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心筋炎・心筋症 Question 2

肥大型心筋症のうち巨大陰性T波を認めるものはどういうタイプですか

肥大型心筋症のうち巨大陰性T波を認めるのは、左室心尖部に肥大が限局する心尖部肥大型心筋症(apical hypertrophic cardiomyopathy)です。肥大型心筋症の一亜型と考えられています。わが国において心エコー図(Sakamoto T, et al. Jpn Heart J 1976; 17: 611)、次いで左室造影(Yamaguchi H, et al. Am J Cardiol 1979; 44: 401)によりその存在が証明されました。

家族性の非対称性中隔肥大型とは成因が異なり、家族内発症は稀で、中高年男性に多く、軽症高血圧の合併が多いことなど、後天性因子との関連が報告されています(Koga Y, et al. J Cardiogr Supp 1985; 15: 65)。心電図胸部誘導での巨大陰性T波(giant negative T waves、図1)を伴う左室高電位および、心エコー図においてスペード型の拡張末期左室長軸像(図2)が典型的所見です。

図1 心尖部肥大型心筋症における巨大陰性T波
鈴木図1.jpg

図2 心尖部肥大型心筋症の心エコー図
鈴木図2.jpg


心尖部肥大が高度になると高頻度に心筋灌流が障害され(杉原洋樹ほか. 呼吸と循環 1993; 41:1089)、長期の観察によると特徴的な心電図所見が消失することはまれでなく(Nakamura T, et al. J Cardiol 1990; 20: 635)、ときに心尖部心室瘤を合併することが報告されています(Nakamura T, et al. J Am Coll Cardiol 1992; 19 : 516)。

心尖部肥大型心筋症はわが国の肥大型心筋症の20-30%を占め(Yamaguchi H, et al. Am J Cardiol 1979; 44: 401)、診断時の年齢は50歳代にピークがあり、無症状の患者も多く、医療機関受診の契機は心電図異常が53%と報告されています(松原欣也, 肥大型心筋症, 金芳堂, 京都, 128, 2000)。

心電図経過をさかのぼれば正常心電図の時期が確認できることがあり、左室高電位と胸部誘導の陰性T波の深さと広がりが進行し、QT時間は延長してきます。さらにピークを迎えた後に安定するか、左室高電位と陰性T波が減高して特徴的な心電図所見が消失する症例もあり、心尖部の心筋変位を示唆する所見と考えられます(Koga Y, et al. J Am Coll Cardiol 1995; 26: 1672)。

60例の本症を6.3年にわたり経過観察したところ11例(18%)に何らかの治療を要する合併症を生じたと報告されています(松原欣也, 肥大型心筋症, 金芳堂, 京都, 128, 2000)。加齢に伴い心房細動や徐脈性不整脈が生じることがありますが、概ね予後良好です(Eriksson MJ, et al. J Am Coll Cardiol 2002;39: 638)。しかし、注意すべき病態は心尖部心室瘤の発生です。小さなものも含めると15%に心尖部心室瘤の合併を認めます(Nakamura T, et al. J Am Coll Cardiol 1992; 19 : 516)。

瘤の発生過程は胸痛を伴う急性心筋梗塞様の経過はまれで、多くは無症状のうちに形成され、致死性心室性不整脈や壁在血栓に伴う全身塞栓症を契機に診断されたケースも散見されます。瘤のサイズが比較的大きい症例では特徴的心電図所見は消失して胸部誘導でのST上昇や異常Q波がみられることがあります。
 

(2014年10月公開)

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心尖部肥大型心筋症は心尖部心室瘤の合併に注意する。

回答:鈴木 健吾

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