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診療のヒント100 メッセージはひとつだけ

動脈疾患・脂質異常 Question 1

動脈硬化という言葉は昔から使われています。最近は新しい考え方が現われているそうですが...

(粥状)動脈硬化とは動脈にコレステロールや中性脂肪などがたまって動脈が肥厚し硬化した状態であり、これによって引き起こされる様々な病態を動脈硬化症といいます。動脈硬化症は、脂質異常症、糖尿病、高血圧、喫煙などの危険因子により生じると考えられ、最終的には動脈の血流が制限あるいは遮断されて、心血管疾患や脳血管疾患などを引き起こすことが知られています。

現代の動脈硬化のメカニズムに関する考え方は、Rossの「傷害に対する反応」仮説(Ross R, et al. N Engl J Med 1976)に “炎症”というキーワードが加わることにより、説明されています。すなわち、血管の内腔は一層の内皮細胞で覆われており、そのまわりを中膜の平滑筋細胞が囲んで血圧や血流を調整していますが、血管内皮細胞が障害されると炎症細胞などが血管壁へ浸潤します。すなわち血液中の低比重リポ蛋白(LDL)が内膜に入り込み、酸化を受けて酸化LDLに変化します。それを処理するために白血球の一種である単球も内膜へと入り込み、マクロファージに変わります。マクロファージは酸化LDLを取り込み、泡沫細胞(foam cell)に変化し、各種サイトカインを放出して血管局所での慢性炎症反応を惹起します。これが引き金となり中膜の平滑筋細胞が形質転換し、内膜に遊走して増加するという考え方です。

しかしながら、その契機および炎症持続のメカニズムについては永らく不明でした。一方で、最近、慢性炎症としての動脈硬化に自然免疫や獲得免疫の関与が示唆されています。食細胞が中心となる自然免疫はほぼあらゆる生物における感染防御の基礎であり、病原ひとつひとつを個別に認識するのではなく、様々な病原が共有する構造をパターン化させて認識します(pathogen associated molecular patterns: PAMPs)。

そのような抗原のパターンを認識する受容体のなかに樹状細胞やマクロファージの表面にあるToll-like receptor(TLRs)やスカベンジャー受容体があります。TLRsは微生物に共通して認められる蛋白、脂質、核酸など様々な分子すなわちPAMPsを認識することが知られており、これらのTLRのリガンド(特定の受容体に特異的に結合する物質)は動脈硬化の進展に関与することが示唆されています。

さらに、この自然免疫システムは自身に問題が発生した場合にも認識できるように進化しており、ネクローシスによる細胞死や細胞外基質の分解を認識することが報告されています。このような自己由来の分子群はdamage associated molecular pattern(DAMPs)あるいはdanger signalと呼ばれており、動脈硬化の粥状硬化巣の壊死性コアには死細胞成分が集積し細胞外基質も豊富に存在することから、様々なdanger signalが局所に存在していることが示されています。

そして、最近、無菌性炎症としての動脈硬化の惹起経路の1つとして最も注目されているのが自然免疫系の担い手の1つであるインフラソームとよばれる細胞内蛋白質複合体です。インフラマソームは、その構成蛋白であるNod様受容体(Nod-like receptor: NLR)によりPAMPsやDAMPsを認識し、最終的にカスパーゼ1を活性化することでinterleukin (IL)-1βおよびIL-18を分泌することにより炎症を惹起します。

最近、動脈硬化巣に認められるマクロファージがコレステロール結晶を取り込み、最終的にnucleotide-binding domain, leucine-rich–containing family, pyrin domain–containing-3(NLRP3)インフラマソーム活性化が誘導されることが報告され注目を浴びています(Duewell P, et al. Nature. 2010)。IL-1βやIL-18はTNFα、IL-6やinterferonγといった炎症性サイトカインの産生を刺激し、マクロファージやT細胞といった免疫細胞のさらなる呼び寄せを誘導することから、NLRP3が動脈硬化発症の中心的調節因子である可能性が示唆されています()。

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Only One Message

動脈硬化は慢性炎症性疾患であるという考えのもと、新しい診断、治療薬の研究・開発が行われている。

回答:添木 武

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