疾患別解説

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出産と弁置換手術の選択

26歳 女性
2005年9月 5日

子供をもう一人望んでおり、ご相談させて頂きます。
私は、15歳で大動脈弁閉鎖不全症と診断され、生体弁を入れました。
その後、23歳で子供を一人出産し、24歳で機械弁に替えました。
機械弁にしたのは、生涯に弁置換は3回くらいが限界という医師からの説明があり、主人が強く機械弁を希望したためです。(個人的には、生体弁を希望していました。)

1)胎盤を通す時期だけワーファリンをヘパリンに替えればよいとも言われていますが、ワーファリンを服用しながらの妊娠は、奇形児の高リスクを考え、できれば避けたいと思っています。ヘパリンを使用し、出産するというのは可能なことですか?

2)ワーファリンを服用せずに済むような状態にする事が理想なので、生体弁再置換、ロス手術と考えておりますが、
■生体弁の場合:弁置換は何度も施術可能なのか。
■ロス手術の場合:(1)主に子供に行なっているようなので、年齢的にできるのか(2)肺動脈や、大動脈の再手術が必要なのか等、不明点ばかりです。

子供をもう一人もうけるには、どのような方法を取ったらよいのでしょうか。

回答

1)妊娠前からヘパリンに換えてヘパリンを利用したままで出産するということは医学的には可能だと思います。しかし現実的には極めて困難と言わざるを得ません。
ヘパリンは注射になりますので、ヘパリンを注射しながら妊娠するということが第一に困難でしょうし、妊娠の期間中ずっと入院するというのでは引き受けてくれる病院が無いだろうと思います。また、現在の保険医療ではそのようなことは認められませんので、全額私費でお払いにならなければならないと思います。膨大な費用をご自身がお払いになるとしても、そのような行き渡った管理をしてくれる病院を探すのは大変な難事業だと思います。
ヘパリンとワーファリンとの薬理作用、催奇形性などについては現在まだ議論されているところで、現在のところはっきり結論が出ているわけではありません。
したがって、ここでご質問に明解にお答えすることは、残念ながら困難です。
現在ある学説について解りやすく記述したものがありますので、それをご覧頂くのが良いと思います。循環器病研究振興財団が発行している「知っておきたい循環器病あれこれ」と題する一般向けの小冊子の第45号に、「妊娠・出産と心臓病」と題する冊子があります。これはインターネットで国立循環器病センターのホームページの「循環器病情報サービス」の項目から、よくわかる循環器病(一般向け)という目次がありますので、そこから探して頂くとその小冊子が掲載されています。ご覧になってください。

もしインターネットで小冊子がご覧になれない場合は、ご希望の小冊子名を明記の上、循環器病研究振興財団(〒565-8565 吹田市藤白台5-7-1)宛に返信用の郵便番号、住所、氏名を書いた紙と送料として120円分の切手を同封して申し込まれればその小冊子を送って頂けます。

2)生体弁の置換の場合、弁置換を何度施行できるかということですが、特に何回以上はできないという制限はありません。しかし回を重ねる毎に癒着が高度になり、手術は困難になります。つまり危険もそれに伴って増えるということです。

貴方の場合、生体弁で置換されたとしてもまだまだお若いですので、弁が荒廃する速度はかなり速く、もう一度機械弁に置換する必要がありますが、その機械弁とて永久にもつとは保障されていません。したがって、ご高齢になられてからもう一度置換が必要になると考えなければなりません。つまり生涯にもう3回の手術を経なければならないということになります。

ロス手術は必ずしも子供にばかり行なっている訳ではありません。本来、この手術は成人に対する手術として始まったもので、成人に対しても十分行うことはできます。しかしこれが再手術である場合はやはり初回の手術よりも困難になります。そしてご自身の弁ですので、大動脈弁そのものは生体弁で置換するよりもずっと長く維持することができると思いますが、肺動脈弁に関しては何かの代替品を用いなければなりませんので、こちらの方がどれくらいの期間使用に耐えるかについてはまだ明らかなデータはないと思います。肺動脈弁の代替としては生体材料を使うことが多いのですが、この場合も貴方はまだお若いですので、やはり石灰化等の荒廃はまぬがれないと思います。つまりこの場合も生涯にはさらに一度、あるいは二度の弁置換が必要になろうと思います。

いずれにしても現在の外科治療技術からすれば、ご希望を満たすためには後3回くらいの弁置換手術を必要とすると思います。これらのリスクをおかしても、子供さんを作られるかどうかは、ご本人、あるいはご主人がどれくらいもう一人の子供さんを望んでおられるかということに尽きると思います。一般的な考え方とすれば、もう一人子供を出産するというのは、あまりにもご自身の危険が大きいように思います。また、折角苦労して作られたお子様の成人を見守ることができなくなれば、親御さんとしてその子供さんに対しての責任を果たせるのかどうかという問題も出てこようと思います。あくまでもご本人とご主人との相談でお決めになることですが、もう一人お子さんを作られるということにはかなり多くの問題があると思います。

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