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耳寄りな心臓の話(第29話)『心臓に直結した薬指』

『心臓に直結した薬指 

北里柴三郎1852-1931 /鈴木梅太郎1874-1943 -北里柴三郎1852-1931 /鈴木梅太郎1874-1943- -北里柴三郎1852-1931 /鈴木梅太郎1874-1943- -北里柴三郎1852-1931 /鈴木梅太郎1874-1943- -北里柴三郎1852-1931 /鈴木梅太郎1874-1943-  

 

川田志明(慶應義塾大学名誉教授、山中湖クリニック理事長)

 

 手指のうち一番動きの悪い第4指は、薬を混ぜたり紅をつけたりするのに好都合なことから薬指と呼ばれ、西洋ではこの指から心臓に直結する静脈がでて愛情や誠心にも通じているという言い伝えから、愛の印である結婚指輪をつける環指になったといいます。男性では人差し指よりも薬指の方が長い人が多いのですが、現代医学では薬指の長さが男性ホルモンの多寡に関係しているという意外な報告が相次いでいます。

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名無しの薬指


 指の名称はそれぞれ親指、人差し指、中指、薬指、小指ですが、第4指に薬指という意味ありげな名前が付けられています。この薬指ですが、中国では今でも無名指(ウミンズ)と呼んでいます。というのも、易々と名を付けられない神秘的な指といった特別な扱い方があったようで、古代では指をオヨビと呼んでいたこともあって薬指はナナシノオヨビと呼ばれていた時代があり、中国での無名指を訳したものだったのでしょう。中世になるとクスシユビ・薬師指が使われ、衆生の病苦を救う薬師如来がこの指を延ばして悟りや祈りを象徴的に表しているからといいます(図1)。 
 また、医師の代名詞でもあった薬師をクスシと呼び、この頃は薬を味見したり混ぜ合わせたり薬を肌に付けるために使われた第4指を、クスシユビと呼んでいたのです。これが室町末期になるとお化粧の紅を差すのに使う指ということで、ベニサシユビという言い方が用いられ、明治に入ってクスリユビ・薬指に定着したようです。29回表.jpg
 男性では薬指の長さは中指よりは少し短く人差し指よりはやや長い人が多いのですが、5指の中で単独では最も動きが悪く、薬指だけを伸ばせる人はまれです。そこで、一番動きが少なく働きの悪い薬指に邪魔にならないように指輪をはめるのだという見方もあります。なお、医学用語としては、第4指(ダイヨンシ)、薬指(ヤクシ)、環指(カンシ)などが用いられます(表1)。
 単独では動きの悪い薬指ですが、指の中で一番不器用なのは親指thumbとされ、他の4指のfingersと区別されています。そこで、英語で第4指fourth fingerというと薬指ではなく小指のことになってしまいます。成句としても、“His fingers are all thumbs”は、「彼はひどく不器用だ」といった意味になります。


心臓に通じた薬指


 指輪を人差し指にはめたときには、傲慢な、厚かましい、また威圧的な心の表れとみなされ、中指にはめると慎重さ、思量深さを表し、薬指にすると愛や愛着を、小指にはめると主人ぶった態度を表すとされてきました。
 古代ギリシャ・ローマ人たちは第4指から愛情静脈と呼ぶ血管がでて心臓に直結していると考えていたようです。また、第4指は薬などの成分をかき混ぜるのに用いることからmedical finger薬指とも呼び、もし何か有害なものにでも触れれば直ちに心臓に警告が行くと考え、今でも膏薬を擦り込んだり皮膚を掻くのに他の指でやるのはよくないという迷信が広く伝わっていたようです。29回図2.jpg
 薬指をring fingerといって結婚指輪をはめる習慣は現在ではキリスト教国のほとんどでみられます。この起源はローマ人が世俗的な愛の誓のしるしに贈った婚約指輪にあるようです。ローマ・カトリック教会では親指と隣の二本の指は三位一体trinityを表すといい、ゆえに花婿は「父の名において」といって親指に触れ、「御子の名において」といって人差し指に触れ、「聖霊の名において」といって中指に触れます。そして最後に「アーメン」という言葉とともに指輪を薬指に固定します。やはり薬指には心臓に達する愛情血管があるという信心があってのことで、ドイツ辺りではズバリHerzfinger心臓指とも呼んでいます。
 ヨーロッパの一部の国では、婚約指輪は左薬指にし、結婚とともに右薬指に移すのが一般的です。これは英国では16世紀末まで行われていた習慣だったといいます。ユダヤ教では結婚指輪は人差し指にはめていたものが、今日では多くが左薬指になっているといいます(図2)。


 薬指の隠れた能力
 29回図3.jpg薬指は単独では最も伸ばしずらい指ですが、この指にはなかなか不思議な力が隠されているようなのです。男性では一般に薬指の方が示指(人差し指)よりも長く、女性では同じ長さかわずかに短い人が多いとされています(図3)。
 この薬指と示指の長さの比率は胎生期のテストテスロン量と相関しているとの報告があり、この時期の胎児の男性ホルモン量に左右される遺伝子が性器の発育や薬指の成長を受け持っていることが明らかになっています。詳しくは、長い薬指の持ち主ほど男性的で、資産的にも成功家が多く、そうでない人に比べて何倍もの所得を計上していると言います。また、カリフォルニア・バークレー校からの報告では、女性でも薬指が長いほど運動能力が高く攻撃的でレズビアンの率も高いといいます。一方、男性では薬指が短い程鬱状態や心臓病になりやすくゲイメンになる率も高いなど、男女の薬指の長短で社会生活の上でも大きな差のあることが指摘されています。
 さらに、バース大学の調査では、子供でも男女ともに薬指の長い方が、数学や物理の成績がよかったと報じ、カナダ・アルバーター大学からは薬指の長さと攻撃性の相関していることが認められています。見方を変えると、薬指の長い男児は長じてカサノバやドンファンのような漁色家、艶福家になる可能性を秘めているとも考えられます。
 つい最近のイギリスの医学雑誌によれば、薬指が短く示指の長い男性での前立腺癌の罹患率は薬指の長い人に比べて1/3と低いとの報告があり、男性ホルモンであるテストステロン量の多寡が前立腺癌の発症に関係していることを示唆するとともに、薬指の短い男性に福音を与えた格好になっています。
 以上、薬指と心臓とを結ぶ愛情静脈が掛け橋との話が発端となりましたが、当時は血液の循環していることも理解されず、心の中枢も心臓にあると考えられていた時代の物語です。現代の医学からは、薬指に限らず全ての手指からの静脈が網羅されて太い静脈となって分け隔てなく心臓に帰っていることは、手や腕からの経静脈カテーテルが心臓に達していることからも明らかです。
 
 


 
 手指のうち一番動きの悪い第4指は、薬を混ぜたり紅をつけたりするのに好都合なことから薬指と呼ばれ、西洋ではこの指から心臓に直結する静脈がでて愛情や誠心にも通じているという言い伝えから、愛の印である結婚指輪をつける環指になったといいます。男性では人差し指よりも薬指の方が長い人が多いのですが、現代医学では薬指の長さが男性ホルモンの多寡に関係しているという意外な報告が相次いでいます。
  

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