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心不全 Question 21

強心薬のピモペンダンはどういう薬剤ですか

以前には、血行動態の破綻が慢性心不全の本態と考えられていたため、強心剤のジギタリスや利尿薬が最初の治療として行われていました。しかし、予後改善のためには代償的に活性化された神経体液因子のコントロールがむしろ重要であることがその後の研究で明らかになってきました。

β遮断薬やレニンアンジオテンシン系阻害薬は慢性心不全患者において生命予後改善効果が証明され、各種ガイドラインでもこれらの薬剤はより早期からの使用が推奨されています。これらの標準的治療を行っても反応が不十分で、日常生活が困難な患者において考慮されるのがピモペンダンです。

ピモペンダンはCa2+感受性増強作用による陽性変力作用とphosphodiesterase type III (PDE III) 阻害作用による心収縮力増加により効果を発揮し、全身の血管抵抗や左室拡張終期圧を減少させることによって心機能を改善させます。中でも特徴的なのがCa2+感受性増強作用による心筋収縮力増強であり、これはエネルギー効率の上で有利に作用すると同時にCa2+過負荷をもたらさないため、不整脈の出現や細胞障害、細胞死などの危険性が少ないとされています。

EPOCH研究(The EPOCH Study Grooup: Circ J, 2002)は日本で行われた心不全治療に関するピモペンダンの長期効果を検討した報告です。安定した慢性心不全患者(NYHA分類II-III、左室駆出45%未満)に対しピモペンダンを投与しプラセボ群と52週にわたり比較しています。結果は、総死亡や入院率に有意差を認めなかったものの、心不全による死亡、突然死、心不全の悪化による入院は実薬群において45%少なかったことが報告されました。また、Specific Activity Scale (SAS)を用いた身体活動性の評価においては治療前後で1 Mets以上の改善を認めました。以上よりピモペンダンは死亡率の上昇なしに生活の質が改善される可能性が示されました。

ガイドラインに準じた治療が必要な時代ですが、日本循環器学会の慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂)によると、「生命予後の改善のみが慢性心不全治療の最終目的ではないとの見解に立てば、経口強心薬の臨床的有効性を再考慮すべきである」との観点から、特に重症心不全におけるQOLの改善や静注強心薬からの離脱(Class IIa エビデンスレベルB)、β遮断薬の導入が困難な場合(Class IIb エビデンスレベルB)その使用が勧められています。

医療技術や薬物治療の進歩により以前なら救命できなかった症例が助かるようになりましたが、その一方で治療困難な難治性心不全患者も増えています。特に高齢化が本格化する本邦においては生命予後のみならず患者のQOLを念頭においた心不全治療が今後ますます重要になると思われます。

(2014年10月公開)

Only One Message

重症心不全において標準治療で効果が不十分な場合、生命予後やQOLを慎重に判断の上ピモペンダンを考慮する。

回答:林  学

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