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虚血性心疾患 Question 7

急性冠症候群と急性心筋梗塞はどこが違うのですか

心筋梗塞は、心筋を栄養する冠動脈からの血液の供給が途絶し、心筋が壊死する疾患です。特に急性心筋梗塞とは発症して間もない、心筋壊死が急速に進行しつつある病態であり、ポンプ失調、致死性不整脈の出現、心破裂等の致命的な病態が出現し得ます。また壊死心筋の程度が広範で、さらに心筋リモデリングまできたすと、慢性期の生命予後にも影響します。急性心筋梗塞を的確に診断し迅速な治療を行うことは、循環器診療において非常に重要な事項です。

心筋壊死に至る血流の途絶はどのようにして生じるのでしょうか。心筋梗塞をはじめとした虚血性心疾患は、冠動脈の動脈硬化を主たる病因としています。かつては動脈硬化が進行し狭窄から閉塞に至った結果、血流が途絶し心筋梗塞を発症すると考えられていました。しかし冠動脈の狭窄が時間をかけて閉塞に至った場合、側副血行路の発達により必ずしも心筋壊死には至りません。また急性心筋梗塞の発症に至った冠動脈の責任病変は、必ずしも有意狭窄を有していません。

現在では、冠動脈の動脈硬化病変にプラーク破綻をきたし、急速に血栓形成が進展して血流が途絶することにより心筋梗塞に至ると考えらえています()。正常冠動脈(①)の動脈硬化が進展すると、冠動脈プラークが形成されます(②)。これが単に内腔の狭窄をきたすのみであれば(③)、労作に伴う心筋の酸素需要に供給が追い付かない、労作性狭心症という病態になります。しかし冠動脈プラークが不安定な状態となり、傷を生じることがあります。これがプラーク破綻です(④)。プラーク破綻が生じると血小板凝集から凝固因子の活性化に至り、やがて血栓を形成します(⑤)。この血栓が増大すると冠動脈が閉塞し(⑥)、血流が途絶して心筋壊死に至ります。

図 動脈硬化の進展
杉下靖図.jpg

迅速な対処を要する虚血性心疾患には、他に不安定狭心症があります。これは短期間に急速に増悪する狭心症発作を症状の主体とし、特に安静時胸痛を有するものは重篤です。こちらも病態生理としてプラーク破綻が関与しており、進行する血栓形成により冠動脈が閉塞しかかっている病態と考えられます。血栓閉塞と再開通にあわせて胸部症状の出現と緩解を繰り返し、さらに閉塞が持続すると心筋梗塞に移行するという点で、まさに不安定狭心症の病態を示しています。

急性心筋梗塞と不安定狭心症は、冠動脈のプラーク破綻を起点として血栓形成が急速に進行するという点で病態生理学的に共通しています。そこでこの点に注目し、「急性冠症候群」という概念が登場しました。つまり、急性冠症候群とは冠動脈のプラーク破綻を起因として急速に血栓形成・閉塞が進行しつつある疾患、と考えられます。そして急性冠症候群には急性心筋梗塞と不安定狭心症が含まれ、心筋壊死にまで至ると急性心筋梗塞、有意な心筋壊死にまで至らなければ不安定狭心症、となります。

急性冠症候群という概念は単に用語の問題のみではなく、治療戦略にも大きな影響を与えました。動脈硬化に対する治療は冠危険因子のコントロールが中心となりますが、急性冠症候群への対応としてはプラーク破綻を生じ得る不安定プラークの安定化が重要です。そこで、スタチンのプラーク安定化作用が注目されるようになりました。また急性冠症候群に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)も安定プラークに対するものとは多少戦略が異なり、血栓の存在や不安定プラーク拡張に伴う末梢塞栓に関して注意や対処が必要です。

以上の通り、急性心筋梗塞の病態生理が明らかになるにつれて、急性冠症候群という概念が登場しました。冠動脈がプラーク破綻を起こすことにより急性冠症候群を発症し、さらに血栓閉塞が持続すると心筋が壊死して急性心筋梗塞を発症する。ひいては心筋壊死に伴う様々な弊害が出現する、という一連の病態生理を理解しておくことは、これらの疾患に対して適切な診療を実施するうえで非常に重要なことでしょう。

Only One Message

急性冠症候群は冠動脈のプラーク破綻を起因とした疾患であり、さらに血栓閉塞から心筋壊死に至ると急性心筋梗塞となる。

回答:杉下 靖之

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