メディアワークショップ

一般市民の皆さんに対する心臓病を制圧するため情報発信、啓発活動を目的に、
情報発信能力の高い、メディアの方々を対象にしたワークショップを開催しております。

第14回日本心臓財団メディアワークショップ「コール&プッシュ!プッシュ!プッシュ!」?一般人による救命救急の今?

自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator:AED)普及に伴い、現在、院外心停止に対する救命処置の大部分は一般市民に委ねられている。したがって、院外で救命処置が適切に行われるためには、その方法をしっかりと一般市民に教育する必要がある。石見氏は、心停止患者に対する救命処置の教育・普及について解説した。
 

救命の主役は専門医ではなく一般市民にシフトした

図1 一般市民による心肺蘇生実施の割合
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突然死は患者の自宅や公共の場で起こることが多く、急性心筋梗塞の場合、患者の多くは病院に搬送される前に死亡するといわれている。心疾患による突然死を防ぐためには、院外で一般市民が救命処置を行うことが重要である。AEDは、専門医だけでなく一般市民も電気ショックを行えるよう開発された救命器具であり、現在、日本全国に約27万台設置されている。AEDを用いて迅速に電気ショックが行われると約2倍救命率が上がると報告されており(Kitamura T et al. N Engl J Med. 2010; 362: 994-1004)、AEDの普及による院外心停止例の救命率向上が期待されている。しかし、日本はAEDの普及率が世界のトップクラスであるが、院外心停止患者に対して一般市民が心肺蘇生(Cardiopulmonary Resuscitation:CPR)を実施している割合は1/3程度であり(図1)、依然として心停止患者の救命率は低い。

いま、院外心停止患者の救命率を向上させるために、救命処置の教育・普及と実践が必要とされている。
 

胸骨圧迫のみでもCPRを実践することが重要

現在、「CPRの人工呼吸を省くべきか否か」は専門家の中で意見が分かれている。心臓性心停止患者に対しては、胸骨圧迫のみのCPRでも人工呼吸を含むCPRと同等以上の効果が認められるが、非心臓性心停止患者には人工呼吸を行うことで、さらに救命率が上がるとの報告がある(Kitamura T et al. Lancet. 2010; 375: 1347-54)。しかし、最も重要なのは、何もしないよりは何らかのCPRを行う方が良いということである。

図2 「コール&プッシュ」
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CPRを行う現場は非常に混乱することが多い。よって、CPRを教育・普及する上では、緊急の状況に対する不安や抵抗感などの障害を取り払い、「完璧な蘇生法ではなくとも、何かできることをしてほしい」というメッセージを伝えることが重要である。ガイドライン改訂に先駆けて日本循環器学会が発表した「コール&プッシュ」は、一般市民が習得しやすいように、誰でもできる蘇生法として手技を単純化したものである(図2)。「コール&プッシュ」には"人が倒れたら119番通報をして、ただひたすらに胸を強く押してください"というシンプルなメッセージがこめられている。心停止患者には、胸骨圧迫のみでもCPRを施行することが重要である。
 

一般市民が救命処置を身近に感じる環境作りを

図3 「PUSHプロジェクト」
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CPRを体系的に普及させていくために、「日本蘇生協議会(JRC)ガイドライン2010」ではCPRを学校教育に導入することを推奨している。しかし、多くの学校では講習にあてる予算や時間、指導のノウハウが不足しているため実現しにくいのが現状である。石見氏は、「心停止患者を目の前にして怖れずに救命処置を行うために、講習では話や映像だけでなく可能な限り体験させることが必要である」と強調し、胸骨圧迫のトレーニングキット「あっぱくん」を紹介した。45分程度の学校の授業時間内で効率よく胸骨圧迫を体験できるよう、1~2人に1個用意する簡易的なキットとして2,500円(税別)/個という安価で提供されているが、同封されたDVD教材で講習のクオリティがしっかり担保されるように仕上がっている。現在、「あっぱくん」などの胸骨圧迫体験キットを使用し、各地で「PUSHプロジェクト(http://osakalifesupport.jp/push/index.html)」(図3)の講習会が開かれている。PUSH講習会は、胸骨圧迫のみのシンプルな内容であるため、一度に大人数に指導することも可能であり、数千人規模の受講者を対象にした大規模の講習も予定されている。

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また、大阪府豊中市では、毎年、全市民の5%にあたる約1万9千人に対して救命処置の講習会が開かれている。このように、地域を通じて救命処置を広めることも必要である。今後、胸骨圧迫をより簡易的に体験できるように評価機能を付けた「あっぱくんプロ」や、低コストに仕上げた「あっぱくんライト」の販売が予定され、iPhoneのアプリで使える心肺蘇生支援ソフトの開発も進められている。石見氏は、「CPRとAEDの施行が社会に浸透するには、広く一般市民が救命処置を行う重要性を認識することが必要である。われわれ医療者だけでなく、心停止で家族を亡くしたご遺族や生還者からのメッセージ、学生の取り組み等の市民の力とメディアの力でCPRとAEDの施行が広がることを願う」と述べ、講演を締めくくった。


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