁煙すると、心筋梗塞を発症するリスクが低下することがわかっています※9。心筋梗塞を繰り返さないためには、必ず禁煙を達成しましょう。また、受動喫煙のリスクもあるので、ご家族や周りの人にも気をつけてもらうことが望まれます※2

「心臓リハビリテーション」の重要性

「心臓リハビリテーション」とは、心筋梗塞や心不全などの患者さんに対して、運動を中心にリスク因子の是正、教育、カウンセリングなどを長期にわたって進める包括的なプログラムです。治療後の経過(予後)をよりよくするための、大きな助けとなります。

長い目で見て一歩ずつ。
医師の指導のもと継続的なリハビリを

“リハビリテーション”と聞くと、歩行訓練や機械を使ったトレーニングといった運動中心のプログラムを想像する人が多いかもしれませんが、心臓リハビリテーションは運動だけではなく、生活習慣の見直しや服薬、食事など、生活全般にわたる取り組みで構成されています。入院して心臓の手術を受けた患者さんが、身体的にも心理的にも通常の状態に回復できるまで少しずつ慣れていくこと、その後も動脈硬化の進行を抑え、再発を予防していくことを目指して行います。

心臓リハビリテーションは大きく3つの時期に分けられ、急性期は「日常生活への復帰」、回復期は「社会生活への復帰」、維持期は「生涯にわたる快適な生活と再発予防」を目指して行います。プログラムは一人ひとりに合わせて提案され、例えば運動療法では、歩行、軽いジョギング、水泳、サイクリングなどの大きな筋肉を使う持久的な有酸素運動が行われます。心筋梗塞を繰り返さないためには、主治医の指示に従って、心臓リハビリテーションに積極的に参加するようにしましょう。

“再発を予防するために
心臓リハビリテーションに
参加しましょう”

「心筋梗塞を発症すると、入院による治療が必要になります。以前はなるべくベッドの上で安静に過ごすことが推奨されていましたが、現在は、早期の社会復帰と再発の予防のために、入院後の早い段階から心臓リハビリテーションを始めることが推奨されています。心臓リハビリテーションの実施により、死亡率が低下することや、心筋梗塞の原因となる冠動脈プラークの破綻防止が期待できます。
また、高齢の方では筋肉量が落ち、栄養状態や神経の働きが低下し、それによって基礎代謝なども落ちている方がいます。この状態は医学的に「フレイル(虚弱)」と呼ばれ、要介護状態や死亡に至るリスクとなることが知られています。心臓リハビリテーションはこうしたフレイル対策という観点からも、ぜひお勧めしたいと思います」

(東京大学大学院医学系研究科
循環器内科学 教授 小室一成先生のコメント)

  1. ※1 The Japanese Coronary Artery Disease (JCAD) Study Investigators. Circ J 2006; 70:1256-1262.
  2. ※2 参考:『急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)』(日本循環器学会ほか)
  3. ※3 参考:『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版』(日本動脈硬化学会)
  4. ※4 BMI(Body Mass Index)=体重kg ÷ (身長m)2
  5. ※5 参考:『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版』(日本動脈硬化学会)
  1. ※6 参考:『高血圧治療ガイドライン2019』(日本高血圧学会)
  2. ※7 参考:『糖尿病診療ガイドライン2019』(日本糖尿病学会)
  3. ※8 Donahoe SM et al. JAMA. 2007;298(7):765-775.
  4. ※9 Chow CK et al. Circulation 2010; 121:750–758.