質疑応答

日本の医療機器審査の遅れについて

山口(座長)日本の承認審査の遅れを解消する一つの策として、欧米との国際的な同時臨床試験の話が出ましたが、その点についてご意見を伺いたいと思います。
山本 治験の段階から国際的な同時治験、同時審査を行うことは重要だと思います。現在はまだトライアルベースですが、ステントなどに関してそうした取り組みも行っています。もちろん、日本国内で治験、審査を実施するメリットもあります。特に新しい医療機器については、米国と同時に治験をすれば、米国に比較して少数の症例であっても、市販後に日本でどのように使用していけばいいかといったことが自ずと見えてくるメリットがあります。また、医療機器の場合には人種差がない場合が多いので、有益な情報を共有できるという点で、これからは日本企業にも海外企業にも、国際戦略としての同時治験を行っていく意識を持っていただきたいと思っています。
笠貫 先ほどお話したCRT-Dに関しては、現在、本格的に国際的な同時治験が進められているところです。ただ、医療機器の治験については、医薬品と違って日本は医師や医療機関の経験が不十分という問題があり、早急に学会側で対応していかなければいけないと思っています。また、患者側にも、薬と同じように機器の治験についての教育、啓発が必要です。一方で、ペースメーカーなどはすべて輸入品であるために、企業側に対応ができる人材が十分いないという問題もあります。私は、行政側は医療機器審査に関して画期的にスピードアップに向けて動いていると思います。医療側、企業側もそれに対応できる枠組みを早く整備すべきでしょう。

温熱療法の承認審査について

山口 鄭先生が開発された温熱療法を軌道に乗せるために、行政側としてはどのようにすればよいとお考えでしょうか。
山本 乾式サウナ装置をどのような機器として評価するかに主な論点があると思います。重症の心疾患に対する治療機器として位置付けるとなると、安全に使用できるための情報と機器の性能とを一体として承認しなければいけません。単にサウナ装置としてではなく、使用の際、どのような注意をしなければいけないかなどの情報を、臨床試験成績に基づいて整理し、深めていけばいいのではないかと考えます。
山口 まず装置自体が医療機器として安全かつ有効であることが認められた上で、治療効果も認められ、初めて保険適用されるということでしょうか。
山本 はい、鄭先生のご講演でありましたように、温熱療法が先進医療申請で却下された理由が「薬事法で未承認だから」だったということは、まさしくそのような考え方です。この場合、サウナ装置が1個の独立した機器として完成しているために、治療法だけでなく機器としての評価が必要なのです。
 ご指摘のありました有効性、安全性に関して、どのようなデータを出せば認めていだたけるかがわかりづらいというのが率直な意見で、申請において何をどのように進めていけばいいのかを行政側からより具体的に提示していただければと思っています。また、薬事法の審査のためには莫大な費用がかかり、中小企業などではなかなか手続きに踏み出せないのが現状です。
山口 企業にとっての費用対効果や申請にかかる時間はたしかに大きな問題です。これについて何かご意見はありますか。
山本 申請のために最も費用や時間がかかる部分は臨床試験ではないかと思われます。臨床試験がなくても承認できるのは、客観的なデータにおいてすでに有効性、安全性が確認されているような場合です。鄭先生の事例に即していえば、乾式サウナ装置を新しい医療機器と見立てるなら臨床試験が必要ですし、そうでないとすれば、すでにエビデンスがあるものを整理し、追加の臨床試験なしに承認する道があるのではないかと思います。
山口  治療法としての温熱療法の効果はかなり広く認められていますので、集積されたエビデンスが正しく評価され、早く軌道に乗ることを願っています。

温熱療法の保険点数について

会場 医療費においては材料費が大部分を占め、技術料は非常に少ないというお話がありましたが、今後、温熱療法が保険適用になった場合、保険点数は何を考慮して付けられるのでしょうか。
山本 私は担当外ですが、保険の点数は原則として原価を考慮して定めていきます。ただ、点数設定のルールとして、必ずしも一つの治療行為に対してその原価が100%反映されるわけではありません。また、類似した技術には類似した点数を付けることが多く、温熱療法がどの治療法に相当するかについても考慮されます。
 先進医療を申請したときに、点数について書く欄がありました。1日1回、4週間治療を行うとして20回、1回につき800点程度、約160,000円です。その程度であれば維持できると思います。
笠貫 低温サウナ装置はたしかに安価で、公定償却期間も長いですが、一方で非常に高度な技術を要する治療法です。循環器専門医で心不全に経験を積んだ専門医が実施し、施行中は看護師が付いていなければいけないこと、心電図モニターによる監視が必要であることなどを考えると、手技料は正しく評価されるべきだと思います。

EUでの承認審査

会場 日本国内での審査、薬事承認が遅いということで、海外に治験や承認を求める先端医療機器がかなり出てきているようですが、EUなどの場合、審査が民間の第三者評価ですむ傾向があるということをどのようにお考えでしょうか。
山本 ヨーロッパは国で審査を行う体制がなく、医薬品と違ってEU全体での中央審査機関も持たないため、民間の検査機関が医療機器の審査をしています。審査が簡略である分、医療機関がその機器を採用するかどうかについてはより高度な判断をするという考え方に立っています。いずれにしても、治験の質が十分なものでありさえすれば特に問題はないと思いますが、個人的には、最初からより十分な審査を行う日米流の方がいいと思っています。
笠貫 ヨーロッパの民間機関での評価は、私が知っている範囲のデータを見ても必ずしも十分ではないと感じており、医者の立場としてもあまり賛成ではありません。また、市販後対策として、今の日本の医療機関が、ヨーロッパの医療機関が行うだけの評価レベルにあるかという問題がありますので、やはり審査の段階で厳しくするべきだと思います。
山口  医療機器が臨床導入されるまでにはさまざまな問題点がありますが、今日は臨床からお2人の先生に問題を提起していただき、厚生労働省の審査する側からお答えをいただきました。このワークショップを通じて、循環器治療で抱えている問題点を明らかにし、今後の日本の医療制度の改善につなげていくことができればと願っております。

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