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耳寄りな心臓の話

耳寄りな心臓の話(第53話)『足は軽く、心臓は強く』

『足は軽く、心臓は強く  

川田志明(慶應義塾大学名誉教授、山中湖クリニック理事長)

 
53図1.jpg 人は血管とともに老いるといわれています。このため、手足の動脈の固さから血管年齢を求める検査法に関心が持たれています。動脈硬化が原因で足や心臓それに脳への動脈が狭くなって血流不足が起こります。脚の血管の手術を受けて歩行は自由になったものの、今度は胸が痛くなって困るという方もみられます。閉塞性動脈硬化症による歩行障害は手術で解決されたものの、隠されていた心臓の動脈硬化による狭心症が前面に出てきたということになります。もう一つ血管ではなく筋肉の痙攣で起こるものにこむら返りがあり、足を冷やしたり歩き過ぎで起こることが多いのです。「足は軽く、心臓は強く」、頭はすっきりと健康寿命を保ち、老後を楽しく過ごしたいものです。
 
足・心臓の血流不足
 動脈硬化が原因で血管壁にコレステロールがついて管腔が狭くなると、血流が不足して足の筋肉が酸素不足に陥り、痛みに襲われます。数分間の休憩で回復するのですが、歩き始めるとまた同じくらいの距離で疼痛発作に見舞われます。
 閉塞性動脈硬化症によって、動脈の管腔面積の75%以上が塞がれてしまうと、血流が低下し、ここで無理に歩行を続けると血流不足から疼痛などの虚血症状が出はじめます。痛みのために一時的に歩行が困難になることを間欠性跛行(かんけつせいはこう)といいます。同じ血流不足によって起こる病名も臓器によって名称が異なり、心臓では胸痛の起こる狭心症、脳では一時的に意識が遠のく一過性脳虚血そして足では下肢痛を来す間欠性跛行と呼んでいます(図1)
 治療としては各臓器の動脈、すなわち足や心臓、脳の狭くなった動脈を薬剤で拡張させて血流を増やす方法が第一に考えられますが、積極的にはカテーテルを用いて機械的に狭窄部を拡張し、ステントを追加して血流を確保する方法や、狭窄部はそのままにしてバイパスを増設して血流を増やす手術が実施されます。今のところ、動脈硬化を消し去ることはできませんので、毎日の食事に注意し、高血圧や糖尿病などの持病の治療を怠ることなく動脈硬化の進行を食い止めることが必要となります(図2、3)53図2と3.jpg
足のこむら返り
 冷えた夜や歩き過ぎた後などに、足が攣(つ)って苦労することがあります。下腿の筋肉であるふくらはぎ(腓《こむら・こぶら》とも)を形成する腓腹筋(ひふくきん)に起こった痙攣で、局所の筋肉が硬く膨隆しているのが分かり、一般にはこむら返り、病名としては腓腹筋痙攣と呼ばれています(図4)53図4.jpg
 原因としては筋肉内の細い動脈の関与は否定できませんが、先に述べた動脈硬化症とは別な病態のものと考えられています。こむらとも呼ばれる筋肉のふくらはぎが急に収縮して毬のように盛り上がり、ひっくり返ったようにも感じられるところから、こむら返りとなったようですが、ひどい時にはこむらが固いままなかなか元に戻らず、痛みも強くてしばらく動けないこともあります。睡眠中に起こって眠気も吹き飛んでしまうような激痛に襲われ、起床後にも筋肉痛の残ることがあります。運動不足ということでもないようで、水泳やサッカーの試合中やテニスのサーブで爪先立ちした際などに誘発され、一時的にプレーができなくなり、グランドに寝転んで足を引っ張ってもらっている光景を目にします。
 このふくらはぎは脹ら脛、膨ら脛とも書いて、脛(すね)の後方の腫れた部分を指します。すぐ隣には魚の名前のヒラメ筋があることから、富山湾岸で育った著者にとっては寒ブリに育つ前のフクラギ(関東ではイナダ、関西ではハマチ)のことを先ず思い出してしまいます。未だ若くて小造りな魚(ワカシ、コズクラ)がフクラギのように丸々と育ってフクラギとなり、最後はブリに出世するといっているように思えるからです(図5)
 53図5と6.jpg
こむらの「試して合点」
 かつて、NHK・TVの「ためしてガッテン!」という番組で「こむら返り」が取り上げられたことがあります。こむら返りを引き起こす悪条件として、①「冷え」=冷水の浴槽に30分浸かる、②「運動」=2時間の自転車漕ぎ、③「脱水」=サウナに3時間漬かるグループの三通りに分けて実験しましたが、いずれの悪条件でも全員にこむら返りが起こったと報じていました(図6)
 こむら返りは誰にでも起こり、一般には先の悪条件である寒さや足の疲れ、それに脱水などが誘因となっていることが明らかになされたのですから、ここに注意ということでしょう。痙攣が原因というものの、神経ではなく筋肉に固有な問題すなわち下位運動中枢の過興奮によるものではと考えられていますが、毛細血管直前の細動脈の痙攣説もあり、原因を特定するには至っていません。このため、誰にでも起こるポピュラーな病気なのに、治療法が確立されていないのが現状です。53図7.jpg
 痙攣を鎮めるには漢方の芍薬甘草湯(しょうやくかんぞうとう)や骨格筋弛緩薬のダントロレン(ヒダントイン)などの服用が考えられますが、即効性はなく前もって飲んでおいても予防効果は少ないとされています。各種のスポーツドリンクも考案されていますが、中でも日本サッカー代表チームのものは、重曹とオレンジジュースに含まれるクエン酸を加えており、運動中の乳酸の産成を抑えて筋肉の疲労を防ぎ、加えてこむら返りも予防しようと考えているようです。

ふくらはぎは第二の心臓
 『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい!』というセンセーショナルなタイトルの本がマッサージ療法の普及活動の一端として出版されました。
 確かに全身に血液を送っているのは心臓ですが、片道切符だけで戻りは心臓の力ではなく足の筋肉のミルキング運動に期待されています。牛の乳を搾るようにミルキングを行うことで静脈血を心臓に戻しているのです。犬猫などの四つ足動物にはふくらはぎの膨らみはなく、直立歩行をする人にみられる独特な構造ということが言えます。人体に6〜7ℓもある血液は重力の影響によって立っている間は全血液量の70%が下半身に集まっているという実情からも、その大きな受け皿であるふくらはぎの筋肉群が第二の心臓と呼ばれる所以です。このため、ふくらはぎをマッサージすることで静脈血のうっ滞が改善されれば、同部の疲労回復にとどまらず全身の疲労回復につながるということになります(図7)
 これらは足の動脈に病気のない人にみられるこむら返りの話でしたが、閉塞性動脈硬化症があって時々間欠性跛行などの症状のある人にも「こむら返り」がしばしば起こりますので、おかしいと思ったら早めに専門医への受診が賢明です。
 平均寿命が伸びています。老後は「足は軽く、心臓は強く」、頭はすっきりと爽やかに過ごして、健康寿命を伸ばしたいものです。  

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