疾患別解説

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ブルガダ症候群の診断と治療

39歳 男性
2012年9月12日

4年前、原因不明の失神があり、息苦しさから徐々に目の前が暗くなり意識を失いました。その後自然回復し、病院で検査しましたが異常ありませんでした。
今年の5月に会社の健康診断でブルガダ症候群の疑いを指摘されました。大学病院で精密検査を受けたところ、やはりブルガダ症候群の波形が見受けられるため、電気生理検査の実施を進められましたが、当時は受ける気がなかったため保留にしました。
その後、自宅で椅子に座っている状態で腰痛が発生した直後、失神しましたが、意識は1~2分程度で回復しました。
諸事情により、別の大学病院で再診を始めて各種検査を行いましたが異常なしとの診断でした。しかし、失神原因が気になったため、サンリズム負荷試験の実施を希望しブルガダ型心電図波形が確認されました。
主治医の判断は「ブルガダ症候群の可能性はあるが、発作を起こす可能性は低い」とのことでした。
仮に電気生理検査を実施して発作が誘発されたとしても、今後の発生頻度の予測にはならず状況は変わらないとのご意見でしたので、現状経過観察としています。

過去に起きた失神については、神経調節性失神の可能性が高いということは自分でも認識しているものの、主治医が「ICD埋め込みを薦めるのは一度でも心肺蘇生を行ったことがある場合だけ。検査結果が陽性でも、失神のみの場合は該当しない。」とのご意見でしたが、このままで大丈夫でしょうか。

回答

ブルガダ症候群は比較的最近になって一般に知られるようになった疾患であるため、その診断基準や治療方針に関してはいろいろと議論のあるところです。
わが国では、専門家の意見を集約して作成された日本循環器学会のガイドラインにしたがって診療するのが一般的ですが、これはあくまでガイドラインであって
絶対にその通りにしなければならないものではありません。
以下にそのガイドラインの一部をお示しします。
 
まずブルガダ症候群の診断に関しては、
『QT延長症候群(先天性・二次性)とBrugada症候群の診療に関するガイドライン』で、
type 1の心電図(coved型といわれる典型的な心電図所見で、薬剤投与後の場合も含む)が右胸部誘導の一つ以上に認められることに加え,
1)多形性心室頻拍・心室細動が記録されている
2)45才以下の突然死の家族歴がある
3)家族に典型的type 1の心電図のひとがいる
4)多形性心室頻拍・心室細動が電気生理学的検査によって誘発される
5)失神や夜間の瀕死期呼吸を認めるのうち一つ以上を満足するもの、
とされています。

またブルガダ症候群の治療に関しては、現在のところ植え込み型除細動器の装着が唯一の治療法で、
『不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)』では
1. 心停止蘇生例
2. 自然停止する心室細動,多形性心室頻拍が確認されている場合
はClass Iとして適応ありと判断し、
次にブルガダ型心電図(coved型)を有する例で,
以下の3項目のうち,2 項目以上を満たす場合
(1)失神の既往
(2)突然死の家族歴
(3)電気生理検査で心室細動が誘発される場合
にも適応を考慮するとされています。

 
これらの点を総合的に勘案すると、
お申し越しの例ではブルガダ症候群の診断はほぼ確からしいようですが、植え込み型除細動器装着の絶対適応とはいえないように思います。
失神の既往が複数回ありますが、神経調節性失神のようでその際に心室細動が記録されていない点、突然死の家族歴がない点を考えると、今後注意深く経過をみることでよいのではないでしょうか。
もしどうしても心配ということであれば、不整脈専門施設で電気生理検査を行い、簡単に再現性を持って心室細動が誘発され、その際に以前と同様の失神が起これば植え込み適応を考えればよいと思います。 

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