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血栓・塞栓 Question 1

外来診療において、どういうときに肺塞栓症を考えるべきですか

肺塞栓症は循環器領域における予後不良な重大な疾患の一つですが、必ずしも診断は容易ではありません。呼吸困難や胸痛は肺塞栓症に高頻度に認められる症状とされていますが、呼吸困難や胸痛を主訴にする疾患は他にも鑑別すべき疾患が多く、むしろその中で肺塞栓症の占める頻度は少数派です。また、その症状経過も多彩で、徐々に経過する呼吸困難、ショックや心停止を合併することもあり、慢性経過をたどるものもあります。

では、このような神出鬼没な疾患をどのような場面で気づくことが多いでしょうか?これには、肺塞栓症を疑う2つの重要な鍵が存在します。

1つ目は、深部静脈血栓症(DVT : Deep Vein Thrombosis)との強いつながりです。多くの場合、肺塞栓症はDVTに伴う偶発的な合併症ですので、DVTを伴っている、もしくはDVTのリスクを有する場合にも当然、肺塞栓症合併を疑う根拠になります。

では、DVT発症のリスクにはどのようなものがあるでしょうか?
これにはいわゆる“Virchowの3大因子”を考える必要があります。

●血液凝固能亢進
→アンチトロンビン欠損症・プロテインCおよびS欠損症・抗リン脂質抗体症候群・多血症・脱水・手術・妊娠・悪性疾患・ネフローゼ症候群・エストロゲン製剤の使用 など

●血流の停滞
→長期臥床・長距離旅行・肥満・下肢麻痺・骨折や打撲による可動域の制限や治療に伴う固定 など

●血管壁の傷害
→外傷や手術による損傷・中心静脈カテーテル・ペースメーカー・静脈炎・カテーテル検査 など

このように既往歴に、血液凝固能の異常や手術歴、長期臥床等のリスクが存在すれば、肺塞栓症を鑑別に挙げる必要性が出てきます。

では、2つ目の鍵とは何でしょうか?
2つ目は、非特異的な所見を複数認めた場合です。
一般的な診断学では、特異的所見を見つけ診断に至りますが、肺塞栓症は神出鬼没ですので、そのようにはいきません。むしろ、非特異的な所見を複数認めた場合に疑うべきです。

呼吸困難や胸痛、失神は他疾患にも認める一般的な主訴です。身体所見でのⅡPの亢進や、胸部X線では無気肺や胸水を認めることがあります。中には肺動脈拡張や肺野の透過性亢進で診断される場合もあります。心電図で最も高頻度な所見は洞性頻脈(90%程度)です。

陰性T波、QT延長などを認めることもあります。有名なSⅠQⅢTⅢは心電図異常を認める中で15%程度と、実際には低頻度です。血液検査では、低酸素血症や呼吸性アルカローシスを認めますが、あくまでも低酸素に伴う過換気によるものですし、D-dimerの上昇は血栓の存在を疑う根拠にはなりますが、特異度が低く、血栓の存在を否定するために有用であるとされています。

このように非特異的な所見を示すのが特徴ですが、では、臨床的背景から肺塞栓症を疑うことはできないのでしょうか?
Well’s scoreは臨床的背景から、肺塞栓症を疑う可能性を、スコア化したものです。


表 Well’s score (Wells PS, et al. Thromb Haemost 2000; 83: 416-420.)
西原図.jpg

スコアを合計し、4点以上で肺塞栓症の可能性を疑い、CT等の精査の必要性を示唆するとされています。お気づきかもしれませんが、スコアの各項目は非特異的なものばかりです。

塞栓症を疑う2つの重要な鍵、1つには深部静脈血栓症やそのリスクの存在と、もう1つは非特異的な所見を複数認めた場合に強く疑う必要があります。
 

(2014年10月公開)

Only One Message

呼吸困難や胸痛を主訴に、診断に苦慮する患者が来院したときには、必ず下肢を診察し、深部静脈血栓症が疑われたら、肺塞栓症を思い出す。

回答:西原 崇創

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