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不整脈 Question 25

心電図の自動診断でQT延長と書いてありました。見た目はそれほどのQT延長でもなく症状もありません。こうしたときの考え方を教えてください

先天性のQT延長症候群(long QT syndrome; LQTS)は、心筋イオンチャネルの異常によって再分極異常(QT延長)を呈し、倒錯型多形心室頻拍(torsade de pointes; TdP)を生じ突然死を来す遺伝性不整脈の代表的疾患です。LQTS全体での突然死の頻度は年間約2%といわれ、突然死を避けるためにLQTSの診断は重要です。

LQTSの診断にはSchwartzら1)により報告された診断基準を用いることが多いですが、QT時間の延長が重要な指標のひとつです。QT時間は心拍数により影響を受けるため通常心拍補正した値(QTc)を使用します。QT時間の補正式はBazettの補正式が有名ですが、使用している心電図計の自動診断が、この補正式を使用しているとは限りません。

また小児のように心拍数が高い場合には過大評価しやすくなるため小児循環器学会のガイドラインでは、Fridericiaの補正式QTcF=(QT間隔)/(RR間隔)1/3を推奨しています。LQTSの診断にはQT時間以外にも心電図波形そのものの確認や、あるいは本人の自覚症状、家族歴を確認することが重要です。

またQT延長は後天性(二次性)にも生じます。原因として抗不整脈薬(ベプリジールなどK?チャネル遮断作用のある薬剤)、向精神薬(三環系・四環系抗うつ薬など)、抗生物質(エリスロマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシンなど)、抗真菌薬(ケトコナゾール、イトラコナゾールなど)、抗潰瘍薬(シメチジン、ファモチジンなど)などの各種薬剤、房室ブロックや洞不全症候群による徐脈、電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症、低カルシウム血症)があげられます。単一要因ではQT延長が軽度でも複数の要因が重なるとQT延長が助長されることもあるため注意が必要です。

では質問にあるように、QT時間は確かに若干延長しているが、「症候群」の診断に至らない場合はどうするか?

LQTSは学校生活管理上極めて重要な疾患であり、また学校心臓検診にて発見される例が少なくありません。そのため2013年に小児循環器学会から「器質的心疾患を認めない不整脈の学校生活管理指導ガイドライン」が発行され、そこには心電図上のQT延長があっても症状がない場合は、「安静時のQT延長が軽度で、家族歴がなく、運動負荷でQTcが延長しない場合の管理区分はE禁(体育などは運動強度が強くてもかまわないが運動部活動は禁止)、またはE可(運動部も許可)、水泳は監視下で行う」と記載されています(ただし、6ヶ月から1年の間隔で経過観察は必要)。

すなわちLQTSの慎重な否定は必要ですが、QT時間が多少長いというだけで症候群の診断に至らないものは生活、運動の制限は不必要だといえるでしょう。

参考文献
1) Schwartz PJ, Moss AJ, Vincent GM and Crampton RS. Diagnostic criteria for the long QT syndrome. An update. Circulation. 1993;88:782-4.

Only One Message

QT延長「症候群」と診断できなければ、むやみな生活・運動制限を課してはいけない。

回答:岩崎 順弥

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