メディアワークショップ

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第21回 健康を支える働き方改革「スローマンデー」の勧め―血圧と心拍数が教える健康的な仕事習慣―

診察室で測定する血圧が正常であっても、それ以外の場での血圧が高いことを「仮面高血圧」といい、持続性高血圧と同様に心血管事故が高頻度に出現することが知られている。この仮面高血圧の重要な部分を占めるのが、職場のストレスが原因で血圧が上昇する「職場高血圧」である。一般的な勤労者では、仕事が始まる月曜日の午前中に心血管事故が多発するということが世界的に認められているが、その理由について検討されたことはなかった。今回、木村玄次郎氏は、労働者健康安全機構29施設の共同研究として行った職場高血圧に関する調査研究の結果について講演した。

職場高血圧に関する調査研究

突然死や心血管事故が月曜日の午前中に多く認められることは、これまで複数の疫学調査で報告されてきた(図1, 2)。その原因として、木村氏らは、「職場のストレスが仕事中の血圧を上昇させる」、「休日に比べ、週日(金曜日より月曜日)で血圧を上昇させる」、「その血圧上昇が、心血管事故を誘発する」といった仮説を立て、勤労者を対象とした調査研究を実施した。
調査の詳細は以下の通りである。
対象:日中かつ週日のみ就労している20歳以上、65歳未満の典型的な勤労者(平均年齢51歳)。男性114名、女性93名、計207名。安定した高血圧患者。
除外基準:職場以外のストレスが明らかな方。6ヵ月以内に心血管疾患の既往。
月曜・金曜・休日(土曜または日曜)の週3日間において、1日の内の起床時・午前10時・午後4時・就眠前に血圧と心拍数を測定。測定後、電話回線にて自動転送される。

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図1. 突然死や血圧上昇の月曜特異性

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図2. 心血管事故の起こり易い時間帯

勤労者では月曜の午前にダブルプロダクト(収縮期血圧と心拍数の積)が有意に上昇

調査の結果、月曜の午前の血圧に有意な変化は認められないという仮説と異なる結果が得られたが、その一方で、心拍数においては月曜の午前に他の曜日にはない明らかな上昇のピークが認められた。そこで、木村氏らは収縮期血圧と心拍数の積である「ダブルプロダクト」を用いて、調査結果を再度検討したところ、金曜・休日と比較して、月曜の午前に有意な数値の上昇がみられた(図3)。結果として、ダブルプロダクトは心血管事故の強力なリスク因子であるという、国際的にも新しい知見が得られた。ダブルプロダクトは収縮期血圧と心拍数の積で求められ、心臓にかかる負荷と心臓及び全身の酸素消費量とも比例するパラメータであるため、収縮期血圧単独で検討するよりもリスク判定に有用であることが示唆された。

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図3. ダブルプロダクトの上昇

勤労者のストレスに関連して、「サザエさん症候群」という言葉があるが、これは、日曜の夕方以降、ちょうどテレビアニメの「サザエさん」が放送される時間帯以降から、翌日からの仕事を憂鬱に感じることを表している。今回の調査では、この「サザエさん症候群」が現れる時間帯にはダブルプロダクトの上昇は認められず、あくまでも月曜の午前中に数値が上昇するということがわかっている。

次いで、木村氏らは正常血圧の勤労者のみを対象とした、職場高血圧に関する調査結果の第2報を報告した。その結果、全体の45%が健康診断では正常血圧と診断されていたにも関わらず高血圧であり、38%が厳格な正常血圧、17%が職場高血圧であることが認められた(図4)。いずれの群でも月曜の午前中にダブルプロダクトの上昇がみられたが、厳格な正常血圧の人では上昇幅が小さい一方、職場高血圧、実際は高血圧であった人では上昇幅が大きくなり(図5)、両者においては心血管事故の危険性が高まると考えられる。

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図4. 職場血圧に関する調査結果第2報における血圧の内訳

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図5. 職場血圧に関する調査結果第2報における血圧の内訳

調査結果のまとめ

1. 勤労者(65歳未満、月~金のみ就労、夜勤なし)では月曜午前の時間帯でダブルプロダクトが上昇していた
2. ダブルプロダクトは最近、血圧以上に心血管事故を予測する強力な因子とされている
3. 今後、月曜午前のダブルプロダクトの上昇が心血管事故と関連しているか明らかにする必要がある

血圧と心拍数の両面から心血管リスクを考える

これまで、血圧上昇によるリスクについては全世界的に注目され、死を規定する5大リスク(高血圧・喫煙・高コレステロール・低栄養・性感染)の中でも最大のリスクであるとされてきた。
また、心拍数は高いほど寿命が短く、遅いほど寿命が短いということが昔から知られている。例えば心拍数が600拍/分近いマウスでは、平均寿命は1~2年であるのに対し、心拍数が50拍/分以下のゾウでは平均寿命は20年を超える。
これらを総合して検討した大迫研究では、心血管死のリスクに関して、心拍数が70拍/分未満の群と比較して70拍/分以上の群ではリスクが2.16倍上昇し、収縮期血圧が135mmHg未満の群と比較して135mmHg以上の群ではリスクが1.65倍上昇、両方の要素が高い群ではリスクが3.16倍になるというデータがある(図6)。
つまり、収縮期血圧と心拍数の両要素、すなわちダブルプロダクトから心血管事故の予防を検討することは大変意義があると考えられる。

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図6. 大迫研究における心拍数・血圧と心血管疾患死の関連

スローマンデーを促進し、健康を守るための働き方改革を

「日本は平均寿命と健康寿命、どちらも世界一位である。米国やイギリス、フランスは順位が低く、日本に次いで高いのは、スウェーデンやスイス、オーストラリアなどである。これからはそうした健康寿命が高い国とも密にコミュニケーションを取り、議論を深めることが大事なのではないか」と木村氏は話す。
現在は消費を促進し、企業収益を増やすことを目的としたプレミアムフライデーが話題となっているが、「健康を守るための働き方改革として『スローマンデー』を促進し、月曜日の仕事はゆっくり着手することも大切である」と、木村氏は講演を締めくくった。

働き方改革への提言

1. 月曜日の仕事着手は可及的スロースタートで
2. 金曜日に予め、月曜日の予定を整えておく
3. 月曜午前のダブルプロダクト上昇は仕事ストレスの表現とみなす
4. 労務管理者との面談も考慮

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