日本心臓財団刊行物

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耳寄りな心臓の話(第7話)『血管音で血圧を計る』

『血管音で血圧を計る』
−リバロッチ(1896年)、コロトコフ(1905年)−

 

川田志明(慶応義塾大学名誉教授、山中湖クリニック理事長)

 

 心臓病や動脈疾患の診断には血圧測定は不可欠です。正常の血圧はほぼ120/80?Hgとされていますが、いつ頃から血圧は計られるようになったのでしょうか。幕末から明治にかけて洋学者、啓蒙家として活躍し一万円札の肖像にもなっている福沢諭吉は20世紀に入ったばかりの1901(明治34)年に脳卒中でなくなりましたが、血圧計のない時代のことで高血圧が原因だったかどうかは明らかでありません。また、アメリカの大統領・フランクリン・ルーズベルトは史上初の四選を果たしましたが、200を越える高血圧に悩まされながら第二次大戦の終戦を見届けることなく1945(昭和20)年に脳出血で急逝しました。この時代には血圧を下げることは危険視され、降圧剤は未だ用いられていませんでした。

 

牧師ヘイルズによる馬の血圧測定
 血圧測定を最初に試みたのは英国の牧師ヘイルズで、もともとは樹木の樹液が梢まで送られるメカニズムに興味をもったことからの実験でした。彼は馬の頸動脈に真鍮のカテーテルを挿入し、アヒルの気管でつないだガラス管を直立させて動脈血がどこまで昇るかを測定したのです。ガラス管は2.7mもの高さになったといいますから、屋外だったからできたものの、屋内の実験では天井が邪魔になったに違いありません。


 また、ヘイルズはU字型の水銀マノメーターを発明し、これを用いることで水銀の高さは血液の13.6分の1と僅か20?の高さになって、屋内での実験も可能になりました。


 因みに、血圧は心臓から頭の天辺まで血液を押し上げる力によって決まることから、背の高いキリンでは260と高く、馬で200、アヒル180、豚169、犬112?Hgなどとなっています。


 このように、英国のハーベーが血液循環の原理を発表した1628年から実際に血圧を測るまでに、実に100年もかかったことになります。この後、ドイツの生理学者ルードウイッヒが水銀柱にフロートを浮かべて血圧の変動を紙に記録できるようにしましたが、動物の動脈を刺しての直接的な血圧測定で、人の血圧測定には応用しがたく実用的ではありませんでした。

 

リバロッチの血圧計とコロトコフ音
 1896(明治29)年イタリアの医師リバロッチがカフを利用して人の血圧を正確に計る方法を開発しました。現在広く用いられている血圧計の原型で、圧迫帯(マンシェット、カフ)と加圧のためのゴム球、水銀圧力計、これらを連結するゴム管と弁により構成されたもので、簡便な脈拍触診血圧測定法が確立されたのです。


 手首の撓骨動脈を同時に触診しながら、マンシェットを加圧して脈拍の消失する時の血圧(現在でいう最高血圧収縮期圧)のみを求めていましたが、1905年になってロシアの血管外科医コロトコフが聴診器を用いて最低血圧(拡張期圧)も計れる血圧測定理論を示しました。


 コロトコフ音の発生原理としては、動脈硬化などで狭くなった動脈上ではブルーと呼ばれる血管雑音が聴取されますが、カフによって腕が強く圧迫されると動脈の流れは制限されて血管内で乱流が起こり血管雑音が生じます。上腕(二の腕)に巻いたカフの下方に当てた聴診器で血管雑音が聞こえ始まる点を最高血圧とし、さらに圧を下げて血管雑音の消失する点を最低血圧とします。


 以来現在まで、水銀血圧計(リバロッチ型)を用いたリバロッチ・コロトコフ法が血圧測定の標準的な方法となっていますが、ほかに電子工学的な原理による空

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気血圧計であるアネロイド血圧計(タイコス型)もみられます。

 

家庭での自動血圧測定
 最近では家庭で用いる自動血圧計が普及していますが、多くは聴診器を用いないオシロメトリック法による電子(自動)血圧計で、心臓の収縮によって起こる血管の振動が血管雑音の発生・消失とほぼ同タイミングで変化する性質を利用し、これを圧力センサーを使って測定するものです(図)。


 自動血圧計といっても正しく測定するには、測定直前の食事、喫煙、膀胱充満などを避け、寒冷、騒音を防ぐなど血圧に影響を与える環境条件を整える必要があります。5分以上安静の後に座位で測定し、測定中の会話は避ける、上腕を締め付けるシャツを着ている場合は脱衣する、カフの位置は心臓と同じ高さに保つなどの注意も必要です。


 また、24時間血圧測定によれば、血圧正常者にも血圧の日内変動がみられ、一般に昼間は高く夜間は低いなど平均して15?20?Hgの変動があることから、家庭で血圧を測定するには朝、夕方などの時間を決めて計るのがよろしいでしょう。


 外来診察室での血圧は一般に家庭血圧より高いとされていますが、白衣高血圧のような一時的な緊張による動揺性の高血圧を示す人もみられますから、家庭で落ち着いて測るのが最もよい方法かも知れません。

(図) 伝統的な水銀圧力計と最新のコンピューター技術がドッキングした自動血圧計2種

 
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