疾患別解説

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弁膜症手術の危険率、術後の注意点とは

 弁膜症手術の生命に対する危険率は、患者さんの状態、手術の難易度によって変わります。ある病院での14年間の手術死亡率は、大動脈弁置換術で3.5%、僧帽弁置換術で2.5%でした。これは2回目、3回目、4回目の心臓手術の患者さんや、冠動脈バイパス術等を同時に行った患者さんを含めた成績です。とくに感染性心内膜炎を起こした患者さん、3回目、4回目手術の患者さんの危険率が高くなっています。

 弁膜症の手術は、心臓の筋肉が丈夫で体力さえあれば繰り返して行うこともありますが、手術危険率は高くなります。次回の手術が必要となるかどうかはわかりませんが、手術の影響がとれ、心臓の状態が良くなったら、体力の回復、維持に努めてください。注意事項は色々ありますが、以下の2点は必須です。

(1)ワルファリンについて
 手術後のワルファリン療法は、血液が正常人の固まる時間の2-3倍の時間をかけないと固まらないようにします。つまり、ワルファリンは血液を固まり難くする一種の毒です。2-3倍の時間をかけないと出血が止まりにくいことになります。くれぐれもケガ(外傷)をしないように注意してください。男性では、髭剃りの際、かみそりは避けましょう。しかし、例え出血を起こしてもあわてないでください。その時間分、押さえていれば止まります。どうしても止まらない時は、病院に連絡してください。
 ワルファリンの服用量は血液検査を受け、主治医と相談の上で決めてください。ワーファリンの効き具合は、食事の量、内容(ビタミンKの量)や体調(体調の悪いときは効きすぎ、良いときは効かなくなります)、同時に服用する薬によっても変わります。診察の際に血液検査を行い、その都度、ワルファリンの服用量を決めます。決して自己判断で、服用量の増減、中止をしないようにしてください。
 納豆はワーファリンが効かなくなるので禁止です。ワーファリンは不足することがないように、やや余裕をもって手許に置いておくようにしてください。旅行の時なども忘れないようにしてください。機械弁の患者さんは、ワーファリンとは一生のおつきあいです。

 なお、機械弁でなければ、出血リスクがワルファリンより低く、血栓症リスクを同等に低下させるDOACというタイプの新しい薬が開発されました。患者さんの状況が許せば適用があります。主治医の先生とよくご相談ください。

 血液を固まりにくくする目的で、アスピリン(バイアスピリン、バファリン81)等の抗血小板剤が処方されることがあります。ワーファリンとは違いますし、ワーファリンの代わりにはなりません。しかし、作用が違う2剤の利点を生かし、同時に服用していただく場合もあります。主治医より説明を受け、この2つの薬は間違えないように注意してください。


(2)細菌感染について
 人工弁置換術後は、とくに細菌感染に注意してください。歯の治療は術前に済ませましょう。虫歯から、または抜歯の際に血液中に細菌が入り、人工弁に付くと感染性心内膜炎という危険な状態になり、縫着した人工弁がはずれると再手術が必要になります。特に手術直後の感染性心内膜炎は重篤です。

 手術の影響がとれた3ヶ月以降では、重症になる危険は少なくなりますが、感染性心内膜炎の予防は大切です。歯科治療その他の手術が必要となった場合、必ず主治医と相談の上、抗生物質を服用するとともに、ワルファリン、DOAC、アスピリンについても指導を受けることを忘れないようにしましょう。

 日常生活では、何気ないケガによる化膿創、カゼをこじらせての扁桃腺炎や肺炎、膀胱炎から高熱を発する尿路感染症などが要注意です。

(3)身体障害者認定について

 身体障害者福祉法では、人工弁による弁置換術後の患者さんは1級の身体障害者認定が受けられます。術前3、4級認定のかたは、再申請の手続きができます。自己申告に基づいて都道府県で判断されます。

監修:渡辺弘之(東京ベイ・浦安市川医療センター ハートセンター長) 2022年3月

妊娠と期外収縮、小学校の心電図検診でQS型といわれた、不整脈と弁膜症で心不全に、狭心症の疑いなど、日本心臓財団は7,500件以上のご相談にお答えしてきました。

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