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高血圧 Question 7

高血圧の患者さんは腎機能が低下していることが多いですが、降圧薬の使い方に注意すべきことはありますか

■はじめに

高血圧患者さんでは腎障害を合併する頻度が高いこと、血圧が高値であるほど腎障害の進行速度が増すことが多くの臨床研究や疫学研究によって示されています。

逆に、腎障害が強いほど血圧が高くなることは日常診療においてしばしば経験され、血圧と腎機能とは緊密な関係にあるといえます。

「腎機能」には二つの意味合いがあります。「糸球体濾過量」と「蛋白尿」で、対応するパラメーターはそれぞれ推定糸球体濾過量(eGFR)と微量アルブミン尿になります。

腎機能が低下した、いわゆる慢性腎臓病(CKD)合併の高血圧患者さんに対しては、eGFRを保持し、かつ微量アルブミン尿を抑えることを目的とした降圧薬が選択されます。もちろん十分な降圧効果を合わせ持っていることも重要なポイントです。

2014年の高血圧治療ガイドラインでは、CKDを合併する高血圧患者さんの降圧目標を、蛋白尿「無」では140/90mmHg、「有」では130/80mmHgと定められています。CKD患者さんで最初に推奨される降圧薬は、レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ARB)とされています。

ARBは降圧効果だけでなく、糸球体内圧低下作用に続く尿蛋白減少効果、糸球体硬化進展抑制などの腎保護作用を有しています。しかし、CKD患者さんでは降圧目標と蛋白尿減少の双方を達成するために他の降圧薬を併用することが少なくありません。

ARBに併用する降圧薬として、降圧作用が迅速かつ確実なカルシウム拮抗薬が選択されます。最近、腎糸球体の輸出細動脈を拡張することにより尿蛋白を減少させる作用を持つカルシウム拮抗薬が注目されています。β遮断薬やα遮断薬については、エビデンスは乏しいですがCKDの進行抑制には期待できそうです。

■CKD患者における降圧薬使用の注意点

ARB投与後に血清クレアチニン値が上昇することがあります。したがって腎機能が中等度以上(eGFRが60mL/min/1.73m2未満)低下したCKD患者さんに対しては低用量のARBから始めます。開始後クレアチニン値の上昇が30%未満であれば投薬を継続、30%以上またはカリウム値が5.5mEq/L以上となるようであれば薬剤を減量ないし中止します。

CKDの有無にかかわらず、高齢患者さんでは脱水、発熱、絶対的または相対的血圧低下によりクレアチニン値が容易に変動します。日頃から水分補給を怠らないよう意識し、血圧と体重の測定を行うなど自己の体調管理に努めることが重要です。

夏季は発汗による血管内脱水によってクレアチニン値やカリウム値が上昇することがあります。特に、利尿薬を服用している患者さんは異常値が出やすくなるので、このようなとときはいったん利尿薬を休薬し、腎臓・高血圧専門医に相談することが大切です。

冬季は収縮期血圧が10mmHgほど上昇するうえに、寒冷暴露による急激な血圧上昇のため腎機能が悪化することあります。場合によっては寒い期間のみ降圧薬を増量する必要があるでしょう。血清クレアチニン値の上昇を招く背景因子をに示します。

表 血清クレアチニン値が上昇を招く背景因子

(日本腎臓学会CKD診療ガイド2013より引用)
 

腎動脈の狭窄(特に両側性)
非ステロイド系抗炎症薬
免疫抑制剤(シクロスポリン)
心不全
脱水(下痢、発熱、利尿薬など)
水腎症などの尿路系の異常
絶対的ならびに相対的な血圧低下

(2014年10月公開)

Only One Message

RA系阻害薬は腎保護に効果的な降圧薬ですが、CKD患者さんでは服用による腎機能の悪化を招くおそれがあり注意が必要。

回答:伊藤 隆英

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