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心不全 Question 3

心不全の患者さんになぜβ遮断薬を使うのですか

β遮断薬は一般的に陰性変力作用をもつ薬ですので左室の収縮力を落としてしまいます。ところが、左室収縮能が低下している心不全の患者さんたちにおいてこのβ遮断薬は大変に有効な治療薬として広く使用されています。

このことは、左室収縮が低下した症例での心不全治療の歴史をふりかえることで理解しやすくなります。1970年代までは心不全治療薬といえばジギタリスと利尿薬が中心でしたが、1980年代に心臓の収縮を強くする強心薬こそ心不全患者の予後を改善するのではないかと考えられ、いくつもの強心薬、とくにPDE III阻害薬、による臨床治験が行われました。しかしながら、ほとんどすべての強心薬で心不全患者の長期予後を改善することはできず、それどころか、むしろ悪化させるという結果が出てしまいました。現在まで長期予後をはっきりと改善する強心薬はほぼないと言えます。

この頃、亜硝酸薬と血管拡張薬の併用(V-Heft試験1986)が心不全の予後を改善するとの報告がなされました。

一方、強心薬とは反対に、心不全患者において亢進していると考えられる交感神経やレニンアンギオテンシン系の活動性を抑えるような薬が、心不全患者の長期予後を改善する事がわかってきました。1980年代後半から1990年代初めに報告されたCONSENSUS 1987、SOLVD 1991といった試験では、ACE阻害薬の長期投与により初めて心不全患者の予後を大きく改善できたという大変に印象的な報告がなされました。

β遮断薬による心不全の治療はWaagsteinらが1975年に著効例7例を報告して以来、小規模試験が続けられていました。ACE阻害薬が心不全の標準療法となる中、1990年代後半には、これにβ遮断薬を追加することでさらに心不全患者の予後が改善するという大規模試験の報告(US Carvedilol Heart Failure Study 1996、CIBIS-II 1999、MERIT-HF 1999)が相次ぎました。

US Carvedilol HF study(1996年)ではcarvedilolがplaceboに比べ死亡を65%も低減させました。

CIBIS-II(1999年)ではbisoprololがplaceboに対して死亡率、心血管死、入院リスクを低下させました()。
 


図 CIBIS-II (CIBIS-II Investigators and Committees: Lancet 1999, 353: 9-13)
池ノ内CIBIS.jpg


MERIT-HF(1999年)ではmetoprololがplaceboと比較して全死亡、突然死、心不全悪化による死亡を低下させました。

以降、ACE阻害薬、β遮断薬は今日に至るまで慢性心不全の標準治療薬として広く受け入れられるようになりました。

またRALES試験(1999年)によってアルドステロンブロッカーを追加することで、さらに心不全患者の予後が改善することもわかりました。

現在ではガイドラインでもこれらの薬剤を比較的早期から使用することを推奨しています。

左室収縮能が高度に低下した場合でも、β遮断薬の投与量を少量から開始し、漸増させることで大きな効果が期待される場合が多いと考えられています。

多くの症例でレニンアンギオテンシン系の阻害薬、β遮断薬、アルドステロンブロッカーを併用することで左室収縮期径の病的拡大、いわゆるリモデリングを抑制あるいは改善し、左室収縮能の悪化を防ぎまたは改善する事が可能であり、長期予後にもよい効果がもたらされると考えられます。

β遮断薬の種類はどの薬でもよいというわけではありません。降圧薬として広く使用されているアテノロールに代表される水溶性のβ遮断薬の効果は必ずしもよくありません。一方、脂溶性のβ遮断薬は心不全治療に有効で、特にカルベジロール、ビソプロロールの有用性が広く確かめられています。本邦においても、この二剤が心不全治療におけるβ遮断薬の代表選手と言えるでしょう。

Only One Message

左室収縮能の低下した心不全患者においては、交感神経遮断薬の投与は大変に有効と考えられます。

回答:池ノ内 浩

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