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不整脈 Question 26

神経調節性失神はどういう病気ですか

はじめに失神とは一過性の全般性脳血流の低下により引き起こされる一過性の意識消失と定義されます。失神の場合、数分以内(多くは1分以内)に意識は回復します。意識の回復が遷延する場合は失神ではなく意識障害と診断します。

神経調節性失神は、排尿、咳嗽、嚥下、食後などの特定の状況で発症する状況失神、恐怖、疼痛、驚愕など情動ストレスにより惹起される情動失神、および血管迷走神経反射による失神を総称する概念とされています()。

図 神経調節性失神
丹野神経図.jpg
 

誘因となる刺激の種類や圧受容器、中枢への神経求心路は異なりますが、共通して脳幹の循環中枢に刺激が達し、遠心路として交感神経の緊張が低下し末梢血管の拡張が起こり、同時に遠心路としての迷走神経の亢進がおこり心拍数が低下します。その結果血圧低下と徐脈により脳血流は低下し失神にいたります。

これはすべての人が有する生体反射であり、健常な人でも状況によってはこの反射により失神することがあります。この失神を病気と捉えるならば、このような反射が起こりやすい体質を有した人が患者と診断されます。最近、神経調節性失神は、反射性失神という呼称に統一されました。

失神の診断は全般性脳血流低下と意識消失の関連を証明することです。失神発作時の状況から反射性失神の診断は可能ですが、疑わしい場合にはHead up Tilt試験が用いられます。Head up Tilt試験で誘発される神経調節性失神は以下の病態が考えられています。

通常、起立することにより横隔膜以下の容量血管に血液が貯留し静脈還流量が減少し、左室充満圧の減少と心拍出量の減少がみられ血圧が低下します。これに対し、動脈の圧受容体からの求心性インパルスが減少し、血管運動中枢、副交感神経心臓抑制中枢に対する緊張性抑制が解除され、遠心性交感神経活動の亢進と遠心性副交感神経活動の抑制が起こり血圧は保たれます。

しかし、この過程で容積が減少した心室に陽性変力作用が加わると心過動状態となり、求心性無髄性迷走神経線維(C fiber)に連続する心室圧受容器が発火します。この求心性インパルスは延髄孤束核で線維を変え血管運動中枢を抑制し、副交感神経心臓中枢を亢進させ、遠心性交感神経の抑制と副交感神経の亢進が起こり、血管拡張、心抑制、徐脈となり失神が生じます。朝礼等での同一姿勢の長時間の起立位はこのような神経調節性失神の誘因となります。

反射性失神治療の主目的は失神再発の予防です。ます初めの治療は患者教育です。失神がおきた病態を理解させ、その病態の予防法を教育します。それでも失神が再発しそうになった時、すなわち失神の前兆を感じた時には、どう対処すれば失神を予防できるかを患者に教育します。

患者教育のみで失神を予防できない場合には、Tilt training、薬物治療、or ペースメーカ治療等により失神の再発を予防します。反射性失神のみを有する患者の予後は良好であり、失神患者の生命予後は基礎心疾患に依存します。ただし生命予後は良好でも、不適切・不十分な治療では失神の再発により外傷や生活の質の低下の原因となります。

Only One Message

失神の原因は多岐にわたり、正確な診断と治療が予後を変えます。

回答:丹野 郁

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