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診療のヒント100 メッセージはひとつだけ

心不全 Question 11

夜間の呼吸苦を訴える患者さん。肺と心臓の疾患を見極めるヒントはありますか

呼吸苦=呼吸困難を来す原因は数多くあるなかで、『夜間呼吸困難』はうっ血性心不全と気管支喘息を疑います。この二つを見極めるポイントはやはり問診と身体診察所見です。

うっ血性心不全に伴う呼吸困難(発作性夜間呼吸困難)は、夜間就寝時臥床にて静脈還流が急激に増加した際に起こりやすく、そのための肺への血液貯留は約2~3時間を要すると言われています。したがって、問診にて入眠後・就寝後に息苦しくて寝ていられなくなるまでの時間を確認することは、肺うっ血によるものか否かを判断するポイントとなります。

同時に日常の身体診察所見、視診、触診、打診、聴診を行うことが重要です。うっ血性心不全で夜間呼吸困難を来すような患者さんは、通常の生活の中にも多少なりとも心不全状態があるはずですから、普段の日常診療でそのわずかな兆候を見逃さないこともポイントです。(飛び込みの患者さんなら致し方ないですが、かかりつけであれば気にしておきましょう。)

頭の天辺からつま先まで所見をとるのは大変ですから、そこで押さえておくと便利なのがフラミンガムの心不全診断基準(Framingham criteria)です。大症状9項目と小症状7項目のうち身体診察で確認できるのが、頸静脈怒張、肺ラ音聴取、心拡大、Ⅲ音聴取、下腿浮腫、肝腫大、胸水貯留、頻脈(120回/分以上)の有無の8つあります。(夜間咳嗽や労作時呼吸困難は始めに訊いておきましょう。)

外来血圧測定時に脈拍数も確認しておけば少なくとも頻脈かどうか除外できます。(自動血圧計なら同時測定できます。) (高血圧治療ガイドライン2014にも記載されています。)

頸静脈は通常座位では見えません。座位で頸静脈が見えればもちろん、45度の半座位の姿勢で胸骨角から4.5㎝よりも高いレベルまで頸静脈が見えたら静脈圧は上昇していると考えられます。

胸部診察で心尖拍動の位置を確認しておきましょう。患者さんの上着を捲り上げただけでも見えることもありますが、できれば脱いでいただきましょう。心尖拍動は、正常では第5肋間と鎖骨中線とが交わる部位の内上方にあります。鎖骨中線より外側かつ下方第6あるいは第7肋間へ移動していれば心拡大(左室拡張)が疑われます。

聴診器で時々呼吸音と心音を確認しておきましょう。過剰心音であるⅢ音は外来の環境音により聴き取れないことありますが、聴こえれば聴診器を当てた甲斐があります。(Ⅲ音の感度は40~50%、特異度は90%です。) 
 こんな患者さんが、『夜寝ると息苦しい』と言われたらうっ血性心不全かもしれません。

参考資料
・ハリソン内科学第3版
・文光堂 内科学
・医学書院 内科診断学

Only One Message

常に気にして見ているつもりですが、心疾患と肺疾患の鑑別は難しいことが多く、レントゲンや心エコー検査に頼る日々です。

回答:有川 拓男

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