日本心臓財団HOME > メディアワークショップ > 第17回「ネット時代の健康管理」~生活習慣病の遠隔管理から被災地支援まで~ > 災害時の心血管リスク予防からITを用いた慢性期リスクの現状と展望

メディアワークショップ

第17回「ネット時代の健康管理」~生活習慣病の遠隔管理から被災地支援まで~

東日本大震災によってもたらされた災禍の数々は未だ記憶に新しいが、同規模の災害はまたすぐに訪れる可能性が否定できない現況にある。実際に東日本大震災の発生時、津波による被害を受けた宮城県南三陸町の公立南三陸診療所と連携して災害時循環器リスク予防システムを構築された苅尾氏が、災害時のストレスによる心疾患のリスク上昇から、遠隔地からの医療介入の実際、ITと家庭血圧管理の現状と展望について概説した。
 

震災後に循環器疾患の発生を防ぐために行われたネットワークの構築

これまでに阪神淡路大震災、そして東日本大震災などの経験から、ストレスに関連した循環器疾患は時系列で発症することが認められている(図1)。

fig_Kario-1.gif
図1.災害時関連疾患の経時的変化
 
まず急性期、災害当日に起きるのが突然死、同じく突然発症するたこつぼ型心筋症などである。そして、数日経過して認められるのが肺塞栓症、いわゆるエコノミークラス症候群といわれる致死的な疾患で、下肢にできた血栓が肺に流れて生じる。  それのみならず、脳卒中や心筋梗塞、大動脈乖離、心不全といった疾患も、災害から数日後に血圧の上昇とともに生じ、イベントの発症へとつながる。ただし、この集団は発症まで猶予があるため、きちんと対処することにより予防が可能となる。

 

fig_Kario-2.gif
図2. 阪神淡路大震災後の血圧上昇
 
阪神淡路大震災当時は淡路島に赴任しており、被災者であふれる体育館の中、心血管イベントが確実に増えていると実感した。このような状況は単なる所感ではなく定量的に評価して数字を残すべきと考え、データをまとめたところ、冠動脈疾患は1.5倍、脳卒中に関しては実に2倍近くに発症数が増加していた。そして、イベント発症の背景について検討したところ、まず、血圧の上昇との関連が認められた(図2)。
 
様々なリスクを層別化してみると、血圧が下がりにくかった集団では、微量アルブミン尿が認められており、交感神経の亢進によって食塩感受性高血圧に至ったと考えられる。  また、白衣高血圧が震災後に高血圧に移行した例もあり、大きな外的ストレスが加わることによって血圧が上がり、戻らなくなる状況も生じていた。

 

fig_Kario-3.gif

図3. 災害時循環器予防ネット Disaster Cardiovascular Prevention (DCAP) Network
 
そして、未曾有の災害となった2011年3月の東日本大震災発生時、自治医科大学の卒業生が被災地近辺にも大勢勤務していたこともあって、ストレスに関連した循環器疾患を防ぐために、在宅の被災者、被災地の医療機関、そして自治医科大学とデータセンターを結ぶ、災害時循環器予防ネットDisaster Cardiovascular Prevention (DCAP) Networkというシステムを構築した(図3)。
 
システムの構築に際しては、約6社のIT関連会社の協力を得た。避難所にタッチセンサー付きの血圧計を配置して、血圧データをデータセンターに集約した。そして遠隔でモニタリングしながら、循環器疾患のイベントリスクが高いと診断した被災者に対する治療が行われた。

診断基準境界域の設置

高LDL-C血症の診断基準(LDL-C 140mg/dL以上)をはじめ、脂質異常症の診断基準は前回と同様であるが、今回の改訂では、LDL-C 120~139mg/dLの場合を境界域高LDL-C血症とすることが加えられた。これは、診察した患者が140mg/dL未満であっても糖尿病や脳梗塞などを罹患している場合があり、こういった高リスクの患者を見逃さないことを目的としている。

動脈硬化性疾患の包括的管理

高血圧の先制医療は、血圧変動性を指標に行うのが有用である。まず、血圧ほどエビデンスが確立したバイオマーカー(生物学的指標)は他にない。心血管死亡も、115/75mmHgをボトムに、収縮期血圧の上昇に伴って指数関数的に増加する(図4)。
 
fig_Kario-4.gif
図4 血圧と心血管死亡の相関図
 
また、血圧の変動は個人のストレスとも直結しているため、その指標にもなる。さらには、血糖値の測定のような採血は不要で、非侵襲的に様々な場所で測定することができる。そして治療することによって目に見えるかたちで改善が可能であり、生活習慣の改善による実感も得やすい。
 
血圧は季節に伴い変動するが、それ自体がイベントのトリガーになっている。日本人の場合、心疾患や脳血管疾患は、夏に比べて冬場(12月から2月)の発症率が高く、約2倍に増加する。ITのサポートによってこうした変動を管理することにより、適切な指導や薬剤の処方も可能になる。

IT・家庭血圧管理の最先端と展望

最後に、家庭血圧のモニタリングの有用性について取り上げる。家庭血圧は、起床後1時間以内と、就寝直前の2回測定が推奨されている。20014年4月に出た日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2014」でも、「家庭血圧は原則2回測定し,その平均値をその機会の血圧値として用いる」と記載されている。朝の血圧は基本的には135/80mmHg以下にコントロールすることが大切だが、夜間に血圧が上昇する状況もあれば、一度下がっても朝方に交感神経の亢進から上昇するモーニングサージという例もある。利尿薬を併用している場合はこうした高血圧のタイプにより薬物療法も異なるが、朝の血圧測定のみではその鑑別が難しい。われわれの研究からは、モーニングサージが脳卒中のイベント発生において約2.7倍のリスクになることが明らかになっている。
 
fig_Kario-5.gif
図5. 夜間血圧と臓器障害:JHOP研究
 
通常、夜間に血圧は下降するが、下がらない場合は臓器障害が進展し、イベントのリスクになる(図5)。夜間における血圧測定の重要性は高いものの、これまでは測定が難しいという状況にあった。それがIT化の進展に伴い、家庭での測定が可能になりつつある。現在われわれの施設でも機器メーカーと共同で開発を進め、レジストリ研究を行っているところである。現在、約5,000人がエントリーしているが、これを1万人くらいまで増やし、家庭で測定する夜間血圧の標準的な評価法の確立を目指している。
 
血圧の管理は、災害時の急性期から慢性期に至るまで、心血管のリスク管理としての有用性が高い。IT化の進展に伴い、家庭血圧の管理システムが実現可能になりつつある。

【目次】
ご寄付のお願い