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心不全 Question 8

ジギタリスはもう使わない薬剤ですか

ジギタリスは18世紀後半から心不全に使用されている治療薬で、てんかんなどの神経疾患にも用いられた時期があります。ゴッホの作品に黄色が多用されている(緑の野原を黄色に描いています)のは、てんかんに対して処方されていたジギタリスの副作用である黄視症の影響と主張する学者もいます。
 
ジギタリスには、心筋細胞のカルシウム濃度をあげて収縮力を増加させる強心薬としての作用と迷走神経や房室結節へ作用して心拍数を減少させる作用があります。心不全の治療と心房細動のレートコントロールのために長年、用いられてきましたが、近年その有効性を確認する試験が行われています。

洞調律の心不全では、ジギタリスを中止すると心不全の悪化がみられ(PROVED、RADIANCE)、プラセボと比較して心不全悪化を予防すること(DIG)でその有効性が確認されています。これは心拍数減少によるものと考えられています。しかし、ジギタリスには予後改善効果が認められないため、現在では心不全治療薬の第一選択は予後改善効果のあるβ遮断薬やACE阻害薬となっています。さらに、内服による心房細動のレートコントロールでは、ジギタリスは運動時の心拍数上昇を抑えないため、やはりβ遮断薬が第一選択となっています。

それでは、ジギタリスはもう使わない薬剤なのでしょうか。

ジギタリスのよい適応として、急性心不全をともなう頻脈性心房細動のレートコントロールがあります。この場合β遮断薬が禁忌とされ、ジギタリス(速効性のあるジゴキシン)の静脈内投与が行われてきました。ところが最近、超短時間作用型のβ1遮断薬であるlandiololがジゴキシンの静脈内投与よりも有効であったとする試験(J-Land)が日本で発表され、保険適応の追加がありました。やはり、ジギタリスの適応は減少しつつあるといえましょう。

なお、ジギタリスは、血中濃度の治療域が狭く、黄視症以外にも、徐脈性または頻脈性の催不整脈作用、食欲低下などの副作用があります。特に高齢者では潜在的に腎機能が低下しているため、腎排泄のジゴキシンは0.125mg/日を超える投与を避けることが必要です(Beers criteria:American Geriatrics Society 2012)。また、他薬剤との相互作用により、血中濃度が上昇し中毒となる例が報告されています。表にジギタリスとの相互作用に注意すべき薬剤を示します。最近では、アジスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬や抗真菌薬などとの併用による有害事象報告が多くなっています。

表 ジギタリスとの併用で、禁忌または特に注意が必要な薬剤(主な物のみ)
小早川表.jpg

このように、さまざまな場面でジギタリスは第一選択からはずれ、洞調律の心不全に対して新規に処方することは、少なくなりました。また副作用や薬剤相互作用にも注意が必要です。しかし、『第二』選択とはなりえます。例えば、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)や副作用や心不全増悪のため、β遮断薬が投与できない心房細動のレートコントロールです。ジギタリスは今でも使うことのある薬ですので、適応や処方時の注意を知っておくことが大切です。

 

Only One Message

ジギタリスは、心不全と心房細動に対し、第二選択として副作用に注意して使う

回答:小早川 直

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