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不整脈 Question 12

心房細動と甲状腺機能亢進症の関係について教えてください

甲状腺機能亢進症が心房細動を発症することは古くから知られています。杉本らは、甲状腺機能亢進症 11,309 例のうち 288 例 (2.5%) に心房細動の合併があると報告しました (杉本ら. 日内会誌, 1989; 78: 577-581)。

甲状腺ホルモンはカテコラミンに対する心筋の感受性を亢進させ、心収縮力の増強、心拍数の増加、心筋の不応期短縮、房室伝導の亢進を生じます。心房筋の不応期の短縮は心房細動の発生に寄与し、房室伝導の亢進は心房細動時の頻脈形成に関与します。

Watanabe らは、トリヨードサイロニン(T3)による心房筋の Kv 1.5 遺伝子の発現亢進が心房細動発生の機序に関連することを明らかにしました (Watanabe H, et al. Biochem Biophys Res Commun, 2003; 308: 439-444)。一方、甲状腺機能低下症では、心房細動は起きにくいとの研究結果があります。

心房細動の治療ですが、甲状腺機能亢進症の治療を行わずして不整脈治療を行っても十分な効果は得られません。日本循環器学会の心房細動治療ガイドライン2013 (班長: 井上博) では、甲状腺機能亢進症に伴う頻脈性の心房細動に対して以下の治療法を推奨しています。
 

甲状腺機能の正常化を優先し,心房細動の治療はβ 遮断薬を使用し,心拍数調節に努める.
β 遮断薬が使用できない状況下ではベラパミル,ジルチアゼムを使用する.
甲状腺機能が正常に復した後に、心房細動の自然停止が約70%に認められる (Nakazawa H, et al. Eur Heart J 2000; 21: 327-333)
心房細動の罹病期間が長いものや,甲状腺機能が正常化したあと3 か月以上洞調律化しないものは除細動の対象となる.
この場合,抗凝固療法施行後の電気的除細動と抗不整脈薬による再発予防が必要である.

 
われわれの診療の流れは以下の通りです。

1. 心房細動の初診患者さんでは、問診ならびに頚部の診察、TSH, FT4 をルーチン計測します。TSH↓ 、FT4↑があれば TRAb、123-I 接種率をチェックし、甲状腺機能亢進症の鑑別を行います。

2. 甲状腺機能亢進症であれば、抗甲状腺薬の投与とともにβ遮断薬が第一選択となりますが、その前に心不全の合併を否定しなければなりません。通常、甲状腺機能亢進症では体重減少の訴えが認められますが、逆に急激な体重増加のエピソードが得られれば、心不全による浮腫を強く疑います。患者さんは動悸や息切れなどの症状を訴えることが多いですが、それらが頻脈に起因するのか、あるいは左心不全による低酸素血症に伴う症状なのか見極める必要があります。

3. 実際の検査では左心不全よりも右心不全を認めることが多いと感じます。頸動脈怒張、肝腫大、下腿浮腫などの理学所見があれば右心不全の加療が重要でしょう。いっぽう胸部レントゲンにおける肺うっ血、心臓超音波における左室低心機能があれば、左心不全に対する治療を行う必要があります。
※ いずれの場合も利尿剤を必要とし、β遮断薬の慎重な導入が必要ですので、循環器専門医にご相談頂くことが好ましいでしょう。

4. 心不全の合併がなければ、個人的には β1選択性の高いビソプロロール (商品名メインテート) を 2.5mg から開始し、忍容性があれば1日 5.0mg 程度使用しています。内服を好まない患者さんには、β遮断薬の貼り薬 (商品名ビソノテープ) が便利です。β遮断薬で十分な徐拍化が得られない場合は、ベラパミル (商品名ワソラン) 40mg を追加処方しています。

5. 甲状腺機能亢進症のコントロールが付けば自然に徐拍化してきますので、心拍数を落としすぎないことが重要です。わたくしの場合は、目標心拍は100以下と設定し、患者さんの動悸の訴えが無くなった時点で投薬量を行わないようにしています。

6. 抗凝固療法については、CHADS2 や CHA2DS2-VASc スコア (不整脈Q5 参照) に準じて適応を決めます。甲状腺機能亢進症では薬剤相互作用によりワルファリンによる PT-INR の調整が困難なケースがあります。その場合は、甲状腺機能が安定するまでは新規抗凝固薬のほうが使用しやすいと思います。

Only One Message

甲状腺機能が正常化すれば、自然に徐拍化し洞調律を認めるので、積極的な抗不整脈薬の投与は不要である。

回答:網野 真理

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