循環器病のトピックス

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心不全はどんな病気か

2015年07月16日 心不全
心不全はどんな病気か
 
大阪大学循環器内科教授 坂田 泰史
 
 日本では慢性心不全患者さんが増えています。この心不全を治療するため、心不全にならないためには、心不全がどのような病態であるかを理解することが大切です。心不全図1.jpg 心不全とは、心臓という全身に血液(栄養)を送り出すポンプの機能が低下した状態です。このポンプの働きをわかりやすく説明するために、下流にある池から上流にある田んぼに水をくみ上げて送っているイメージを考えてみましょう(図1)。この働きが落ちると、どうなるでしょうか。
 
 一つは、池に川から水がどんどん流れていますので、くみ上げるポンプの力が落ちると、池や川の水があふれ出します(図2)。これが、人間の身体では、うっ血という状態です。心不全図2.jpg
 肺循環においてうっ血がおこると、新鮮な酸素を取り入れて血液を送り出す働きが悪くなり、歩いているときに上手く酸素が取り込めずに息切れがしたり、寝ているときに息苦しくなってきます。
 また、体循環の川と池にあたる静脈にも血液が溜まると足がむくんだり、体重が増えたり、腸もむくむので食欲がなくなってきたりします(図3)。心不全図3.jpg
 
 もう一つの力である、水を送る力が落ちると、田んぼが干上がって、稲が枯れることがあります(図4)。身体に起こる症状としては、全身の筋肉に血液が行き渡りにくくなるために身体がだるくなったり(全身倦怠感)、手足が冷たくなります。腎臓に血液が行きにくくなると尿も少なくなります(図3)。心不全図4.jpg
  これらが心不全の症状です。こうした心不全の進行を現すサインに、胸部レントゲン写真とBNP(B型ナトリウム利尿ペプチド)の血液検査があります。
 心臓は、機能が落ちて収縮する力が弱くなってくると、少しの動きでたくさんの血液を送り出すために形を大きくしていきます。レントゲン写真で心臓が大きく写っていたら心不全のサインです。
 また、心臓の調子が悪くなると、身体の中のナトリウム(塩)を尿で体外に出そうと働きかけるホルモンを心臓自ら分泌します。このホルモンが血中に多く出てくると、これも心不全のサインです。
心不全図5.jpg  では、心臓のどういう部分が悪くなると心不全になるのでしょう。今度は心臓を家にたとえてみましょう(図5)。
 家の必要なところに水を送る水道に相当するのが、心臓の筋肉に酸素(栄養)を供給する冠動脈です。冠動脈は心臓の周りを走る3本の動脈で、この冠動脈が動脈硬化になると狭心症や心筋梗塞を起こします。心不全の一番大きな原因と言えるでしょう。
 家の電気系統に当たるのが、心臓の収縮をリズミカルに行う伝導系です。このリズムが何かの原因によって乱れてしまうのが不整脈です。これもポンプ機能を乱す原因の一つです。
 また、窓やドアの役割をしているのが、僧帽弁、大動脈弁、肺動脈弁、三尖弁という4つの弁です。これらの弁の締まりが悪くなると、前に押し出そうとしても抵抗が強くなったり、血液が逆流して後ろに戻ってしまったりして、心臓がいくら収縮しても効率が悪くなります。これもポンプ機能を乱す原因の一つです。
 そして、家の壁に当たるのが心臓の筋肉(心筋)です。心臓には糖尿病や高血圧、交感神経の上昇や神経体液性因子と呼ばれるホルモンの上昇など、さまざまな刺激があり、それに打ち勝つ強い筋肉が必要です。なぜすべての人に起きないで、ある人にだけ起きるのか、わかっていない部分もありますが、こうした刺激により心筋が弱くなってポンプ機能が悪くなってきます。
 
 そのほかにもいろいろな原因はありますが、心臓という家を構成する水道(冠動脈)、電気(伝導系)、窓や扉(弁)、壁(心筋)という4つのパーツが重要であり、その家を長く維持するためには掃除と修繕が必要です。医師の仕事は修繕です。しかし、掃除や日々のメンテナンスはご自身で行っていただかなければなりません。それこそが、健康的な生活習慣です。 
(2015年4月26日 第79回日本循環器学会学術集会市民公開講座「知って得する心臓病の知識」より)
2015.7.15掲載
 
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