日本心臓財団刊行物

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ドクターのつぶやき-検診・検査篇-

‐検診に感謝‐

 友人から電話があった。検診で前立腺腫瘍マーカが高いといわれた、泌尿器科受診を指示されたが、どうしたらよいかというのであった。早速に泌尿器科に紹介した。前立腺肥大の症状も所見もない。念のために生検したところ、癌細胞陽性にでた。また、別の知人が肺がんで入院した。いつも検診では肺に古い影があるといわれていたのだが、今回、これが大きくなってきたといわれて、精密検査を受けたところ陽性に出たのだという。しばらく前には、身内の50歳代の主婦が住民検診で便潜血陽性となり、ファイバー検査で直腸がんが見つかって手術し、ことなきを得た。どの場合も、知らずにいたら、しばらくの後には不幸をみる羽目になっていたであろう。
  検診の費用対効果が論じられることがある。検診で異常を発見する率は高いものではない。異常が発見されて、治療した人がそれから享受できる人生と検診にかけた費用とをバランスにかけての議論である。しかし、人生には経済効果として計算できるものがあるだけではない。たとえ一人であっても、命には掛け替えがない。命はその人一人だけではなく、周りの人たちの幸せをもささえている。きっかけは検診ではなかったが、私自身も同じようにして命を得てきた。計算抜きに、検診というものが制度として存在していることの有難さをつくづく思ったのであった。(2006年5月号掲載)


‐顔をみないで検査をする時代‐

 日頃、ご無沙汰の友人から久々に電話があった。先日、アメリカに遊びに行ったところ、嘔吐と下痢があり、土地の知人が心配して救急病院を受診させられたという。
  救急診療室では早速にガウン一つの素裸にされて、全身CT検査が手早く行われ、血液・尿検査があり、その結果、異常なしと判定された。かなり高額の請求だったので、驚いた。
  結局、1週間ほど、知人宅で休み、たくさんの検査資料をもたされて帰国してきた、というような話だった。

 話を聞いていて、その昔に聞いた「ブラジャー症候群」を思い出した。アメリカでの話である。
  ある婦人が胸の痛みを訴えて、救急病院を受診した。痛みはすでになくなっていたが、全身CT検査を含む精密検査があり、負荷試験をしても何らの異常もみられなかった。
  検査結果をもって説明に来た担当医に、はじめて痛みの起こり方を問われた婦人は、その朝、新しいブラジャーが合わなくて痛かった、これをはずしたら痛みがとれた、と答えたというのである。

 近年、病院の日常の外来でも、諸検査が事務的、機械的に行われる傾向がある。患者の話を詳しく聴くことはなく、ときには顔もまともに見てないのではないかと疑いたくなるような場合もある。
  もっとも見当違いの精密検査も悪いばかりではない。思いがけない病気が発見されることがあるからである。しかし、まず、顔をみながら、患者の話をよく聴き、身体をよく診る、こうして、可能性のある病気を絞り込んでいって、検査を進め、診断を確定する、というのが診断学の教える基本なのである。

 ところで、上記のブラジャー症候群の婦人の場合、大変、高額の医療費の請求があった。しかし、にもかかわらず、ご本人は過剰なまでに詳細な検査を受けたことに満足していたということであった。(2006年12月号掲載)


‐区民検診でかかりつけ医とのつながりを‐

 新聞をみていたら、「患者の大病院志向是正を価格誘導で」という記事があった。大病院を受診したがる患者をかかりつけ医に回すためには、病院での再診、検査の費用の自己負担分を増せばよい、という提案である。

 現在、私の外来に来る患者には、緊急の目配りは必要ではなく、かかりつけ医にお願いしたほうがよいと思われる人たちが少なくない。しかし一方、紹介状をもたせても、やはり馴染んだこちらに戻ってきてしまうという現状があるのも事実である。
  しかしながら、この提案が有効であろうとは思われない。

 こうした患者の外来の検査では、二重の検査をして負担をかけることを避けるために、区民検診のデータを利用している。おかしなことに、診療上の検査には制約があって、病名がなければ認められない検査であっても、区民検診では幅広くカバーしてくれるので、大変、利用価値が高い。X線写真や心電図検査など、画像診断については、実物がなく、コメントだけが頼りなので、心許ないが、数字で結果が出る検査の場合は概ね、これで間に合う。

 こんなわけで、価格誘導がよい方法であるとは思われない。大事なことは、かかりつけ医と患者とのつながりを作ることである。区民検診にしても、せっかくの機会である。これをこうしたきっかけつくりになるように、活用すべく、もっと工夫があってよいのではないだろうか。(2007年7月号media版掲載)


検診のすすめ

 外来診療のおりに、検診を受けようと思うが、とか、ドック入りをしてみるのはどうか、などと聞かれることがある。診療を受けているのだから、いまさら検診を受ける必要はないだろうと思って、聞くのである。しかし、診療の際に行う検査と検診の検査とでは内容が異なる。診療で行う検査は特定の病気について、精密検査を行い、治療をし、経過をみていくものである。しかし、患者がもっているのは特定の病気だけではない。長い経過の間には、見知らない別の新しい疾患が出てくることがある。これをチェックするのが検診である。
先日も、長く高血圧を管理していた患者が、たまたま検診で、胃透視の検査を受けて、食道癌を発見された事例があった。検診によって胃癌や大腸癌が発見されることはしばしば経験される。
 診療中の患者さんであっても検診受診は大いに勧めたい。検査が二重になることを避けたいならば、病院で受ける検査の方の内容を調整すればよい。そのためにも、検診結果はかならず、担当医まで持参していただきたい。担当医にしてみても、自分の思いこみを反省する大事な機会なのである。(未掲載)
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